第2話(2)

エピソード文字数 3,425文字

「あの子は……。もう起きてて、下のキッチンで朝の支度をしてくれてるのかな?」

 誰もいないベッドを眺め、左に首を傾げる。
 作戦を練ってた自室があるのも2階で、ここと俺のトコは若干離れている。彼女の起床に気付かなかったというのは、大いに有り得るな。

「と、思ったけど。ベッド脇には、ゴスロリ服――魔王の正装が畳んであるな」

 彼女が持参してるのは2着で、夕べのゴスロリ服は洗濯カゴに入っている。となるとこっちは2着目で、パジャマ着用中となりますな。
 ああそうそう。英雄クラスになると異空間に好きなモノを入れられて、どこにいても自由に出せるそうですよ。無限収納、超羨ましいです。

「寝る前に『お料理をしたらすぐお洗濯だねー』って言ってくれてたから、寝間着のまま動き回るとは思えない。するとレミアは、トイレに行ってるんだな」

 女の子がそういう場所に入っている時は、近づかないのがマナー。ここで朝陽ウォッチングの準備をしながら、戻ってくるのを待とう。

「……この家の中だと、母さんの部屋からの朝陽が最高なんだよね。う~ん、相変わらず美しいなぁ」

 閉じられていたカーテンを開け放つと、清々しい太陽光が身体に降り注ぐ。
 誰も興味ないと思いますが、発表しますね。こうやって日光浴ならぬ朝陽浴をするのが、晴れの日の日課でございます。

「朝の太陽って、清い感じがするんだよねぇ。不思議だよなぁ」

 朝も昼も同じ星なのに、光に含まれる成分が異なるように思える。これが、自然の神秘なん「にゅむぅ……。眩しーよぉ……」ですな。

「…………おんや? にゅむ星人の声がしたぞ?」

 間違いない。ドアは開いてないのに、星人の声がした。

「あの人、この部屋にいたみたいだな。一体どこにいるんだ?」

 天井、いない。クローゼット、いない。ゴミ箱の中にも、いない。
 そりゃそうか。

「仮に透明になっても、衣類は消えないよなぁ。魔王どこいったんだ?」
「にゅむむぅ……。まおーは、ここれすー」

 ベッドの方から、ふわふわした御声が響いてきた。

「…………ふむ」

 少し距離を取り、ベッド全体を眺めてみた。
 そしたら、


 ベッドの下でレミアが寝ていた。


「アンタ都市伝説狙ってんのか!? なぜベッドの下で眠ってるんだよ!」

 俺はパジャマを掴んで引っ張り出し、都市伝説魔王をベッドに座らせる。
 WHY!? どうして上で眠らない!?

「にゅむにゅむ……。じゅるり」
「ぎゃああ涎垂らすな! 汚いっ!」

 わたくしは目にも止まらぬ速さでティッシュを抜き取り、ボッタリ落ちる涎をキャッチする。
 ヨダレ、ベトベトしますからね。布団につけるワケにゃ、いかんのです。

「にゅむぅー。あさ、なのー?」
「そーですよ。ああもう、口の周りがベタベタじゃないか」
「んむぅ……。ありがとー」

 ティッシュをもう一枚取り、レミアのお口を拭き拭きする。俺はコイツのお母さんか。

「ママー。およーふくぬがしてー」
「いつまで寝ぼけてるんだ。いい加減目覚めなさい」

 ここで、コマンドを選択。人間Aは魔王Aの顔の前で、パチンと手を叩いた。

「にゅむ!? ママじゃなくてゆーせー君だ!」

 魔王さんは座ったまま跳び上がるというミラクルを起こし、冷たさと威厳を兼ね備えたツリ目がパッチリ開く。
 おお起きたぞ。両手ぱちん、こうかはばつぐんだ!
「レミア魔王さん、おはようございます。ユーがベッド下でスリープしていたワケを、教えてくださいな」
「にゅむ」

 状況判断をすると、これは『うん』だな。……俺達はずっと間近にいてずっと同じ言語で会話してるのに、なぜ状況判断が必要なんでしょうね?

