第六話 修行巡礼・前編
文字数 4,110文字
数々の寺、神社が存在する町、京都府。古の日本の首都だ。この町に可憐は来ている。いつもの仲間である鏡子は東京に、夏穂、狂儀と共に待機している。
「私も、強くならないといけない」
観光など、眼中には無い。新幹線から降りた可憐は、真っ直ぐに聖霊神社を目指していた。長治郎から聞いた、神代に関わる霊能力者の修行の場だ。未だに巡礼者も存在する。歴史こそ浅いものの、多くの実力者を生み出してきた実績は確かなもの。修行の場として、不足はない。
既に神社には話をつけてある。だから手続きなどは簡単に済ませ、本人であることだけを高校の生徒手帳を使って証明した。
「来たわね、強い意志を感じるわ」
今も四人の女性が修行中だ。最初に可憐を出迎えたのは、鑢原 桔梗 。おとなしそうな女性である。
「こっちよ。衣食住は保障されるけど、それ以外に特にルールはないわ。普通修行って言うと、娯楽がないほど厳しいイメージあるかもだけど、別に大丈夫。私だって夜はお酒を飲むもの。でも、十二時までに布団に入ること。それだけは厳守してね」
まずは荷物を置きに、客間に入った。六畳一間。なんと布団の他にテレビやクーラーが置いてある。
「今日は疲れたでしょう? ゆっくり休…」
「いいえ、今日からでいいわ。寧ろ今すぐ始めて!」
可憐の主張は強かった。桔梗はその心を曲げられないと悟り、修行の間に案内した。
そこでは女性が二人、座禅をしていた。開けっ放しの窓の横には、直径一メートルほどのスズメバチの巣ができている。ハチは頻繁に出入りをし、室内に侵入する個体もいる。だが、誰も騒がない。現に二人は、頭や手、足にハチが止まっても何も言わない。顔に引っ付いても、呼吸を乱すこともしない。すると、ハチの方が興味を失って、巣に戻っていく。
座禅を見張る女性も、ハチを追い払おうとしない。寧ろ逆で、この修行の間には観賞植物が多く育てられており、スズメバチの餌となる小さな虫が花の上でごった返している。
桔梗が、手をバンバンと叩いた。だが三人は無反応。まるで聞こえていない様子だ。
(すごい…! この集中力は一級品っ! 私じゃ五秒も持ちやしないわ…)
はあ、とため息を漏らすと桔梗は、
「自己紹介は後でいい? きっとあの三人、あと二時間は動かないわ。一度始めた修行は、例え死んでも最後まで行うとするのよ」
と言った。空いた二時間、可憐は桔梗に別の修行をさせてもらうことになった。
その頃、神代の本部では会議が行われていた。幹部たちが様々な表情を見せる中、あからさまに怒っている人物が一人いる。現代表の標水だ。神代の追撃部隊の全滅は、彼の堪忍袋の緒に手をかけてしまったのである。
「ここは、強硬手段しかないな」
誰かが呟いた。月見の会は明確な敵対態度を何度も見せた。ならば、もう情けはいらない。徹底的に叩きのめし、この世から追放するだけだ。
だが、中々その決断に至れないのも事実だ。理由は簡単。月見の会の新集落の場所を誰も知らないからである。
神代グループの弱点であった。日本中の霊能力者とコネクションがあるのが売りだが、月見の会のように繋がっていない者たちの所在までは把握していない。両方とパイプを持つ第三者もいない。神代が霊能力者を囲ってしまっているから、囲い落としがないのだ。
標水の機嫌をとる方法は一つしかない。その一つが事実上、実行不可能。誰もが嫌な汗を隠せない。
「探索部隊を編成しよう。月見の会が逃げたルートの延長上を探せば、そこにあるかもしれない」
こんなことは、誰も言わない。実際に昨日、実行に移した作戦である。だが、また義手の男が現れ、部隊は全滅。標水の機嫌が一層悪くなるだけだった。
「幻霊砲を準備しておけ」
重い沈黙を破ったのは、標水自身だった。その発言をきっかけに、幹部たちがざわついた。
「げ、げ、幻霊砲ですか? しかしそれは…」
「聞こえなかったのか? もう一度だけ言う。準備をしろ。時が来たら、私が撃つ」
怒りを感じるトーン。誰も反対しなかった。
この会議には、長治郎も参加していた。若い長治郎に発言権などない。誰がどう見ても人数合わせだ。
「これは、まずいことになった…」
会議中だが可憐にすぐ、メールを送る。同時に鏡子、夏穂にも送信する。
長治郎の焦りには、理由があった。神代が最終手段を用意したことが月見の会に発覚したら、会は何をしでかすかわからない。その何かで、彼女らを傷つけたくなかったからだ。安全な場所を確保し、そこに待機させなければいけない。少なくとも、幻霊砲には近づけてはいけない。
