第19話 雨音は自宅で聞くもの

文字数 879文字

 『雨音はショパンの調べ』の雨は小林麻美さんのアンニュイな歌い方から、しっとりした空気の中で、か細く降っているようなイメージがあります。しかし、今朝の雨は小川を勢いよく流れる水のような音がしました。

 梅雨だから、傘は必需品。今年の天気はわりと、晴れなら晴れ、雨なら雨とハッキリしている日が多いように思う。また、曇りの日は意外と雨が降ってこない。洗濯歴30年近くもなると天気には、わりと敏感になる。特に雨雲の動き。もちろん予報も聞いてはいるが、確実ではない。在宅しているなら、当たりハズレをあまり気にしない。だが、外出時は信頼度を辛く見積る。これは誰しも同じなのでは?以前、父は雨男、私は晴れ女との話をしたが、このときの意味は少し神がかっているというか、信憑(しんぴょう)性が薄いもののことだった。今回は現実的な話。

 私は、結婚直前にテレビ局の広報でアルバイトをしていたことがある。仕事内容は主にデスクワークと都度都度の外出。歩いて出掛けることもあったが、タクシーを使うことも多かった。ある曇天の日。いつものようにタクシーで目的の場所へ向かった私の手には、書類と長い傘。傘は白地にカラフルな花が散りばめられたバレンティノ・ガラバーニ。お気に入りだ。当時はバブルと言われ、ブランド思考が一般人にも蔓延(はびこ)る、浮かれた時代。

 帰社した私の手には、傘が無かった。一般人のブランドの立ち位置は、普段使いではあるが宝飾のような扱いだ。そのときの私の心情を容易に想像していただけると思う。仕事なんて言っている場合ではない。自分の行動の軌跡を思い出し、傘の姿を我が子のように思い出し……(半泣) 打てるだけの手は打ったが、その日がブランド傘との別れになった(泣) 以来、私は傘を買うとき、ブランドに目を向けることはない。晴れ女に高級傘は無用だ。

 高級傘を手にすることもなければ、失くすこともない数十年。ずっと同じ傘ばかりというわけではありませんよ。何本か変えています。変えた理由ですか?私が使う雨の日は、豪雨であったり風雨であったりするんですねー。つまり、別れるべくして別れている傘なのです。
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