第1話 破砕

文字数 481文字

 ガシャーン!!!
 今夜は、陶器かガラスか何かが
割れたのだろうか。
 硬いものが砕け散る激しい音が、
斜向かいのフィデル家から聞こえた。

 「お母さん、フィデルさんちから、
ガラスが割れたような音が…」
 「お母さんも聞いたわ。
…また始まったようね」


 由緒あるユボフ家の
斜向かいのフィデル家は、
今夜も荒れているようだ。
 5歳のフィデル=ユナは、
両親の夫婦喧嘩が始まると、
自分の部屋に閉じこもって、
やせたピンクのウサギのぬいぐるみを
ぎゅっと抱き締めるのだった。

 ユナの母親は、
ユナが3歳の時に、一度離婚をしている。
 再婚してフィデル家に嫁いだが、
結婚して数か月しか経っていないのに、
このような夫婦喧嘩を
毎晩のように繰り広げていた。
 フィデル家の夫婦喧嘩の激しさは、
近所中の噂になるほどだった。

 5歳のユナには、喧嘩の様子
…怒鳴り声や、物を投げあう音、
新しい父親が母親を叩く音などが、
怖い、ということしかわからなかった。
 自分の部屋に逃げるだけで精一杯だった。
 お腹がすいても、喉が渇いても、
台所には行かれなかった。
 唯一の救いは、
2人ともユナを
巻き込むことはなかったことだ。
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