第4話-⑤

文字数 824文字

ならぬ、ならぬ、離縁なんぞ。
そうでもせねば・・・・・・あれは富子さんを離さんでしょう。

娘はあなたを一目見て、いよいよ好きになったと言うておった。

きっと誰よりも優しい御方に違いないと。

買いかぶりです。
娘の幸せを望まぬ親が、どこにおりましょう。
しかしこのままでは・・・・・・
考え直してください。

私に、妙案がありますゆえ。

妙案?

小松原(こまつばら)(どう)成寺(じょうじ)に、(ほう)(かい)和尚と言うて、

ご高名な祈禱師がおられます。

またそんな話を。

最後まで聞いてください。

今は年老いて僧坊を出られぬと聞き及び、

せんだってはその名を出さなかったのです。

かくなる上は私自ら和尚のもとへ出向き、

何としても頼んでまいりましょう。

いや、やめましょう。

次は村人を殺すと、あれが言っておりました。

また間違いをおかせば、今度こそどうなることか・・・・・・

庄司殿、富子さんには、私よりもっとふさわしい男がおります。

いえ、富子にふさわしい男とは、かくも情に厚い、

あなたのことでしょう。

どんなに言葉を重ねても、庄司殿を止めることはできなかった。

馬に乗り、駆けて道成寺へ向かった。

法海和尚は・・・・・・

今や私はこのように老いぼれてしまい、

魔を調伏ちょうぶくする力もさして残っとらんでしょう。

しかしそのような大蛇おろちがのさばっておっては、

見逃すわけにもゆくまい。

と言って、芥子(けし)(こう)がしみた袈裟を取り出し、庄司殿へ渡したという。

大蛇(おろち)をうまく騙し、こいつをその頭から被せなさい。

よいか、これはその豊雄とやらが成さねばならぬぞ。

大蛇は苦しみ、のたうつだろうが、決して手を緩めてはならぬ。

力の限り、押し込めよ。

わかりましたか? しかと伝えましたぞ。

和尚もすぐこちらに参ると言います。

私は道成寺より戻ってきた庄司殿から、紫色の袈裟を受け取った。

万事手はずは整いましたよ。

さぁ心を決めて、うまくやり遂げてください。

富子の命を救えるのは、あなただけです。

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登場人物紹介

豊雄(とよお)

真女子(まなご)

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