第2話

文字数 2,225文字

 諦めきれない凛子は渋るゲンを連れて家に帰ると、村長は歓迎の意を表して食事を振舞い、なけなしの酒を交わしながら言った。「もしこの村を救ってくれるのなら、凛子を嫁にくれてもいい」と。凛子は照れながら器用に食器を片付けている。
 久しぶりの美酒に酔ったせいもあり、つい二つ返事のゲンであった。その決断こそが、やがて深刻な事態を招くことになろうとは、知る由もなかった。

 それから程なくしてKONGの刺客を名乗る三人の男が現れた。先日の男の敵討ちという訳である。彼らはゲンの前に立ちはだかると、大声で喚き散らした。
「お前がゲンシロウか。この前はウチの奴が世話になったみたいだな。キサマの怪しげな技なんてどうせハッタリだろ? あいつはお前の脅しに怯えていたが、俺の目は誤魔化せねえぜ」
 するとゲンは虚勢を張る。
「信じるか信じないかはお前らの勝手だ。だが、死にたくなければすぐに立ち去るがいい。俺も余計な血は流したくないんでな」
「ほざけ小僧! KONGの恐ろしさ、思い知らせてくれるわ!!」
 棍棒を振り回して意気込む三人に、顔を引きつらせて及び腰のゲン。しかし彼には秘策があった。
「ちょうどいい。面白い見世物がある」
「何だと?」
 ゲンは近くにある小屋まで歩くと、その影から縛られた男を引っ張り出した。
「こいつはコソ泥だ。大事な稲を倉庫から盗み出そうとしていたところを、さっき取り押さえた。コイツが死ぬところを見ても、まだ強気でいられるかな?」
 するとゲンは縛られた男の胸ぐらをつかむと、小屋の前に立たせながら三メートルほど手前に陣取り、その手を男に向けた。刺客の三人は固唾を呑みながらその様子を眺めている。
 縛られた男は震えながら必死で叫んだ。
「頼む。出来心なんだ。殺さないでくれ~!」
 しかしゲンはそれに構わず、その手を怪しげに動かした。
「東北東真拳必殺奥義。東北東爆裂拳! うおちゃ!!」
 中指を立てて両手を前に突き出すと、縛られた男は苦渋の顔で叫び声を上げる。
「止めてくれ!」
「お前はたぶん、死んでいる」
「ひでビ~!!」
 やがて男はその場に倒れながらもだえ苦しみ、やがて動かなくなった。
「こりゃ本物だ。クソ、覚えてやがれ!」
 三人の刺客どもは尻尾を巻いて逃げ去っていった。

「ご苦労だった。バッド、もういいぞ」
 声を掛けると、先ほどの縛られた男はむっくりと起き上がり、笑顔を見せた。
「迫真の演技だったでしょう? これでも芝居には自信があるんです」
 ロープを解きながら、ゲンはバッドと呼んだ男に大丈夫かと声を掛ける。 
「助かった。君の演技力は抜群だ。あいつらもさぞ肝を冷やしたに違いない」
「でもどうしてこんな真似をしなくちゃならないんです? ゲンの実力ならひと捻りでしょう」
「俺は無益な殺生はしない。奴らにはこれくらいで充分だ。もう二度と来ることはないだろう」
「もし来たらどうするんですか?」
「その時は任せてくれ。とっておきの策がある」
 本当は策などありはしない。バッドの手前そう言っただけであった。

 それから村を挙げての宴会となった。ゲンはほろ酔い気分で凛子に近づく。
「おい、リン。前から足が痛いと言っていただろ? 俺の東北東真拳で治してやるから、ちょっとだけ触らせてくれ。決してイヤラシイことをするつもりじゃないから」
「どうかしら。やっぱりただのスケベじゃないの? バッドにあんなインチキまでやらせておいて」
 バッドの野郎。内緒にしておけとあれほど釘を指していたのにベラベラ話しやがって。
「インチキじゃない。俺の力は無限だ。争いごとに使いたくないだけだ」
「その割にはこの前襲われた時にビビっていたでしょう? 目が見えなくてもアンモニアの匂いがしたわ。大丈夫。失禁の事は誰にも言わないから」
 すっかりバレていたとは! さっきの勢いはどこへやら、照れながら縮こまるゲンであった。
「でも、足の痛みが引くのであれば少しくらいなら触ってもいいわよ」
「本当か?」思わずにやけるゲンであった。
「変な所は触らないでね」
 そこでゲンは痛みのあるという左太ももの膝の辺りをさすり出す。そして膝裏の少し上のツボを中指で押さえた。
「うおちゃ!」これで痛みは減少するはずだった。
 しかし凛子の表情は暗いままで、困惑の色を隠せないでいた。
「……ちっとも痛みが治まらないじゃないの。やっぱりただのスケベ親父だったのね!」
 おかしい。そんなはずはない。確かにあの部分のツボは足の痛みに効果があると師匠である親父が言っていた。実際に試すのは今日が初めてであったが。
 すると凛子はふいに立ち上がって、急に目つきが変わると、信じられないといった顔つきで誰ともなくつぶやいた。
「……嘘……見える。見えるわ」
 なんと視力が回復した模様である。
「もう、ゲンったらいじわるね。足を治すフリをして視力を元に戻すなんて。ありがとう。あなたの力を疑ってごめんなさい」
 そうして抱き着く凛子であった。しかしその相手はゲンではなくバッドであった。
「俺はゲンじゃないんだけど……」
「アラ、ごめんなさい、てっきりあなただと勘違いしちゃって」バッドは村一番のイケメンであり、それに比べてゲンのルックスは……ここではそれ以上語るまい。
「凛子。俺だよ俺。本物のゲンはこっち」
 凛子は顔を向けると、顔を微妙に引きつらせて、苦笑いを浮かべた。
「あ、あなたがゲンね。ありがとう。お、恩に着るわ」
 明らかに動揺を見せる凛子であった。
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