イスパニア魔導王国、魔女ベアトリス

文字数 2,236文字

 愛宕山に着いた一行は信長と光秀改め天海を<ボトムストライカー>隊で護衛していた。
 その道すがら、安倍清明が情勢分析を語りはじめた。

(要、この並行世界(パラレルワールド)ではイスパニア、つまりは後のスペインは衰退しないのじゃ。救国の魔女ベアトリスによって、イスパニア魔導王国と呼ばれ、南米に続き、アメリカ大陸にも版図を広げ、やがて日独伊の枢軸国と第二次世界大戦を起こし、日本はイスパニア帝国の属国となる)

 晴明が語ったこの世界の歴史は恐るべきものだった。
 安東要がうなづく。

(しかし、わしの読みではイスパニアはあまり怖れるような国ではなく、イギリスが台頭すると睨んでいたのだがな)

 信長が不満そうに首をひねった。

(信長公の洞察はわしらがやってきた『元の世界の歴史』では正しい。ただ、おそらく、異世界侵攻軍のメンバーである魔女ベアトリスの存在によって歴史が歪んでしまったのがこの世界なのじゃ)

 晴明の言葉は続く。

(天正八年[1580年]イスパニアはポルトガルを併合し、アフリカなどの植民地を支配下にし、無敵艦隊をアジアに派遣する計画をたてた。イスパニアの外交使節としてイエズス会の東インド巡察師ヴァリアーノが翌年二月に京都に上洛し、信長公は馬揃えの軍事パレードでもてなし、安土城で七月十五日まで外交交渉をした。
 だが、イスパニアの明国出兵要請を信長公が蹴って、イエズス会とも手切れとなった。
 同じイエズス会のルイス・フロイスのが「日本史」の中で信長を神を怖れぬ異教徒と罵っている。
 ところが、ルイス・フロイスは都から追放され、備後の鞆の浦に御所を構えて、毛利輝元を副将軍に任命している将軍足利義昭にも取り入って、京都の布教の許可を得ている。
 そして、朝廷のからの使者で信長公は上洛する。
 太政大臣、関白、征夷大将軍、どれでもよりどりみどりに任じるという知らせじゃ。
 これが実現すれば、鞆の浦の足利義昭の将軍位は消滅し、毛利、長宗我部などの西国大名の大義名分はなくなり、逆賊として討伐できることになる。
 そして、その直後の本能寺の変。
 誰が信長公を罠にかけたか透けて見えるじゃろ)

 清明の声が幾分、怒気を孕んでいるように聴こえた。

(わしも、囲碁とか茶会で遊び呆けて見せていたが、もしものための突貫工事で抜け穴を掘っていたのだが、まさかの服部忍軍の登場で危ないところじゃったわ。清明殿には感謝しとる。しかし、家康も怪しいが、雇い主はイエズス会か、足利義昭あたりじゃろうな)

 信長得意のうつけの振りだったようだ。

(そんなところでしよう)

 清明も同意する。

「では、僕らはここまでです。ご武運を」

 安東要が名残り惜しそうに立ち止まって信長に敬礼する。
 メガネ君と神沢優もそれにならう。
 <ボトムストライカー>隊はすでに森の中に潜んでいる。

「のぶちん、てんちゃん、これ、波奈からのプレゼントよ。御守もあるよ」

 月読波奈は月読家に伝わる御守の神鏡をふたりに手渡した。
 首から吊り下げるペンダント方式である。

「それと、神沢優ちゃんからもサイバーグラスをあげるって。いろいろと見えるから便利だよ」

「波奈殿、なかなか良い物を頂いてかたじけない」

 天海は頭を下げて礼を言った。

「いろいろ見えるって何が見えるのかな」

 信長は興味深げに受け取ると、早速、かけてみた。

「ほほう。波奈殿の今日のパンツは紫じゃな」

 信長は笑いながら冗談混じりに言った。

「もう、のぶちん、エッチなんだから」

 と言いながらミニスカを手で押さえても無駄なのだか。

(メガネ隊長、確かに波奈ちゃんのパンツは紫です)

 ナメクジ型ドローンを開発した偵察部隊のドローンオタクがメガネ君に映像を送ってくる。

(そんな機能があったのか! 神沢隊長、これは隊員たちの必須装備として不可欠です。支給をお願いします)

(透視機能はないやつで)

 と無情な返答が返ってくる。

(それでは隊員たちの士気が保てません!)

