ヒレンジャク、キレンジャク

文字数 1,347文字

 ノスリが叫ぶ。

「ヒレンジャク、キレンジャク!」

「え?」

「あれが…」

 ツグミは即座に対魔法防御の中級魔法「魔防壁」の呪文を唱え、トキは油断なく弓を構える。
 一本角のヒレンジャクは、甲高い声でカラカラと笑い出した。

「そう怖い顔をすんなよ。今日は顔を見に来ただけなんだからさ」

 二本角のキレンジャクも、ドスの利いた低い声で笑う。

「また会えるとは思わなかったわ、ノスリ」

「今度の救世主はずいぶん幼いなぁ」

「ブルーの子も幼いものね、お似合いよ」

 二人は一方的に言うだけ言うと、あっさりとその場から消えてしまった。
 やや間があってのち全身から一気に汗が噴き出したツグミが膝から崩れ、倒れるように地面に伏せる。

「あれがヒレンジャクとキレンジャク」

 トキも手に握った汗を見つめた。

「あいつらがオオジュリンを操っているのか…」

「逆だな。おそらく」

 アイリスが、体重を感じさせない軽やかな動きでセッカの隣りにやって来る。

「あの程度の魔法使いなら、マンテル辺りに二十人はいる」

「どういうこと?」

 この世界、特に魔法についてはほとんど知らないといっていいセッカがアイリスを見上げる。しかし、その問いに答えたのはツグミだ。

「マンテルは建国以来三百年、魔法技術の発展のためにいろいろな研究をしてきたの。現在使われている呪文の半分は、マンテルで生まれたものよ。あの二人がどういう経緯で復活したのか知らないけれど、五百年以上前の魔法技術で魔術師であるオオジュリンを操る事は出来ないわ」

「じゃあ、オオジュリンはあの二人より強力な魔法が使えるのか」

 トキの知っている魔法使いは突然現れたり消えたり、あんな派手な魔法を使えない。ツグミがこの冒険で使った魔法でさえ、始めてみるものが多かった。

「そうね。残念だけど、今のままじゃオオジュリンどころかあの二人にもかなわないわ。私の魔法じゃ彼らにだってきっと太刀打ち出来ない」

「そう悲観する事もない」

 アイリスは、ツグミに手を差し伸べた。

「戦いは武器の強弱、人の優劣だけで勝敗が決まるものではない。要はその用い方だ」

「そうだぞツグミ。あいつらだってもともとはタダの人間だ」

「え? でも、角が生えていたよ」

 セッカは、四人の周りを飛び回るノスリを目で追う。ノスリは遠い昔を思い出すように視線をさまよわせながら答える。

「あれはブラウン島の先住民の風習なんだな。ドラゴンの牙を額に植えると魔法が使えるようになるんだって事だぞ」

「誰でも?」

「誰でも」

「じゃあ、もともと魔法が使える人は?」

「もっとすごい魔法使いになるかもな」

 トキがアイリスを見る。

「まさか、オオジュリンはそのことを知って…?」

「知っていたかどうかは判らない。けれど、今は間違いなく知っているだろう」

「どうすれば勝てるの? ねぇ、教えて」

 ツグミが泣きそうな顔で、トキとアイリスを見つめる。

「あるとすれば、ブルーだけか…」

 トキは言い、アイリスもうなずいた。

「そうだな、五百八十年前の再現をする…それしかないだろう。ノスリ、それを知っているのは君だけだ。頼むよ」
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