第3話 裕一郎の場合

文字数 1,191文字

翌日の夕刻、四条大橋近くにある鴨川沿いの喫茶室で浩二と待ち合わせる。
店のテーブルは、道を挟んで正面に鴨川が見えるカウンター式になっている。
ランチタイムもだいぶ過ぎた時間帯なので空席も目立つ。
待つこと5分、カウベルを鳴らして浩二が入って来た。
僕を見つけ「やあ」と軽く手を上げ隣に来て座る。
「早速やけど、そのチケット見せてよ。」
言われるままチケットを渡すと・・・
「・・・・・・・」
「どう思う、浩二?」
「どうもこうもないさ、こういうものは信用してかかった方が面白いんじゃないのか!」
「そりゃそうなんだけど、ヤバイ事に巻き込まれたりしないだろうか・・」
「ヤバそうだたらすぐに退散しちまえばええやないか」
「確かに」
「この住所は多分、祇園の骨董街のはずれあたりだな」
「八坂の北あたりだと思う」
「よし、まずはこの住所の所まで行ってみるか。」
「わかった、そうしよう」
その後30分程ふたりで空想を広げて店を後にした。

四条花見小路をまっ直ぐ八坂神社の鳥居に向かって進む。
空は梅雨空で黒い雲が低く広がり、いまにも雨が降り出しそうだ。
東大路通りに出た僕らは左に折れて北に向かう。
骨董店が立ち並ぶ街並みの少し外れた裏に入ると、その店はあった。
「あったぞ!浩二」
【花見堂】と言う看板が掛かる店だ。ここも骨董屋なのだろうか。
「外から見る限りでは普通の骨董屋だな。よし、入ってみるか!」
「わかった。」意を決して僕が先頭になり入口に進む。
ガラスの張られた引き戸を開けて中に入る。
「こんにちは・・・」
「・・・・・」店内には人影がない。
二人は顔を見合わせ、今度は浩二が奥に向かって「ごめんやす・・・」
「はーい」奥から店の主人らしき初老の男が現れた。
「はいはい、おいでやす。」
僕は恐る恐るチケットを出して、「こちらで、この券を出すと引き換えてもらえると聞いて・・・・」
「あーそれね、ちょっとお待ち下さい。」そう言うと、男は再び奥に消えて行った・・・・それからの時間がとても長く感じたのは、たぶん浩二も一緒だったろう。
程なくして、小さな木箱を持て男が現れた。
「あたしどもも、何だか訳の分かれへん物を預かりまして、お代は先に頂いとるのどすが、必ず取りに来る人がいるので店に置いてくれと言うもので、預かるには預かったんどすが、これはなんなんどすか?」
「僕らも代理で着たものでよくわかれへんんです」
咄嗟に浩二が答えた。
そう言うと僕の手からチケットを取り上げ店主に渡し、木箱を受け取る。
「おおきに」そう言うと店の外に飛び出して行った。
僕は慌てて、外に出る浩二を追う。
その二人の背中に店主の声が掛かる
「毎度おおきに」
外は既に小雨が降り出していた。
暮れ始めた祇園の街並みに、店々の行燈に明かりが入り、雨で濡れた路面の石畳をキラキラと光らしている。
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