前世譚9 ❀  さようなら、ヨハネ。

文字数 1,198文字

このところ、リカルドは何度もアリエッタを夢に見る。
(つないだ手の感触も、指ですいた髪も、まるで彼女が本当に目の前にいるようで……)
あまりに鮮明な夢だったので、目がさめて、たちまち喪失感に襲われた。
(夢の中でなら君に触れられるのに。夢では本質ともいうべき部分で語りあえるのかもしれない)

リカルドは夢を見ることが好きになってしまった。


寒い冬の夜に、あの「悪夢」を見るまでは。

はぁ……はぁ……

熱い……く、苦しい……

燃えている……なにもかも。

どこの教会だろう?

うっ、うっ……。

あついよ、シスター・マリー……

子どもの泣き声
大丈夫、大丈夫よ……
アリエッタ!!

リカルドは、アリエッタへ駆け寄った。


けれど炎に行く手をはばまれる。

マリー先生、ごめんなさい……

大丈夫よ、ヨハン

アリエッタは子どもを抱きしめると、炎の向こう側にいるリカルドへ向いた。
ヨハネ、来てくれたのね
えっ……

恵み深いあなた。


薔薇の花冠(かかん)をつなぐためならば、私は(けい)(かん)をかぶりましょう

アリエッタは、ロザリオの数珠をたぐりよせると、十字架にキスをした。

アリエッタ!!

リカルドはたまらず炎へ飛び込んだ。


けれど唐突に「」からさめた。

なんて不吉な夢だ……。

なぜ彼女は、みずから「(いばら)の冠を被ろう」などと……

(いばら)の冠は、受難を意味する。
……(けい)(かん)……彼女が災いをかぶるのでは?)

リカルドはすぐに手紙を書いた。

(手紙だけでは不十分だ。僕が助けに行かなくては……)

夢の中のアリエッタは、リカルドを見てこう言った。


来てくれたのね、ヨハネ」と。

(どうして夢の中でも、修道名「ヨハネ」で呼ばれたのだろうか……)

ふわぁ、眠いし、寒いよ……
ミケーレ! どうしてここだと……

こそこそと、どこへ行くと思ったら。


こんな寒い朝に、吹きさらしの塔にのぼるのは君くらいだよ、リカルド

くるっぽう

鳩さんも寒そう。

また秘密の手紙が来たの?

ミケーレは、リカルドと秘密を共有していた。

ミケーレ、僕は……ここを出ようと思います。

君の教えてくれた、秘密の通路で

そうかい。それで、いつ出るつもりだい?

明日です

うん、明日は好機だ。

迷ってはダメだよ、リカルド

いろいろとありがとうございました、ミケーレ

どういたしまして。

あとのことは任せてよ。

それにしても、どうして急に脱走を決意したんだい?

恐ろしい夢を見て……
リカルドは、夢について語った。

黙示録のような夢だね

君も預言者なのかい、修道士ヨハネ?

その名で呼ばれると違和感があります、マルコ

そうだね、僕も。

けれど君がいなくなったら、僕もそろそろ新しい名前に慣れないとな

ミケーレ……

さようなら、修道士ヨハネ


いつか会えたなら、その時は新しい名前で呼んでくれよ

修道士ミケーレの登場するお話はこちら


インターポール・コンプレックス シリーズ第4作

 桂冠詩人の恋

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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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