文字数 727文字

 日本の首相公邸が、日本をこの事態に陥れた白鳥政権の首相諸共吹き飛ばされる映像が世界中に衝撃を与えてから、まだ三日も経っていなかったその日、東京丸の内の二重橋前に集まった暴徒が凄まじい殺し合いを繰り広げた。
 方や、鈍器やナイフをを持った若者、方や、軽装備とは言え防具を付けた傭兵。両者は濁流が衝突する様な勢いで混ざり合い、至近距離でぶつかり合った。若者達はナイフを突き立てようと殴りかかったが、傭兵達は濁流の中でも互いの背中を守り、縦横無尽に向けられた殺意を制圧していった。それは一撃の弾丸で息の根を止める様に、一本のナイフで若者達を無力化し、念を押す様にとどめを刺す、ほんの一瞬の出来事に過ぎなかった。
 その結果、テレビカメラが駆け付けた時には、無数の死体が転がる地獄が残り、カメラが捉えられたのは、環境迷彩に溶け込みながら方々へ散ってゆく傭兵達の後姿だけだった。
 そんな傭兵達の正体は、宮内庁が雇った特殊警備会社の職員達。皇宮警察が儀礼上の存在にまで圧縮され、警備費用も大幅に減ぜられた事に頭を抱えた官僚達は最低限の警備を特殊警備会社に依頼した。それは苦肉の策である一方、皇室を破壊する機会を作らんとした勢力の提案でもあった。
 だが、官僚達が選んだ警備員達は良くも悪くもそれを裏切った。法定を下回る賃金の下に雇われた傭兵達は、本来の意義である対価と戦力の等価交換を捨て、この国を守るという義務感によってのみ対価を上回る働きを果たした。
 遠く皇居を臨むはずの、二重橋の袂に広がる惨劇の残影。それを画面越しに眺めていた女は、思わず顔を画面に寄せる。環境迷彩に溶けてゆく後ろ姿に、ある男の無事を祈りながら、彼女は無意識にその残影を探し求めていた。
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