第7話 自死でも葬儀は拒否しません。
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ハジメさん、彼女のことで過去に不当な訴えがあれば、それに基づく対処はさせません。私が調べて洗い直します。ただし、今回は明確な意志と殺意を持ってあなたの命を奪おうとしてきました。その点はきちんと処罰を受けてもらいます。
その時だった。四人の中で最も動物的勘の鋭いペンタがふと呟く。
「あんたたちに従うくらいなら死んだ方がまし」……ついさっき投げられた言葉が頭に浮かぶ。ハジメは慌てて穴の中を覗き込むが、彼女の体はピクリとも動く様子がない。
下まで行って確かめたら襲われる、っていうパターンかもな。罠だとしたら、穴の中で毒液を吐かれたら逃げられる余裕もない。一発でアウトだ。かといってマジで息をしていなかったらこのまま死なせることになる……なかなか厄介じゃねーか。
自ら命を絶つことは罪である……教会内でそのような評価が定まってきたのは、7世紀の教父トマス・アクィナス以降だと言われている。欧米では、カトリックの信徒が自死によって命を落とした場合、神父が葬儀を引き受けてくれないなんてシーンが映画に出てくることもある。しかし、実際のところ、日本のカトリック教会では「自殺だから」という理由で葬儀を拒否することはまずないと言っていい。とはいえ、目の前で死のうとしている人間をほっておくわけにはいかない。
ハジメが選択しようとした時だった。突然、背中に焼けるような痛みが走る。
振り返ると、ついさっきハジメが上からレッド・ショットを放ったように、教会の屋上に立って毒液を飛ばしてくるスネイク・マーダーの姿があった。
そう、彼女はハジメたちが話している間に脱皮した皮を身代わりにして、こっそりと穴を抜け出していたのだ!
背中の鱗が一部溶け、ハジメは自嘲気味に苦笑する。幸い、鱗のおかげで思ったほどひどい負傷はしていない。これは穏やかに終わらせそうにないな……そう呟きながら、ハジメはもう一度神経を集中する。再生能力の高いトカゲのミックスで助かった。エネルギーをだいぶ消耗する代わり、傷ついた鱗をみるみるうちに再生させる。スネイク・マーダーの方もこれだけ何度も毒液を出したのだ。残りは幾ばくもないだろう。今度こそ、次に決着がつく。ハジメは深く息を吐き出した……