平成最後の魂の10日間(6)エンド・オブ・鉄研でいず

文字数 4,704文字

そして、出展は終わった。出展費用の精算、出展レポ動画作成をしているうちにJITBOXが到着した。出展前と同じく、我が家は荷物でいっぱいになった。その整理を少しずつ進めていくうちに、ワタクシには、終わったのだという気持ちが静かに訪れてきた。
みんな、黙って聞いている。
楽しかった日々が、終わった。魂を燃やした日々が終わり、ワタクシは燃え尽きた。

YouTubeにはたくさんのコメントがついていた。皆喜んでくれていた。それも本当にうれしかった。やはりやってよかったのだ。多くを犠牲にした賭けだったが、見返りはあった。

でも何でそんな総裁、悲愴だったんですか? みんな喜んでくれたし、展示もほぼ大成功だったじゃないですか。
後のことを全く考えなければそれでよいのだ。元々後のことなど考えられる生活基盤でもなかった。ゆえ、それでよいのだ。
総裁……でも、総裁は賭けに勝ったんですよ。少なくとも負けはしなかった。少なくとも勝負の場に立ち、存分に戦ったんです。それは紛れもない事実です。ひどいっ。
ツバメさん、ひどくはありませんわ。

総裁はかつて、確かな事実を積み重ねよ、と私たちに教えてくださいました。総裁は確かに事実を積み重ねたのです。揺るぎのない事実を。それは間違いのない勝利です。

しかも今回はミエさんも総裁も無事帰宅できたー。轟沈しなかったー。これは甲作戦Sランク勝利だよー。暁の水平線に勝利を刻むといいよー。
華子には珍しく艦これ用語使って。でもほんと、その勝負に勝ちましたよ。総裁は勝ったんですよ。どんなに金銭的な困難があっても、こんな見事な成功はなかなか収められませんよ。
ほんとそうだと思う。苦難はあった。何度もピンチに遭った。でも、そのすべてでいい方向に行った。最後の走る喫茶室アフターお茶会だって、やらなかったからかえってゆっくり過ごして楽しかったのでは。あの時間にバタバタ町田往復しない方が正解では。結果すべて正解をつかめてますよ。
総裁がそんなに落ち込んでたなんて。私、そんな風に見えなくて。私、鈍感なのかな……。こんなに総裁と一緒なのに、総裁の悩みや苦しみ、理解してなかったのかな……。
そんなことないわ。総裁、今回特にすごく思い詰めてたもの。でも、それだけ頑張ってたから、その後の虚脱も大きいんだと思う。それだけ大きな勝負だったんだもの。そして、それに勝ったんだもの!
鉄道模型とは何か、テツ道とは何か、私は深く考え込んでいた。私にとってそれは特別であり、かけがえのない愛するものなのだ。いや、それ以上のものなのかもしれぬ。


それを、我が著者の編集は、「業」と呼んだ。まさしくそうかもしれぬ。

編集さん、そう言いましたか……。そうかもしれませんね。
業というものはまた難しいもので、好きとか、愛の次元でもない。もうそれ故に苦しんだり、それ故に許せるものが許せなかったり、時に人のメーワクにもなる。それ故安易に肯定などできぬものなのだ。しかし否定すると人格ごと否定することになり七転八倒する羽目になる。否定も肯定もできぬ、業とは生きることそのものなのだ。
総裁の「テツ道」は「業」でしたか。それもまたつらいなあ。でもわかる気がします。それぐらい入れ込んでるから、総裁のやることって心動かされるんです。ぼくらもそうだし。
業であることに気づき、私はしばらく身動きもできなくなるところであった。だが、気づけばこうなっておった。
これは?
壬生くれはさんから預かって返しそびれた車両なり。返却することになったのだが、
返却にあたり、このような識別用ケーススリーブを作成して添付してしもうた。
これは……壬生さん喜んでくれたでしょうに。
確かに喜んでくれた。
そしてこんなスケッチを描き、
3Dモデリングで検証し、
デザイン図を製図し、
種車を導入し、
工作を始め、
それを楽しみ、
また夢見てしまうのだ。どんなに苦しくても、どんなに惨憺たる内情であっても。
それがまさしく、「業」たる所以ですね……むしろJAMコン出展で勢いがさらについてしまったような気すらします。
しかも隔週であるが、水曜2000時にYouTubeの放送をするようになってしもうた。
1000人以上もチャンネル登録者さんがいるんですもの。その皆さんが応援してくれてるのですわ。総裁の業は、総裁一人の業ではないのです。総裁のそれは、みんなの夢になりつつあるのですわ。
その夢を叶えるのが総裁の「テツ道」なんだと思うけどなあ。ひどいっ。
ツバメちゃん、ひどくないよー。でも総裁の暗いつらいところ見れて、ぼくはむしろ、ほっとしたー。
うぬ? それはどういうことであるのだ?
総裁が勝負強かったり判断強かったりしすぎで、まるで小説のキャラみたいで現実味なかったもんー。
華子ちゃん、私たちも総裁も小説のキャラだよ! メタ展開しすぎ!
いくら実録小説になりかけとはいえ、そこは踏みとどまりましょうよ、ひどいっ!
ちょっとやり過ぎ感が確かにひどいかもしれませんわねえ。
でも、総裁の「テツ道」は私たちの夢なんですよ。もう総裁一人の「業」で済ませられるものじゃないですよ。だから、総裁のつらさ、少し私たちにも分けてほしい。たいしたことはできなくても、みんなで少しずつなら、そのつらさが解決できるかもしれない。
こんなオリジナルレイバー、俺イバーも気づけば作っておった。
こんなライブステージカーも作りかけておる。
そしてこんなインレタを作ったり。
なんだ、平常運転だねー。
いろいろやり過ぎなのがいかにも総裁らしいというか。
それでこそわたくしたちの総裁ですわ。
総裁、つらいことはあると思います。でも、総裁は僕らの夢でもあるんです。そしてその夢、「テツ道」の成就を目指して、僕らはエビコー鉄研なんですよ。
私もその仲間ですよ!マイペースすぎたり気づかなかったりだけど、私たち、友達だもの!
みなにそう言われると、そうなのかもしれぬと思う。