すぐに返事が来たのは、夏穂だった。彼女は安全が確認されたから、狂霊寺に待機していると言った。長治郎はそれでいい、と返事を打った。
鏡子は、東京にいた。なので長治郎は、自分の元=神代の本部に来るよう言った。
返事が来なかったのは、可憐だった。
「何をしている…? 緊急事態は目の前なんだぞ?」
そう呟いてしまったが、白熱した会議の声に消されて、隣に座っているものですら耳で拾えなかった。
そんなメールが来ているとは知らず、可憐は修行に勤しむつもりだ。
事情を説明したら、提案が返って来た。
「単刀直入に言うわ。実戦訓練しかない。あなたが言う、義手の男に勝つには、戦闘の腕を磨く以外に方法がない。基礎基本はできてるみたいだから省くとして、私と他の三人に勝つことね。それができないなら、ここから出さないわ」
そして可憐をもう一つの修行の間に案内する。桔梗としては、みっちり修行させたいつもりだった。だが今は、そんな余裕はない。月見の会との闘争が始まったことは、ここ聖霊神社にもその情報が飛び込んでいる。一刻を争う状況で、義手の男を倒す役目を担いたいと発言した可憐の存在は大きかった。すぐに互角以上に渡り合えるように鍛えなければいけないのである。
「じゃあ、まずは一戦。手加減はいらないから、全力で。どちらかが降参するまで続ける。わかった?」
「ええ」
お互いに位置につくと、三十秒待つ。そして実戦訓練開始。可憐は桔梗に向かって走り出したが、その桔梗は後ろに下がった。
「くっ!」
リーチが足りない。札を出したはいいが、射程内に桔梗の姿はない。
(このスタイルを、根本的に変える必要があるわね………!)
慌てて髪の毛の先端を切り取ると、桔梗に向かって吹きかける。だが、その方向から飛んできた、霊魂に全て弾かれた。可憐も避けきれずに直撃した。
「うわあ!」
桔梗の得意戦術は、離れた位置から霊魂を飛ばすこと。対する可憐は札で切るかかること。明らかに不利だ。
だが簡単には諦めない。立ち上がると同時に、札をブーメランのように投げた。鋭い弧を描きながら飛んだ札は、桔梗に当たると同時に鬼火に焼かれて消滅してしまう。
「そんなありきたりな戦法じゃ、絶対に勝てないわ。無駄死にが落ちよ」
「ううむう…」
言い返す言葉がない。
「でも!」
単語がないなら、行動で示せばいいだけの話。可憐は懐から、藁人形を取り出した。狂霊寺でいくつか調達した内の一体。
(離れていても、呪いなら!)
藁人形の腕を握る。すると桔梗は、
「はあうぅ!」
腕を押さえて叫んだ。効果あり。可憐は思わずニヤッとした。
だがそれが油断。桔梗は、痛みが防げないなら仕方ないと言わんばかりに腕から手を離し、札を構えて再び霊魂を射出した。今度は四発。一発だけなら避けられると思っていた可憐に、後続の二発が直撃し、可憐は背中から床に倒れた。同時に藁人形が手からすり抜けてしまった。
「いててててて………!」
藁人形を拾おうと伸ばした手首を、桔梗が踵で踏んづける。
「白旗揚げたら? これじゃあ話にならないわ。時間の無駄よ」
しかし、桔梗の方から近づいてきたということは、可憐にも攻撃のチャンスが訪れたということでもある。すぐに札を取り出し、桔梗の足を切ろうと振る。
そこで桔梗は、その場で縦に一回転。鮮やかに攻撃をかわすと、振り下した両足が可憐の両腕を見事に捉えていた。
「うう…!」
両手を拘束された可憐に勝ち目は残っていなかった。数秒後、可憐は白旗を揚げた。
自己紹介ができたのは、その日の夕食の時だった。
「里見可憐です。東京都の高校に通っています…」
声の調子は暗い。桔梗に歯が立たなかったのが悔しいからだ。
名前の他には、自分がどうして修行に身を置く決意をしたか述べた。
「私は、麻倉 炙 。よ~ろしくねー」
「大神 岬 よ」
「斧生 蜜柑 ですわ」
みんな、座禅の時に見せていた顔とは全然異なり、優しそうだった。
「あんたの事情はわかるけどさー、少しはゆっくりしなよー。急いで土を掘ったって、トンネルは崩れるだけだよー?」
炙がそう言うと可憐は、
「私も、そう思います。明日はちょっと気晴らしに行きます」
と言った。
「じゃあ、京都の町を私が案内してあげるー」
「やめておきなさい。炙に案内されても地獄に着くだけよ」
岬が言った。
「ひど~いー!」
「私なら、完璧にできますわよ」
「地獄に?」
「…岬、こういう時ぐらいは死後の世界から離れなさいよ?」
落ち込む可憐のために先輩たちは、明るい会話を提供してくれた。可憐もここでふてくされても仕方ないと判断し、笑顔を取り繕った。
一緒に食事をとりながら、可憐は感じた。
(この三人…。桔梗さんよりもできる……!)
