第九章 彪の疑問と、暎蓮の推測

エピソード文字数 2,039文字

「だけど、羅羅さんは、どうして、あそこに遺体を埋めたのかなあ?いくら『合』さんを『呪詛』するためでも、遺体の気配を消して、その当人の『合』さんが、平然としているんじゃあ、『呪詛』の意味がないんじゃないかと思うんだけど……」
「それはたぶん、羅羅様の、女性としての『優しさ』だと思います」
「え?」
「『三十年』の『猶予』という期間を作ったのは、その間に、もしかしたら、『合』様がご自分のなさったことを悔いてくださるかもしれない、と、望みをおかけになったからではないでしょうか。あるいは、羅羅様は、その間に『合』様が、いっそ、『天行者(てんぎょうじゃ)(『巫覡』の力は持っていないが、『天帝』を信仰して修行に精を出す人のこと)』にでもなっていてくださったら、その時点で、『呪詛』は取りやめるおつもりだったのかもしれません」
「じゃあ、その『合』さんが、今も変わらず、ここにいることで、羅羅さんは、『合』さんがなにも悔いていない、ということを感じて、怒っているわけだね」
「そうではないでしょうか。ですが、羅羅様は、もはや魂だけの身。この世をさまよっていたとはいえ、『時限式の呪詛』が発動する、今日、この時にならないと、あの方は、この場所に連れ戻されなかったわけです。……たまたま、私たちがその時間に羅羅様を呼んでしまった、ということもありますが。魂だけの身とはいえ、三十年たって、もう一度裏切られたという気持ちは、はかりきれません。……羅羅様は今、おそらく、それこそ、刺し違え、ご自分もろともであっても、『合』様を『滅界』に落とされるお覚悟でいらっしゃると思います。そして、三十年もの時間をかけて膨らんだ、『合』様と奥様の『恨み』。これは、『羅羅様』という物理的対象者がいない今も、やり切れないまま、想像もつかないほどまで大きくなっている可能性があります。だから、もしかすると、『合』様は、羅羅様の居場所を探り当て、『滅界』どころか、『地獄界』にまで落とす『呪詛』を、かけるおつもりで、ここまで過ごされてきたのではないかと思うのです」
「で、でも、それぐらい大きな恨みを持つ人がいたら、それが外ににじみ出ないわけがないよ。同じ『清白宮』に住む、俺たち占天省のほかの『巫覡』にだって、わからないわけがないと思うんだけど」
「……もしかすると、なにかしらの方法で、その恨みを、周りの方には隠す『(すべ)』を、手にしているのかもしれない、とも思うのですが。たとえば、強い、『意志』の力で恨みを抑え込んでいる、などですが、……これも、どうも……。普通の精神力の方には、なかなかできることではないでしょうね。そこが、わからないところです」
「あるいは、『合』さんは、奥さんを殺したのが羅羅さんだって知らなくて、羅羅さんに対して、恨みの気持ちは持っていないって可能性も、あるんじゃない?」
「そうですね。……ですから、これは、あくまで、『合』様が、奥様の霊体に憑りつかれていた場合、という仮説に基づいて、の話になってしまうわけですが」
 暎蓮は、顎に手を当てた。彪が、改めて、言う。
「もっと言うと、もし、『合』さんが、憑りつかれていて、羅羅さんを恨んでいたってことが事実だったとしても、そんな大きな二つの『邪念』をぶつけ合わせたりしたら、その力がはじけて、城じゅうに被害が及ぶんじゃないの」
 暎蓮は、微笑んで、彪を見た。
「そのために、彪様がいらっしゃるのではないですか」
「え?」
 彪が戸惑う。
「彪様の『入らずの布陣』は、強力な『結界術』であると同時に、『邪念』、『邪霊』を漏らさず集め、逃さない効果もあるわけです。もし本当に、霧散させるのなら、城内に影響のないように、もちろん、その中で行います」
「あ、ああ……」
 暎蓮が、まさかそこまで自分を頼ってくれているとは思わなかったので、彪は少しどぎまぎした。
 暎蓮が再び、ゆっくり歩きだしながら、言う。
「……それにしても。やはり、腑に落ちないと思いませんか、彪様」
「なんのこと?」
 彼女の後を追いかけて、小走りになりながら、彪が答える。
「羅羅様のお話です。三十年前の『時限式呪詛』は、そういう設定だったのですから、今、発動したのも、納得がいきますが、『清白宮』の外に『合』様の奥様のご遺体を埋めたのも、その『気配』を絶つ『術』を施したのも、どこかの『仙士』様。時間が経ちすぎている割には、妙に、『術』がしっかりしている、というか……」
「うん。それは俺もおかしいと思っていたんだ。……普通なら、三十年も経っていたら、もう『術』が崩壊していて、『気配』が漏れ始めてもいいはずだ。だけど、『清白宮』では、遺体の『気配』なんて、今でも感じられないくらいだもの。なにか、変だよね」
「その『仙士』様という方、よほどの手練れだったのでしょうか。それとも……」
 彼らはそこで、『清白宮』前にたどり着いた。二人そろって、立ち止まる。
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登場人物紹介

白点 彪(はくてん ひゅう)

十三歳。『玉雲国』の『宮廷巫覡』で、強力な『術』を使える『術者』でもある。

この国の『斎姫』で初恋の相手、十一も年の違う憧れの『お姫様』である暎蓮を護るのに必死。

温和な性格。

甦 暎蓮(そ えいれん)

二十四歳。しかし、『斎姫』としての不老の力で、まだ少女にしか見えない。『玉雲国』の王である扇賢の妃。『傾国の斎姫』と言われるほどの美女。世間知らず。

彪が大のお気に入りで、いつも一緒にいたがる。しかし、夫の扇賢に一途な愛を注いでいる。

使う武器は、『破邪の懐剣』と『破邪の弩』。

桐 扇賢(とう せんけん)

十七歳。暎蓮の夫にして、『玉雲国』の王。『天帝の御使い』、『五彩の虎』の性を持つ。単純な性格ではあるが、武術や芸術を愛する繊細な面も。

生涯の女性は暎蓮一人と決めている。

彪とはいい兄弟づきあいをしている。愛刀は、『丹水(たんすい)』。

関 王音(せき おういん)

二十代後半。扇賢のもと・武術の師で、宮廷武術指南役。美しく、扇情的だが、『天地界』中にその名と顔が知れ渡っているほどの腕の『武術家』。

暎蓮にとっては、優しい姉のような存在。彪や扇賢にとっては、やや恐れられている?

愛刀は『散華(さんげ)』。

ウルブズ・トリッシュ・ナイト

二十代後半(王音より少し年下?)。扇賢のしもべで、『玉雲国』ただ一人の『騎士』を自称する、人間界の西方が出自の金髪美男。暎蓮に懸想しており、彪や扇賢とは好敵手関係?戦うときは銀の甲冑と大剣を持つ。マイペースな性格。

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