第4話 ハッスル事変!

文字数 2,807文字

「こらー! イチゴ、どこさ行った?」

 お婆さんはイチゴが部屋にいないため家中を探し回っていた。

 イチゴとニコが生まれてもう1年も経っていた。

 そこへ柴刈りから戻ったお爺さんが家の扉を開けた。

「ジジィ、イチゴを見んかったか?」

 慌てるお婆さんを見てお爺さんは笑いながら言った。

「ババァ、何をそんなに慌ててんだ? イチゴなら、外でチョウチョを追いかけて、ヨチヨチ歩きしとるぞ!」

 それを聞いたお婆さんは慌てて家の扉の方へ走って行った。

「イチゴはまだ赤ん坊だべ! 外に行ったら危険なのがわからんのか!?

 それを聞いたお爺さんは更に笑った。

「なにを言っとる! 男の子はそれくらいヤンチャな方が良いべ!」

 その言葉にお婆さんはカチンと頭に来たが、イチゴの方が心配で慌てて外に行きイチゴを迎えに行った。

「やれやれ、まさかあそこまで過保護になるとは思わんかったわ」

 お婆さんの過保護ぶりに少しため息をついた。

 お爺さんが囲炉裏のそばに座ると、ニコがハイハイしながらお爺さんの方へ向かって来た。

「おおー、ニコはワシのお迎えに来てくれたのか、おまえは優しい子じゃのう」

 そしてニコはお爺さんの膝の上に乗り笑顔でお爺さんの顔を見つめていた。

 お爺さんはニコの天使のような笑顔にホッコリとして和んでいた。



 イチゴとニコが生まれて1年、その間に二人の個性は正反対なほどに違っていた。

 男の子のイチゴは活発で好奇心もあり家中をハイハイしまくる。

 つい最近になると、おぼつかないが立って歩けるようにまでなった。

 女の子のニコはおっとりとした感じで自分の名前のようにいつもニコニコと笑っているような子だった。

 しかしイチゴほど成長は早いわけではなく、今もハイハイしながら家の中を歩いている。

 若返ったお爺さんとお婆さんも少しづつ体の変化が起きていた。

「ジジィ、ちょっとすまんが薪割りしてくれ! もうそろそろ、薪がなくなる」

 お爺さんは家に帰ったばかりでまた仕事をさせられ不満げに言った。

「若返ったとはいえ、最近すごーく疲れるから嫌なんじゃ……」

 お爺さんが不満を口にしたとたんお婆さんが口を開いた。

「だったら、今日のジジィの晩メシは汁だけじゃ、それで良いんなら薪を割らんでもええぞ!」

 それを聞いたお爺さんは慌てて薪割りに行った。

 若返った二人は、最初の頃より少しづつ力仕事をすると疲れを感じるようになってきた。

 もしかしたら食べた桃の効果が徐々に消えていっているのかも知れないと二人は思っていた。
 しかしそこまで深く考えない二人は、今日も今まで通り普通に暮らしている。

 そして二人は毎晩ハッスルして若返った体を満喫していた。



* * * * * * * 



 そのおかげもありいつしかお婆さんは妊娠し、出産の日が訪れた。

「ババァ、どうすりゃいいんだ!? わしは赤ん坊なんぞ、取り出した事はねえぞ!」

 お婆さんの出産を目前にお爺さんはアタフタしていた。

「おらだって、産むのは初めてだ! おっとうのジジィが、うろたえてどうする!?

 お爺さんは気を取り直して、飛んできたボールを取るような構えをした。

「よし、いつでも良いぞ、ババァ! わしが赤ん坊を受け止めるぞ!」

 開いた股の奥で手を広げ騒いでいるお爺さんにお婆さんは怒り出した。

「赤ん坊がそんなに勢い良く、飛び出す訳なかろう! ジジィ、バカなことをやっとらんと、近くに来て赤ん坊を取り出してくれ!」

 必死に懇願するお婆さんの言葉を聞いて、お爺さんはお婆さんの近くに行った。


 すると赤ん坊の頭が徐々に顔を出した。

「ババァ、赤ん坊の頭が見えてきたぞ! もう少しの我慢だ! ふんばれ!!

