第11話 遺書
文字数 1,634文字
「後は、この紙が死体のすぐそばに置いてありました」
刑事が取りだしたのは、遺書と書かれた紙だった。
遺書にはワープロでこう書かれていた。
『この学校で起きた一連の殺人事件は、全て私が起こしたものです。なぜこのような事件を起こしたのか、その理由は健二と聖奈にあります。
実は私は、密かに健二と付き合っていたのです。優香の目を盗んではデートに行き、愛情を深めていました。
しかし私はある日見つけてしまったのです。健二と聖奈が二人でいるところを。
初めは一緒にゲームをしているだけだと思いました。しかし二人は誰も見ていないことを確認すると、互いに手を握り合ってキスをしたのです。
その光景を見て私は二人に憎しみを抱きました。そして今回の殺人に至ったわけです。
グループのメンバーや学校関係者にはご迷惑をおかけしました。お詫びになるかはわかりませんが、私の命を絶つことで許していただければと思います』
遺書を読み終わった一同は皆黙っていた。
最初に口を開いたのは佐倉だった。
「どう思う、二人とも」
「この遺書、私は納得できませんね」
「俺も同じです」
二人の意見は同じのようだ。
「まず死因となっているこの刺し傷なんですが、かなり奥まで刺さっています。これを自殺と仮定すると、どうやっても自分の力だけでここまで深く刺すことはできないはずだ」
「それに加えて、この遺書はワープロで書かれています。もし吉野先輩が自殺をして遺書を残すなら、確実に自分の字で遺書を書くべきだと私は思います。そちらの方が自殺の線を濃厚にできるからです。しかしこの状況では式くんが言った刺し傷の状態と合わせて、誰でも書けるような遺書が残されていることから、吉野先輩は自殺ではなく他殺だと考えています」
「まだ疑問点はあります」
式は遺書を持ちながら続ける。
「この遺書には、殺害現場に残されていたあのメッセージの意味が書かれていない。いや、それどころか動機が本当にこの遺書に書かれている通りだとすると、あのメッセージは何だったのか、それについても書かれていないんです。このことから、やはり犯人は他にいると考えるのが普通でしょう」
式と榊の意見に、反論する者は出なかった。
「それじゃ、犯人の目論見は失敗したってことね」
「目論見か……」
式は吉野の殺人について、不可解なことがもう一つあった。
それは何故このような形で殺害をしたのか、という点だ。
犯人が『思い出の場所で永遠に』というメッセージ通りの殺人を行っているのだとすると、犯人は七人のグループの中にいて、他の六人に対して何らかの殺害動機があるということになる。
しかし今回の吉野の殺人は吉野を含めてまだ三人しか殺害していないにも関わらず、自分が犯人ということで自殺に見せかけ、犯行はもう終わりというような工作をしていた。
この矛盾について、式は納得できる答えをまだ見つけていない。
「犯人は吉野先輩の殺人を自殺に見せかけたかったということは、もう今後は殺人を行わないということでしょうか」
榊は死体を見ながら呟く。
この何気ない言葉が、式には大きく引っかかった。
「殺人を行わない……」
式は必死に頭を回す。
「式くん、一度隼人兄さんの所へ戻りましょうか。あちらでも何か進展があるかもしれません」
「……そうだね。あっちの殺人についても何かわかったかもしれないし」
「あっちの殺人って?」
事情を呑み込めていない佐倉が尋ねる。
「実は、吹奏楽部の部室で水瀬さんが殺害されていたのです」
「え、水瀬さんも!?」
「はい」
榊から報せを聞いた佐倉の表情が曇る。
式は佐倉の心情を察しながらも、
「佐倉先生、俺たちは一旦吹奏楽部の方に戻ります」
と言った。
「そ、そうね。式くん頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
一礼し、二人は吹奏楽部の部室に向かった。
刑事が取りだしたのは、遺書と書かれた紙だった。
遺書にはワープロでこう書かれていた。
『この学校で起きた一連の殺人事件は、全て私が起こしたものです。なぜこのような事件を起こしたのか、その理由は健二と聖奈にあります。
実は私は、密かに健二と付き合っていたのです。優香の目を盗んではデートに行き、愛情を深めていました。
しかし私はある日見つけてしまったのです。健二と聖奈が二人でいるところを。
初めは一緒にゲームをしているだけだと思いました。しかし二人は誰も見ていないことを確認すると、互いに手を握り合ってキスをしたのです。
その光景を見て私は二人に憎しみを抱きました。そして今回の殺人に至ったわけです。
グループのメンバーや学校関係者にはご迷惑をおかけしました。お詫びになるかはわかりませんが、私の命を絶つことで許していただければと思います』
遺書を読み終わった一同は皆黙っていた。
最初に口を開いたのは佐倉だった。
「どう思う、二人とも」
「この遺書、私は納得できませんね」
「俺も同じです」
二人の意見は同じのようだ。
「まず死因となっているこの刺し傷なんですが、かなり奥まで刺さっています。これを自殺と仮定すると、どうやっても自分の力だけでここまで深く刺すことはできないはずだ」
「それに加えて、この遺書はワープロで書かれています。もし吉野先輩が自殺をして遺書を残すなら、確実に自分の字で遺書を書くべきだと私は思います。そちらの方が自殺の線を濃厚にできるからです。しかしこの状況では式くんが言った刺し傷の状態と合わせて、誰でも書けるような遺書が残されていることから、吉野先輩は自殺ではなく他殺だと考えています」
「まだ疑問点はあります」
式は遺書を持ちながら続ける。
「この遺書には、殺害現場に残されていたあのメッセージの意味が書かれていない。いや、それどころか動機が本当にこの遺書に書かれている通りだとすると、あのメッセージは何だったのか、それについても書かれていないんです。このことから、やはり犯人は他にいると考えるのが普通でしょう」
式と榊の意見に、反論する者は出なかった。
「それじゃ、犯人の目論見は失敗したってことね」
「目論見か……」
式は吉野の殺人について、不可解なことがもう一つあった。
それは何故このような形で殺害をしたのか、という点だ。
犯人が『思い出の場所で永遠に』というメッセージ通りの殺人を行っているのだとすると、犯人は七人のグループの中にいて、他の六人に対して何らかの殺害動機があるということになる。
しかし今回の吉野の殺人は吉野を含めてまだ三人しか殺害していないにも関わらず、自分が犯人ということで自殺に見せかけ、犯行はもう終わりというような工作をしていた。
この矛盾について、式は納得できる答えをまだ見つけていない。
「犯人は吉野先輩の殺人を自殺に見せかけたかったということは、もう今後は殺人を行わないということでしょうか」
榊は死体を見ながら呟く。
この何気ない言葉が、式には大きく引っかかった。
「殺人を行わない……」
式は必死に頭を回す。
「式くん、一度隼人兄さんの所へ戻りましょうか。あちらでも何か進展があるかもしれません」
「……そうだね。あっちの殺人についても何かわかったかもしれないし」
「あっちの殺人って?」
事情を呑み込めていない佐倉が尋ねる。
「実は、吹奏楽部の部室で水瀬さんが殺害されていたのです」
「え、水瀬さんも!?」
「はい」
榊から報せを聞いた佐倉の表情が曇る。
式は佐倉の心情を察しながらも、
「佐倉先生、俺たちは一旦吹奏楽部の方に戻ります」
と言った。
「そ、そうね。式くん頑張ってね」
「はい。ありがとうございます」
一礼し、二人は吹奏楽部の部室に向かった。