名前なき少年
文字数 1,721文字
それから数日が経ち、少年は特に仕事をしないまま日々を過ごしていた。しかし、それにも飽きてきたのか、少年はアランに連絡を取る。
連絡を受けたアランは、電話越しに家で待つよう少年に伝えた。少年は、言われた通りに家で待ち、呼び鈴が鳴らされたところで外に出る。すると、そこにはアランの姿が在り、青年の背後には藍色をした車が停められていた。
「病院はここから近くない」
アランは、右手の親指を立てて車に向ける。一方、少年は彼が指差した先に目線を動かし、アランはそれを確認してから言葉を加えた。
「だから、車に乗ってくぞ。運転は荒いかも知れねえが我慢しろ」
青年は、そう言って踵を返すと、運転席のドアを開けて乗車する。黒髪の少年は彼の後を追い、助手席に座ると直ぐにシートベルトを掛けた。
「お前、意外に真面目だな」
それを聞いた少年は首を傾げ、アランの意見に言葉を返した。
「意外って言われるのは心外。それに、運転が荒いって聞いたら、安全を確保しようって思うのは普通でしょ」
それを聞いたアランは小さく笑い、ハンドルに左手を乗せて息を吐く。
「こりゃ、一本取られたな」
アランはミラーを確認し、シートベルトを着用する。そして、彼は車のエンジンを掛けるとアクセルを踏み込み、低い音を立てながら発車させた。
この際、少年の体は座席に押し付けられることになり、彼は苦笑しながら口を開く。
「うん。アランの運転が荒いってのは、今のでなんとなく分かった」
「運転したことの無い奴が何言ってんだ」
青年は、そう言うと乱暴にハンドルを切った。この為、少年は窓に側頭部を打ち付け、打った場所をさすりながら溜め息を吐く。
「確かに、俺は運転したことがないし、詳しくもないよ。でも、いちいち体に負荷が掛かるって、普通じゃないと思うんだけど」
少年は、そう言うとアランの横顔を見つめた。対するアランは鼻で笑い、目を細めて言葉を発する。
「俺の運転に文句があるなら、自分で運転出来るようになれ。お前の年なら、運転してる奴は運転してるぞ?」
青年の話を聞いた者は目を伏せ、呟くように話し出す。
「俺が、公的な免許を取れる訳無いじゃん」
そこまで話したところで目を瞑り、少年は尚も話を続けていく。
「そりゃ、運転技術はなんとか出来そうだけど……それからが、俺には難しいよ」
そう言って細く息を吐くと、少年は薄目を開けて窓の外を見る。すると、外の景色は目まぐるしく変わっており、かなりのスピードが出ていることが窺えた。
「んなもん、どうとでもなるだろ。俺だって、褒められた生き方はしてねえけど、こうやって運転しているんだしな」
少年を元気づけようとしてか、アランは明るい声で伝えた。しかし、少年に納得する様子はなく、アランは諦めた様子で息を吐く。
その後、会話の無いまま二人は目的地に到着した。アランは、少年へ先に降りるよう伝えるとエンジンを切り、自らも降車すると腰に手を当てて背中を伸ばす。
「さて、見舞いに来たはいいけど、何も持って来てねえな」
青年は、そう言うとポケットから鍵を取り出し、車の鍵穴に差し込んだ。そして、少年を横目で見ると軽く笑い、空を見上げる。
「で、入院中の子供達に会ったら、どうするか考えてあるのか?」
そう問うと、アランは少年の目を真っ直ぐに見た。対する少年は首を振り、それを見たアランは鍵を引き抜いてポケットに戻す。
「じゃ、そこで暫く考えてろ。俺は、適当にお菓子でも買ってくるから」
そう言うや否や、青年は車に乗り込んで走り出した。一方、その場に残された少年は、呆気にとられた様子で車を見送る。彼は、車が視界から消えた後、その周囲をゆっくり見回した。
アランの車が走り去った方向とは逆側に、病院と思しき建物が在った。その建物の周囲は木々に囲まれ、休憩を取れるように長椅子が幾つも用意されている。少年は、そのうち一番近い椅子に座ると背中を丸めて目を瞑った。彼は、そうしたまま動くことは無く、アランが戻ってくるまで椅子に座り続けていた。
