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エピソード文字数 863文字

「……はい。わかりました。協力します」

 トクントクンと鼓動が早まる。

 きっと信也に違いない……。

 あたしはベッドから起き上がり、点滴をしたまま車椅子に乗せられた。看護師に車椅子を押され、医師と共に集中治療室に入る。

 医師の話では、その男性は重篤な状態で搬送され、一時心肺停止状態に陥ったものの、奇跡的に回復したらしい。

 集中治療室に入ると、ベッドに横たわっていたのは……。

「信也!無事だったんだね!信也ー……」

 取り乱すあたしに、医師は冷静に対処する。

「彼をご存知でしたか。よかった」

 瞼を閉じていた信也が……
 ゆっくりと目を開けた。

 その瞳は、1週間もの間、意識不明に陥っていたとは思えないくらい、鋭い眼光を放っていた。

 心電図は綺麗な波形を描き、脈拍も血圧も安定している。

 信也は暫くあたしを見つめていたが、自ら酸素マスクを外した。

「……生きて……いたのか」

「……うん」

「そうか……よかった」

 医師があたしに問いかける。

「斎藤さん、彼の名前をご存知ですか?」

「はい。織田信也さんです。勤務先も住まいもわかっています」

「織田さんですね。身元がわかり安心しました。状態も安定しているので、個室に移りましょう」

 信也は医師の話を黙って聞いていたが、記憶が混濁しているのか、あまり多くは語らなかった。

 あたしは陥没事故現場で、生死の境を彷徨っていた間、長い長い……夢を見ていたんだ。

 まるで、タイムスリップしたかのような夢の中で、美濃も懸命に生きていた……。

 ――そう……
 あれは……夢……。

 タイムスリップなんて現実にはありえないし、このあたしが戦国の世で織田信長と恋をしたなんて、どう考えても非現実的だから。
 
 信也もきっと……長い間生死の境を彷徨い、あたしのように違う世界を見ていたのだろう。

 そして、現実に引き戻してくれる身内もなく、今も混乱している……。

 それならあたしが……
 信也を現実世界に引き戻す。
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登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

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