ワタクシには自らの業を肯定することなどできぬ。談志師匠ですらできなかったことであるからの。


……でも、ワタクシが生きていく上で、肯定できぬとはいえ、「テツ道」は背負っていかねばならぬのかもしれぬ。

つらいときはおっしゃってください。わたくしにできることならなんでもいたしますわ。
詩音ちゃん、充電能力もすごいけど詩音ちゃんのお父さんの財力もすごいもんね。アメックスのブラックカード持ってるんだっけ。サイン一つで家でもヘリでも買えちゃうって。まるで歩く身代金状態だもんね。密かに。
え、ブラック? お父さまのカードは黒ではなく何か金属製の茶色いカードでしたわ。私にも家族用カードを発行するのかと思いましたら詩音には執事がいるからいらないよね、とおっしゃって。
そ、それ、アメックスのセンチュリオンカードじゃないの……?ブラックカードの利用額無制限だけじゃ足りないってどういうこと……。
富裕層ってほんとにいるんだ……。ひどいっ!
詩音ちゃん! それなら、総裁にさらさらっとサインしてあげてよ! 100千万円ぶんほどすぐ-!
あーあ、華子ちゃん、コーフンしてお金の単位ぐちゃぐちゃだよ。でも総裁に何かいい収入源ないかなあ。みんなで応援しないと。
うぬ、それならワタクシにはすでに支援者さんがおるのだ。
ええっ、ほんとですか!
pixiv FanBOXにもおるぞよ。ほかにも著者も私の軍資金になっておるし、著者もいろいろかき集めておる。
でも著者さんの本、そんな売れてないですよね……。
それが9月の印税報告でわれらの先輩キャラ・シファ殿の活躍するコンフュージョンコントラクトが一月に203冊も売れておった。収入はそれほどでもないが。
ええっ、そんなに!? ひどいっ!
そしてこの鉄研でいず!も収益化計画が進んでおる。
総裁、やっぱりちゃっかりしててしかも悪知恵働くなあ。もしかすると前回の悲壮なシーンって……。
もちろん、「演出」であるのだ。物語には高低差が大事であろう。事実ワタクシはヘコんだのであるが、その最中でワタクシが同時に「これはよい高低差になる!」と思うたのは言うまでもないことである!


レイアウトにも物語にも高低差は正義なのである!

