第三話 都会の人はちげぇべな

文字数 1,357文字

はぁ、はぁ……。
ようやく、のぼり切ったわね……。
比較的小さな山ですが、越えるとなると、やはり大変なものですね……。
フン、二人とも日頃の運動不足による体力の衰えが如実に出ているようだな。
お嬢も我を見習って、常日頃歩く習慣をつけておきませぬと。
あんたはナワバリのパトロールをしてるだけじゃないの。
姫様、あちらを。
遠くにうっすら見えるのが人間の里のようですね。
どれどれ……。
ええ~まだまだあるじゃない。
あそこまで歩いてたら、日が暮れちゃうわよ……。
千里の道も一歩から。
口を動かす前に足を動かしましょう。
ひぃ~。
よ、ようやくたどり着いたわね……。
もうダメ…お腹ペコペコ……。
数時間歩きっぱなしでしたからね……。
どこか身体を休められる場所があればいいのですが……。
ちょっとベリアル、あんたまだ元気なんでしょ?
どこか泊まれる場所がないか聞いてきなさいよ。
おっと、お嬢。
残念ながら、そいつはできない相談ですな。
は?
あたしの言うことが聞けないっての?
ほれ、我らはこれでして。
我らの声は、人間達には聞こえないものですからニャ。
ええ~!
あんた達、一体何のためのお供なのよ……。
もう、分かったわよ。
自分で聞けばいいんでしょ、自分で。
姫様、ファイトです☆
ねえ、ちょっと、そこの人間。
ちょ、待ちなさい! 止まれっつーの!
あーなんかピーチクパーチク聞こえるべと思っとったが、オラのことだべか?
そうよ、あんたよ。
てか、あんた以外誰もいないっしょ。
すまねえべ。ほれ、こげな田舎の村だと、顔見知りにしか声かけられねえがら。
オラ生まれて初めてのことだがら、わがんなくて。
これが噂の逆ナンってやつだべ。
ねえ、アシュタロト。なんかイラッとしたから、こいつ殺っちゃっていいかな?
いけません、姫様。
何も食べていないからイライラしやすくなっているのでしょう。
まずは食べるところについて聞き出しましょう。
……それもそうね。
ちょっと、この近くにレストランかカフェはないかしら?
はー! レストラン!
やっぱ都会の人はちげぇべな。
こげな田舎に、んなシャレたとこなんてねえべ。
街さいがねどあるわけねえべな。はー!
はぁ? レストランの一つもないわけ?
じゃあ、その街までの行き方を教えなさいよ。
街はほれ、あれだ。
あの山の向こうの山のそのまた向こうの山を越えた先だべさ。
半月に一回出てる乗合馬車で五日もありゃ着くべさ。
えぇぇ……マジで……。
あ、せっかく逆ナンしてくれたとこ悪ぃんだども、オラこれから畑さいがねどいげねから。
あ、そ。
邪魔をしたわね。いいわよ、下がりなさい。
あと、言いづらいんだども……。
オラ、もっとこうバイーンっちゅー感じのおなごが好きでな。
ぺたんこには興味がないっちゅーか……気ィ悪くせんでな。
ほんじゃ、アディオス☆
うん、やっぱりこいつ殺っとくわ。
いけません、姫様。
指摘に対して怒るのは、それが事実であり的確だからです。
それに、姫様のお年なら、まだ少しは希望は持てます。ミリ単位の希望ですし、持たない方がマシと言える程度のものですが。
それにしても、お嬢。
ここはかなり辺境の地のようですな。
日も傾いてきましたし、食べるものと休む場所の確保をしなければなりません。
いかがいたしましょうか、姫様?
ど、どうするかって言われても……。
こっちが聞きたいわよ……。
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登場人物紹介

エルスリーゼ
魔王の娘。世間知らずでわがまま放題。

アシュタロト
エルスリーゼの教育係。由緒ある大悪魔だが、姫のおてんばっぷりに手を焼いている。

ベリアル
エルスリーゼの教育係。教育面はアシュタロトに任せて日向ぼっこをしていることが多い。

エチゴヤン

本名は越後屋六右衛門スケヤス。魔界と人間界を行き来して商売をしている。

おじいさん

一行が最初に訪れた村で農業を営んでいる。

魔王

エルスリーゼの父。

ヴィンドルフ

盗賊団『暁ノ狼』の頭領。

クラウス

勇者を目指している少年。

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