「にゅむむ。えっとねー」
「にゅむむ。なーに?」
「あたしのお家ー。アパートだって、お伝えしたよね?」
「ああ、うん。ゆうべ聞いたよ」

 築30年オーバーの、なかなかボロイ借家。この子は今も、そこで住んでいるそうだ。

「お家は狭くってね、知人さんに譲ってもらった2段ベッドを家族で使ってたのっ。でもみんなが大きくなったら狭くなって、上のベッドに4人は入れなくなっちゃったんだよー」

 小さくても4はキツイと思うが、そこはスルーしておこう。

「だから、あたしがベッドの下で眠るよーになってねー。長年それをやってたら、ソコが1番落ち着くよーになったんだーっ」

 ニコニコ顔で語る、魔王様。
 それを辛いと感じていないことが、唯一の救いだ。レミアのお父様お母様、いい子に育って良かったですね。

「にゅむ? お目目を擦ってるけど、ゆーせー君もネムネムなの?」
「些末事です。……それはそうとさ」

 緩んだ涙腺を締め、窓を指差す。

「見てみなよ。いい朝陽が出とりますぜ」
「にゅむっ、ほんとーだっ。もしかして、これのタメに起こしてくれたのっ?」
「そんな感じ。折角来たからには、エンジョイして欲しいからね」

 これは別に、我が儘の罪滅ぼしではない。単に俺がそう願うだけだ。

「ぇへへぇ。ゆーせー君、やさしーね」
「優しいヤツは、昨日みたいにデコピンしないっての。これは気紛れだよ」

 そう返していて思ったのだけど――近所のレストランに『シェフの気紛れパスタ』っていう、毎日内容が変わるメニューがあるんですよ。でもこれってその日一日は中身が固定されるから、最初の一皿以降は大して気紛れてないですよね?
 このパスタは、気紛れを名乗ってよいのでしょうか? 忌憚なきご意見、お待ちしております。

「そんなことより、レミア。我が国の太陽は如何ですか?」
「あたしのトコより赤くて、素敵だよー。たっくさんパワーをもらいましたっ」

 彼女は可愛らしく拳を振り上げ、ゴスロリ服をギュムッと抱く。これがかの有名な、ゴスギュムだ。

「ゆーせー君、すぐ朝ご飯の準備をするね。遅れた分を取り戻すぞーっ」
「そんなに急がなくていいよ。俺が早く起きただけだから」

 正確には、前の日の午前7時半から起きてるんだけどねー。あはは超早起きっ(さっきからナチュラルハイ)。

「にゅむー、そーはいかないよー。ご主人様より後に起きるのは、メイドにとっては愚行(ぐこー)中の愚行(ぐこー)だもんっ」
「そ、そうなん? そんなにいけないの?」
「あたしは朝当番の時に、1回だけやっちゃったんだけどね。あたしが働いてたお屋敷だと、ご主人様に鞭でお尻を叩かれちゃうよ」
「あー、それ漫画で見たことあるわ。……バッカみてーだよな」

 瞬く間にナチュラルハイが治まり、自然と声が低くなる。
 鞭で尻を叩く、ねぇ。反吐が出るわ。

「にゅむ? ゆーせー君?」
「失敗なんて誰だって、それこそ自分だってするだろ。なのに他の人がミスった時だけ責めるのって、馬鹿げてるよな」
「ぇ、ぇっと。それは、お金をあげてるからで」
「金を払ってるから何をやってもいい、ってはならねーでしょ。その行為は立場を利用した、ただの暴力だよ」

 それは、教育的指導? そんなやり方で仕事ができるようになるなら、どの職場でも採用されてるっての。
 なんでも正当化しようとすんな。ちったぁ、される側の気持ちになってみろってんだ。

「……キミも、昔は苦労したんだな。よく頑張ったね」
「にゅむーん……っ。褒められたよぉ」

 頭を撫で撫ですると、ふにゃんと両頬が緩んだ。

「無論俺はそういうアホなマネはしないし、そもそも人の上に立てる人間じゃない。俺達は主従ではなく友達の関係で、御主人様に奉仕をするんじゃなくて『家事や炊事が苦手な男の世話をしてやっている』という感覚でやって欲しいな」
「にゅむっ! あたしそーするよっ」

 レミアは俺にガバッと抱き付き、スリスリスリスリ。何度も何度も頬ずりをする。

「おいっ。ちょっ、くすぐったいって」
「あたし、ゆーせー君と契約できて幸せだよーっ。ゆーせー君のタメなら、なんだってできちゃいますーっ」

 魔王様は、喜色満面の笑みを御浮かべになられた。
 あ、あっれー? 知らない間に、好感度がアップしてる……。

「ゆーせーくんっ。ゆーせーくんっっ。えへへへへー」

 だ、大丈夫っ。まだ、第2弾3弾4弾があるんだ。
 次で、ガクンと好感度をダウンさせてやる!
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登場人物紹介

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

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