プロローグ

文字数 2,159文字

 人生とは何が起こるか分からない。だからこそ面白い。

 誰かがテレビでそう言っていた。

 人生は夢だらけ……

 何かのCMでそんなフレーズが流れていた。

 けど……本当にそうなのだろうか??

 いや!!誰しもがそんな訳あるはずがない!!

 ではあたしにとっての人生とは何か?

 それは……

 あたし、皐月珠惠(さつきたまえ)にとっての人生とは……

 運動会の競技に例えるなら『障害物競争』である。

 この平和な世界、平穏な日常……

 日々は変わりなく単調に過ぎて行く中、あたしはある事情を抱え日々『障害物』を避けて処理して過ごしていた。

 きっとあたしの人生はこれからもずっとそうなのだろう。

 何があるか分からない『障害物』と出会い流れる日々を過ごすのだろう……

 ……………

 ………ってそんなの嫌に決まってる!!

 でも、そう願えば願う程に『障害物』というのは次々にあたしに投下されていくのだと、あたしはこれから嫌と言う程そう思い知ることになる。

 そう……あの時も……

 きっかけはほんの些細なことからだった。


「うう……なんであたしだけこんな目に……」

 この日もあたしはあたしの抱える『とある事情』のせいで疲れ切っていた。

 いつもの様に登校し、いつもの様に授業中つい居眠りをし担任に呼び出され長々と説教をされ……ようやく解放されたせいもある。そして鳴る鳴く腹の虫。人間どんな状況でも腹は減るとは本当らしい。

「くっ…神様は意地悪だ……!!大嫌いだ!!」

 疲労がピークに達していたせいもあり、つい神様とやらに悪態を吐き八つ当たりをして空を見上げた。悲しいくらい青い……いや、もう夕焼け色に染まり赤かった。

 お腹は空くし、体は怠いし寒気もするし……本当最悪。女子高生ってこんなんだったっけ?もっとこう明るくキラキラした日々を送っているはずじゃなかったっけ??

 なんだかそんな事を考えていると余計に悲しく腹立たしくなり涙まで出そうになって来た。相当ヤバい精神状態らしい。早く何かで回復しなければいけない。そんな事を考えてなんとか足を引きずり歩いていた時だった。

 ズベッ!!

 思いっきり躓いてこけた。しかも顔面から派手に。おかげで大好きな白いセーラー服も汚れて台無しだ。

「…最悪…本当……マジでなんなの今日も……」

 ノリで空なんか見上げて歩いている自分が悪い以外誰のせいでもない。本当に。

 起き上がり思い切り地面に打ち付けた額を摩り憎き『障害物』を確認しようとすると……

 あたしは直後硬直した。その『障害物』の実体を目の当たりにして……

 そして障害物(それ)を置き去りにして、あたしは我が家目指し猛ダッシュして逃げたのであった。

 ******

 あたしは皐月珠惠(さつきたまえ)十五歳。この春高校生になったばかりの真っ白なセーラー服姿が眩しいちょっと小柄な女の子である。

 特に賢くも無くお家柄も良くは無いのに何故か都内の名門お嬢様女子校へ通い、小さな体とは正反対に無駄に強い気と食欲と正義感を持って成長してしまったせいか結構危ないお兄さん達(ヤンキー類)と一戦交えることも暫し、だが負けた事は一度も無い。幸いにも。

 あ、食欲関係ないな、ここは……。

 そんなちょっと逞しく気が強い食いしん坊な元気少女のあたしは何処にでもいる普通の女子高校生でしかないだろう。元気が有り余り過ぎるとも言われるけども。

 しかし!そんなあたしにも秘密がある。誰にも知られたくない様な。

「……ああ、怠い……」

 朝から感じる倦怠感。決して年齢のせいではない、まだピチピチの女子高生なのだから!!では虚弱体質?いやいや、まさか!!前にも述べたようにあたしは元気が有り余り過ぎているくらいの元気娘、健康そのものである。

 じゃあ何?いい加減教えろや……そう思って来ただろう。なら言おう、あたしの秘密を!!