数十分程して戻ったアランは、茶色の紙袋を胸に抱えていた。彼は、それを抱えたまま少年に近付き、その足音や気配に気付いた者は目を開く。
連絡を受けたアランは、電話越しに家で待つよう少年に伝えた。少年は、言われた通りに家で待ち、呼び鈴が鳴らされたところで外に出る。すると、そこにはアランの姿が在り、青年の背後には藍色をした車が停められていた。
「病院はここから近くない」
アランは、右手の親指を立てて車に向ける。一方、少年は彼が指差した先に目線を動かし、アランはそれを確認してから言葉を加えた。
「だから、車に乗ってくぞ。運転は荒いかも知れねえが我慢しろ」
青年は、そう言って踵を返すと、運転席のドアを開けて乗車する。黒髪の少年は彼の後を追い、助手席に座ると直ぐにシートベルトを掛けた。
「お前、意外に真面目だな」
それを聞いた少年は首を傾げ、アランの意見に言葉を返した。
「意外って言われるのは心外。それに、運転が荒いって聞いたら、安全を確保しようって思うのは普通でしょ」
それを聞いたアランは小さく笑い、ハンドルに左手を乗せて息を吐く。
「こりゃ、一本取られたな」
アランはミラーを確認し、シートベルトを着用する。そして、彼は車のエンジンを掛けるとアクセルを踏み込み、低い音を立てながら発車させた。
この際、少年の体は座席に押し付けられることになり、彼は苦笑しながら口を開く。
「うん。アランの運転が荒いってのは、今のでなんとなく分かった」
「運転したことの無い奴が何言ってんだ」
青年は、そう言うと乱暴にハンドルを切った。この為、少年は窓に側頭部を打ち付け、打った場所をさすりながら溜め息を吐く。
「確かに、俺は運転したことがないし、詳しくもないよ。でも、いちいち体に負荷が掛かるって、普通じゃないと思うんだけど」
少年は、そう言うとアランの横顔を見つめた。対するアランは鼻で笑い、目を細めて言葉を発する。
「俺の運転に文句があるなら、自分で運転出来るようになれ。お前の年なら、運転してる奴は運転してるぞ?」
青年の話を聞いた者は目を伏せ、呟くように話し出す。
「俺が、公的な免許を取れる訳無いじゃん」
そこまで話したところで目を瞑り、少年は尚も話を続けていく。
「そりゃ、運転技術はなんとか出来そうだけど……それからが、俺には難しいよ」
そう言って細く息を吐くと、少年は薄目を開けて窓の外を見る。すると、外の景色は目まぐるしく変わっており、かなりのスピードが出ていることが窺えた。
「んなもん、どうとでもなるだろ。俺だって、褒められた生き方はしてねえけど、こうやって運転しているんだしな」
少年を元気づけようとしてか、アランは明るい声で伝えた。しかし、少年に納得する様子はなく、アランは諦めた様子で息を吐く。
その後、会話の無いまま二人は目的地に到着した。アランは、少年へ先に降りるよう伝えるとエンジンを切り、自らも降車すると腰に手を当てて背中を伸ばす。
「さて、見舞いに来たはいいけど、何も持って来てねえな」
青年は、そう言うとポケットから鍵を取り出し、車の鍵穴に差し込んだ。そして、少年を横目で見ると軽く笑い、空を見上げる。
「で、入院中の子供達に会ったら、どうするか考えてあるのか?」
そう問うと、アランは少年の目を真っ直ぐに見た。対する少年は首を振り、それを見たアランは鍵を引き抜いてポケットに戻す。
「じゃ、そこで暫く考えてろ。俺は、適当にお菓子でも買ってくるから」
そう言うや否や、青年は車に乗り込んで走り出した。一方、その場に残された少年は、呆気にとられた様子で車を見送る。彼は、車が視界から消えた後、その周囲をゆっくり見回した。
アランの車が走り去った方向とは逆側に、病院と思しき建物が在った。その建物の周囲は木々に囲まれ、休憩を取れるように長椅子が幾つも用意されている。少年は、そのうち一番近い椅子に座ると背中を丸めて目を瞑った。彼は、そうしたまま動くことは無く、アランが戻ってくるまで椅子に座り続けていた。
数十分程して戻ったアランは、茶色の紙袋を胸に抱えていた。彼は、それを抱えたまま少年に近付き、その足音や気配に気付いた者は目を開く。