 その言葉にお婆さんは勇気付けられ力強くふんばった。

 するとスポンと赤ん坊は勢い良くこの世に誕生した。

「オギャーオギャー」と元気な声で赤ん坊は泣いた。

 お爺さんは赤ん坊の股を見た。 そこには立派なイチモツがあった。

 二人は元気な男の子を授かったのである。

「よー、見てみー! イチゴ、ニコ、お前たちの弟が生まれたぞ!」

 無事に出産を終え、お爺さんはイチゴとニコに生まれたばかりの赤ん坊を見せた。

 二人は不思議そうな顔をして赤ん坊に近づく。

 二人が優しく赤ん坊の手を触ると、さっきまで泣いていた赤ん坊が二人に笑顔を見せた。

「ジジィ、おらにも赤ん坊を見せてくれ」

 お婆さんは出産の疲労で辛かったが、それでも赤ん坊の顔が見たくてお爺さんにお願いした。

 お爺さんは優しく赤ん坊を抱きお婆さんに見せた。

 お婆さんは優しい顔になり「かわえー子じゃ、この子は大物になるぞ!」と誇らしげに微笑んだ。



* * * * * * * 



 出産も無事に終わった次の日、お爺さんは突如立ち上がり大声で叫んだ。

「命名すんぞ!」

 いきなりお爺さんが叫ぶのでお婆さんはビックリし、子供三人も泣き出してしまった。

「ジジィが急に叫ぶから、子供らが泣き出したじゃねえか!」

 お爺さんも慌てて泣き出したイチゴとニコを抱きかかえあやし始めた。

 お婆さんも生まれたばかりの赤ん坊を、あやしてなんとか三人とも泣き止んだ。

「ジジィ、もう叫ぶんじゃねえぞ!」

 その言葉にお爺さんは頷いた。

「おおぉ……、わかっとるわい。 それじゃ、命名するぞ!」

 お婆さんは良い名前を期待し息を飲んだ。

「三号じゃ! 名前を三号にするぞ!」

 お婆さんはガクッとなり、大声でツッコミそうになったが子供たちがまた泣いてしまうかも知れないと思い我慢した。

 そして小さい声でお爺さんに問い詰めた。

「ジジィ、おまえは何も学習しておらんのう。 あれほど、イチゴとニコのときに命名でモメたろうに! もう、忘れちまったか!」

おじいさんはハッと思い出した顔をした。 完全に前回の流れを忘れていたらしい。

「わ、忘れておらんわ……。 話はまだ、続きがあるんじゃ! サンゴウのウを取って、サンゴじゃ! 海の珊瑚のようで、美しい名前じゃろ!」

 お婆さんもサンゴという名前は気に入った様子だったが、少し気がかりな事があり少し考えた。

 そしてパッと何かが閃いた。

「ジジィ、サンゴより良い名前があるじゃろう。 ジジィが最初に付けた名前じゃ!」

 お爺さんもその言葉を聞いて、ハッと思い出した。

 そして二人は同時に名前を言った。

「一号?」「桃太郎!」



……気まずい雰囲気になるとお爺さんはハッと気付き慌てて発言を撤回した。

「桃太郎! そうじゃ、桃太郎じゃ! わしのお茶目さをついつい出してもうて、つい一号と言ってしもうた……」

 お婆さんは冷たい視線をお爺さんに向けた。

 お爺さんもその視線にはさすがに気付き勢い良く誤魔化した。

「今日からお前は、桃太郎じゃ! なぁ!ババァ、桃太郎で決まりじゃな!?

お婆さんもこれ以上怒っても仕方ないと思い頷いた。
「そうじゃ、この子の名前は桃太郎じゃ」

 こうして桃太郎はこの世に生まれる事になった。
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