 実はあたし……霊感少女なんですよ!それもかなり

やすいと言うとんでもなく迷惑な。なのでこの倦怠感。納得して頂けただろうか?あ、引かないで。

 しかも厄介な事にあたしは自分に憑いている霊を取り除くことが出来ない。つまり、取り憑かれたら待つしかないのだ……離れてくれるのをじっと。霊も霊で一人の人間にずっと取り憑いている程に暇ではないらしい。期間としては…あたしの知る限りでは最短で一日、最長で一ヶ月くらいだ。

 しかもこれ。ただ取り憑いているだけで大人しくしていてくれたら良い物を、図々しい奴は話しかけて来たり、夜な夜な金縛りに合わせたり…もっと質の悪い奴だと耳元で気味の悪いう呻き声の様なものを発したり…成仏するために何か手伝えだのと脅されたこともある。全く、死んでも他人に迷惑を掛けるとは…一体どういう神経をしているんだか。

 とにかく!!あたしのこの十五年の経験からして言わせてもらうと霊って奴は『自分勝手!!自己中心的な得体のしれない気味の悪いモノ』なのだった。そりゃ、中には健気で応援したい霊とかもいたけど。何にせよ、迷惑であることには変わりは無い。

 ああ……どうせ寄って来るならもっとこう優しいイケメンさんとかが……乙女ゲームやアイドルみたいな。したらあたしだってやる気だすのになぁ……。

 そんな不幸な秘密を持って生まれたあたしの人生なんて夢なんて無いのだ。

 ああ!!どうかあたしに人並みの安定した日常と潤いを!!



  
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登場人物紹介

皐月 珠惠(さつき たまえ)


正義感が強い元気が取り柄の霊感体質の女子高生。とにかく霊に憑かれやすく、苦労している。星花町の商店街で喫茶店『金木犀』を営む。小柄だが大食い。ハリセン除霊(ただし他人に憑いている霊のみに有効)が出来るが本人の役には立たないので悲しいところ。

如月 紫乃(きさらぎ しの)


星花町で古書店『青嵐堂』を営む若き店主。東雲青嵐という名で作家業をする傍ら、祓い屋もしている大正ロマン風の恰好をした爽やか(胡散臭い)お兄さん。たまに袴姿。いつも穏やかで優しいが、怒ると怖いというか面倒臭い。年下や女性に弱いが、決してロリコンでも女たらしでもないらしい。

皐月 聡一郎(さつき そういちろう)


珠惠の年の離れた兄で元刑事。今は星花町の喫茶店『金木犀』の店主。妹想いの良き兄だが、かなり過保護。頭が堅く頑固者だが、なんだかんだで優しいお兄ちゃん。

日下 凛(くさか りん)


喫茶店『金木犀』のアルバイト店員。天真爛漫で人懐こい性格。美少女の様な愛らしい容姿とは裏腹にかなり逞しく頼もしい一面もある。都内の専門学校生で立派な二十歳の成人男性。

小桜 むめ乃(こさくら むめの)


星花町の小料理店『小桜庵』の若き女店主。聡一郎とは幼馴染みでよくからかって楽しんでいる。穏やかで優しい癒し系大和撫子だが、多趣味で暇さえあれば色々な所へ出向いて学んでくる。ちょっとだけお祓いの知識があるが、成功率は50%と極めて危うい。

立花 秋明(たちばな しゅうめい)


上から目線のオネエさん系男子高校生。気が強く気分屋、気まぐれ猫みたいな…。美意識も理想も高くイケメンが大好物。ひょんなことから珠惠と関わるようになり、なんやかんや煩く文句を言いながらも助けてくれるので、実は面倒見がよいのかもしれない。一応祓い屋さん。女装は趣味ではないが乙女趣味。

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