理想主義から現実主義へ転換する元魔王勇者

文字数 1,002文字

☆☆☆

「ねえ、せっかくだから城下町に戻っていろいろと装備を整えようよ! 武器とか!」
 怪鳥を倒したあと、念のため薬草を四つほど買ったところで、リイナがそんな提案をしてきた。
 魔王時代は最初から魔王の鎧・魔王の剣・魔王の兜などがあったので、自分で装備を買うなどということはなかった。
 人間になってからは宿屋の手伝いで食料や日常品を買いに大きな町へ行くことはあったが、祖父からもらった短剣をずっと使い続けていたの、新たな武器を買うこともなかった。
「ううむ……それでは、ますますこれまでの勇者と変わらなくなる気がするが……」
「だって、ルーファは勇者なんでしょ? じゃあ、これまでの勇者みたいに勇者らしくすればいいんじゃない?」
 ルーファが元魔王であることを知らないリイナは、しごくもっともな疑問を口にしていた。
「だが、しかし……」
「それにさっきみたいな強制バトルがあるかもしれないし、村の人に聞いた話じゃ、まずは洞窟を通らないと次のエリアへいけないみたいだから、ある程度装備を整えてレベルを上げないと途中でやられちゃうかもよ! 洞窟で戦闘不能になったら、絶対そのまま殺されちゃうって!」
 本当にいちいちもっとも指摘だった。
(そうか……勇者というものは、望むも望まぬも関係なく殺人鬼になり銭ゲバにならざるをえないのだな……)
 ここから魔王城がどれほど遠いかは、元魔王の自分が一番よく知っている。
 それまでひたすら逃げ続けることは不可能だし、そもそも最後の魔王との戦いのときにレベル1初期装備で勝てるわけがなかった。
 元勇者魔王は自分の甘さを痛感させられた。非暴力非服従では冒険は成り立たない。
「やっぱりルーファにはあたしがついてないとだめだよねっ! 冒険者だったお父さんとお母さんからいろいろと冒険の心得も聞いてるし、あたしに任せて!」
 またいつものようにお姉さんぶるリイナ。こうなると、従順な弟のように振る舞わないとだめだ。逆らうとへそを曲げて話してもらえなくなる。
「わかった……我は理想主義的というよりも夢想主義的であったと反省している。ここは断腸の思いで現実主義路線に方針転換するしかないようだ」
「もー、本っ当にルーファは難しいことばかり言ってて、わけわからないんだから~」
 元魔王勇者の葛藤はリイナに容易く切って捨てられて、結局、ふたりは城下町へ戻ることになった。
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登場人物紹介

ルーファ。

元魔王。人間に転生して村で暮らしていたが、勇者に選ばれてしまう。


リイナ。

ルーファの幼なじみ。宿屋の娘。

冒険者だった父母から武術を学び、ルーファと共に冒険の旅に出る。


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