ひいいい! 落ち込むのまで計算尽くなんですか! ひどいっ! 本気で心配した私たちの気持ち、返してください!!
うぬ、今はマイナス金利の時代であるからのう。
金利関係ない! 元本返して!
まあいいじゃない。総裁、ほんといろいろ心配したけど、平常運転じゃない。ダイヤ通りの。それが一番だよー。
ほんとですわ。ところでわたくしのサインはどこにすればよいのでしょうか? いくらほど用立てれば次のJAMコンの出展資金になりますでしょうか。充電の準備もこのとおり、できておりますわ。
ひどいっ! 総裁のケーサンずくなのに! 詩音ちゃんまで!
しかも詩音ちゃん、充電だからって胸を「どやっ」って押し出しちゃだめ! KENZENからますます遠くなるわ!
だって、夢に賭けるってそういうことじゃないー。あとで返してって言うぐらいならはじめから貸しちゃだめ、っておとーさんがいってたー。
華子のお父さん、そう言うとこさすがしっかりしてるよね。さすがテツ道食堂「サハシ」のマスター。
私、その「サハシ」まだ行ったことないんです!海老名のどこにあるんですか!総裁もまだ連れて行ってくれなくて。
もう! みんな総裁に乗せられたりして!
テツ道だもん。乗り物だから乗るんだよー。
さふであろうのう……ところで著者に一走り甘味買いに行かせるのだが、ツバメ君はいらないのか?
まぁた総裁、コンビニ甘味で買収なんて!
コンビニ甘味などいらぬか……残念であるのう。
いります! ミルクレープとフルーツカルピス!
よきかな。オーダーをまとめて著者に買いに行かせて、来年のJAMコンをいかに減力放送で楽しむか、作戦会議するのだ。
減力放送でも参加するんですか?
なかなか難しいがの。お付き合い程度には参加せざるを得ないであろう。そして幸い一番の窮地の8月分の支払いが来る9月末が無事乗り越えられそうであるからの。
じゃあ、鉄研、続くんですか!?
それも含めてこれから検討するのだ。我々は1999年生まれであるのだがもう2018年、間もなく20歳になってしまう。その場合永遠の17歳路線でいくのかもまだ決まってはおらぬ。非実在女子高校生はこういうとき困るのだ。
ええっ、それも決めるんですか?
著者が頼りないから我々が決めるのだ。ゆえ、著者にはパシリでコンビニに買い出しを申しつけるのだ。
ええっ、そうなの?
ええい、とっとと行ってこいやなのである!
総裁の著者いじめ、ひどいよー。
ともあれ、今後の予定はほぼ白紙になった。しかしワタクシの業でもある「テツ道」はみんなの夢でもある以上、実現せざるを得ぬ!
サラリと談志師匠でもできなかった「業の肯定」勝手にしないでください! もー、何でもありだなあ!
それがわが自由形鉄道模型のココロなり!
そしていつものグチャグチャななし崩し……。
これにていったん締めとするのだ。苦情は著者まで! どしどし送りつけるのがよいのだ!
散々心配させといてうるさいっ! ヒドイッ!
いつもの私たちが戻ってきたわねー。
もう、御波ちゃんまで! ヒドスギル!
ところで今日は9/19であるのか。
そうだけど……それがどうしたの?
総裁はフフフ、と笑った。
何なんですか総裁! 悪巧みもパワーアップしすぎです! ヒドスギル!
ツバメはそう言うとぶくぶくと泡を吹いてしまった。
ああっツバメちゃん!
斯様なことで動じてはならぬ!
え、なぜ?
なんと! ここまでやってまだ続いちゃうのです!ひいいい。
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登場人物紹介

長原キラ ながはらキラ:エビコー鉄研の部長。みんなに『総裁』と呼ばれている。「さふである!」など口調がやたら特徴ある子。このエビコー鉄研を創部した張本人。『乙女のたしなみ・テツ道』を掲げて鉄道模型などテツ活動の充実に邁進中。


*総裁のびっくりヒミツ能力(順次公開)

・隠れオッドアイ。安いラノベのキャラだと思われたくないので視力は悪くないのにカラーコンタクトをはめて眼の色を合わせている。しかしこのオッドアイのその眼を見てしまうと自白させてしまう作用がある。あまりにも危険なのでそれを抑制するためにもカラーコンタクト。


 ほかにもまだまだあります。

葛城御波 かつらぎ みなみ:国語洞察力に優れたアイドル並み容姿の子。でも密かに変態。しかしイマジネーション能力は随一。

武者小路詩音 むしゃのこうじ しおん:鉄研内で、模型の腕は随一。高校入学が遅れたので、実は他のみんなより年上。鉄道・運輸工学教授の娘で、超癒し系の超お嬢様。模型テツとしての腕前も一級。

芦塚ツバメ あしづかツバメ:イラストと模型作りに優れた子。イラストの腕前は超高校級。「ヒドイっ」が口癖。


中川華子 なかがわ はなこ:鉄道趣味向けに特化した食堂『サハシ』の娘。写真撮影と料理が得意。バカにされるとすぐ反応してしまう。

鹿川カオル かぬか カオル:ダイヤ鉄。超頭脳明晰で、鉄道会社のダイヤをアルバイトで組んでしまうほどの『ダイヤ鉄』。プロ将棋棋士を目指し奨励会所属。王子と呼ばれるほどハンサムな女の子。電子回路やプログラミングが得意。

田島ミエ たじまみえ:総裁の古くからの友人。凄腕の模型テツ。鉄研のみんなと一緒に大洗などを旅行したものの、関西在住で滅多に会えない。なおかつその実像は不明。

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