メガネ君の瞳は一歩も譲らないぞ!という情熱の炎で燃えていた。  

(では、見えるか見えないか半分スケスケモードのやつで)

 神沢優は譲歩した。

(ありがとうございます! ある意味、それの方がいいかもしれない。ふふふ)

 メガネ君はほくそ笑んだ。
 後日、隊員からやっぱり見えません!という苦情が来ることになるのだが、それは後の話である。

 とりあえず、この戦いを潜り抜けたら、見えるか見えないか半分スケスケモードのサイバーグラスが支給されるという通信によって、オタク軍団の士気はマックスまで高まった。 
 それでいいのだ。 

 だが、この出来事が結果的にオタクたちの命を救うことになるのは運命の皮肉というべきか。
 神様も罪なことしやがるねえ。

 言うまでもないことだが、天海の黒の法衣はやっぱりミニスカで白のニーハイソックスが眩しかった。
 信長もお揃いの白のニーハイであったが、それが死に装束に見えるのはメガネ君の目の錯覚ばかりではなかった。
 虫の知らせという奴かもしれなかった。

 




(あとがき)


 文字数が足りなくて、下らないシーンを追加したが、これがなんとなく戦いの行方を予感してますね。

 次回はようやく、愛宕山連歌会となりそうです。

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登場人物紹介

 安東要(あんどうかなめ)


 東日本大震災後、名古屋に新政府を移し復興に務める若き民政党の総理。
 陰陽師、安倍清明の転生術で35歳→24歳に転生し過去に戻り、東日本大震災を防ごうと悪戦苦闘する。

 月読波奈(つくよみはな)

 通称≪ブスメガネ≫。今時、珍しい牛乳瓶の底のような丸いメガネをかけている。
 安東要が通う名門大学のラノベサークルの後輩で大学二年生の20歳である。

 安部清明(あべのせいめい)

 名護屋の清明神社で安東要の前に現れ、東日本大震災を防ぐという願いを叶えると約束する。

 神沢優(かみさわゆう)


 公安警察、秘密結社<天鴉(アマガラス)>のリーダー。

 メガネ君


 巨大小説投稿サイトのバイトリーダーメガネ君。
 秋葉原で安東要たちの戦いに巻き込まれ、行動を共にする。
 ネットゲーム<刀剣ロボットバトルパラダイス>の人型機動兵器<ボトムストライカー>の操縦に長けていたため、オタクたちと大活躍することになる。

 織田信長(おだのぶなが)

 某戦国武将だが、秘密結社<天鴉(アマガラス)>の剣の民でもある。

明智光秀(あけちみつひで)

本能寺変後に死ぬはずが命拾いし、僧となり<天海>と名を改める。

ザクロ

メガネ隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の廃課金プレーヤー。
メガネ君と共に人型機動兵器<ボトムストライカー>を駆って活躍する。

ハネケ

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
金髪碧眼のオランダ人ハーフ。 

夜桜(よざくら)

メガネ隊の新人。<刀剣ロボットバトルパラダイス>のプレーヤー。
黒髪に黒いくさび帷子を愛用。 

カトウ

神沢隊の副隊長で<刀剣ロボットバトルパラダイス>の微課金プレーヤー。
たまに出てくるがさほど活躍しない。

雛御前(ひなごぜん)

安部清明の式神衆筆頭、ミニスカ十二単衣の美少女。

猫鬼(びょうき)

雛御前の使い魔で猫娘姿のコスプレをしている。

犬神(いぬがみ)


雛御前の使い魔で狼男のコスプレをしている。

魔女ベアトリス

見かけとは違う、この世界をも滅ぼすほどの強大な魔力を持つ。
媚術を使って人を虜にし操る。

リカウド・バウワー

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の団長である。
めんどくさい性格でどこかユーモラスな所があるが侮れない力をもつ。

マリア・アドレラ

魔女ベアトリスの親衛隊である<薔薇十字騎士団>の副団長である。
秘剣<十字剣>の使い手。

魔導師アリス・テスラ

時空間魔法を使うチート魔導師。

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