もしかしたら、自分の代わりにあの男を倒してくれるかもしれない。だがすぐに、いいやと心の中で首を横に振る。
(あの男は、私が倒す!)
その決意を、揺らがせてはいけない。自分の気持ちを強く保たなければ。
「私も、強くならないといけない」
観光など、眼中には無い。新幹線から降りた可憐は、真っ直ぐに聖霊神社を目指していた。長治郎から聞いた、神代に関わる霊能力者の修行の場だ。未だに巡礼者も存在する。歴史こそ浅いものの、多くの実力者を生み出してきた実績は確かなもの。修行の場として、不足はない。
既に神社には話をつけてある。だから手続きなどは簡単に済ませ、本人であることだけを高校の生徒手帳を使って証明した。
「来たわね、強い意志を感じるわ」
今も四人の女性が修行中だ。最初に可憐を出迎えたのは、
「こっちよ。衣食住は保障されるけど、それ以外に特にルールはないわ。普通修行って言うと、娯楽がないほど厳しいイメージあるかもだけど、別に大丈夫。私だって夜はお酒を飲むもの。でも、十二時までに布団に入ること。それだけは厳守してね」
まずは荷物を置きに、客間に入った。六畳一間。なんと布団の他にテレビやクーラーが置いてある。
「今日は疲れたでしょう? ゆっくり休…」
「いいえ、今日からでいいわ。寧ろ今すぐ始めて!」
可憐の主張は強かった。桔梗はその心を曲げられないと悟り、修行の間に案内した。
そこでは女性が二人、座禅をしていた。開けっ放しの窓の横には、直径一メートルほどのスズメバチの巣ができている。ハチは頻繁に出入りをし、室内に侵入する個体もいる。だが、誰も騒がない。現に二人は、頭や手、足にハチが止まっても何も言わない。顔に引っ付いても、呼吸を乱すこともしない。すると、ハチの方が興味を失って、巣に戻っていく。
座禅を見張る女性も、ハチを追い払おうとしない。寧ろ逆で、この修行の間には観賞植物が多く育てられており、スズメバチの餌となる小さな虫が花の上でごった返している。
桔梗が、手をバンバンと叩いた。だが三人は無反応。まるで聞こえていない様子だ。
(すごい…! この集中力は一級品っ! 私じゃ五秒も持ちやしないわ…)
はあ、とため息を漏らすと桔梗は、
「自己紹介は後でいい? きっとあの三人、あと二時間は動かないわ。一度始めた修行は、例え死んでも最後まで行うとするのよ」
と言った。空いた二時間、可憐は桔梗に別の修行をさせてもらうことになった。
その頃、神代の本部では会議が行われていた。幹部たちが様々な表情を見せる中、あからさまに怒っている人物が一人いる。現代表の標水だ。神代の追撃部隊の全滅は、彼の堪忍袋の緒に手をかけてしまったのである。
「ここは、強硬手段しかないな」
誰かが呟いた。月見の会は明確な敵対態度を何度も見せた。ならば、もう情けはいらない。徹底的に叩きのめし、この世から追放するだけだ。
だが、中々その決断に至れないのも事実だ。理由は簡単。月見の会の新集落の場所を誰も知らないからである。
神代グループの弱点であった。日本中の霊能力者とコネクションがあるのが売りだが、月見の会のように繋がっていない者たちの所在までは把握していない。両方とパイプを持つ第三者もいない。神代が霊能力者を囲ってしまっているから、囲い落としがないのだ。
標水の機嫌をとる方法は一つしかない。その一つが事実上、実行不可能。誰もが嫌な汗を隠せない。
「探索部隊を編成しよう。月見の会が逃げたルートの延長上を探せば、そこにあるかもしれない」
こんなことは、誰も言わない。実際に昨日、実行に移した作戦である。だが、また義手の男が現れ、部隊は全滅。標水の機嫌が一層悪くなるだけだった。
「幻霊砲を準備しておけ」
重い沈黙を破ったのは、標水自身だった。その発言をきっかけに、幹部たちがざわついた。
「げ、げ、幻霊砲ですか? しかしそれは…」
「聞こえなかったのか? もう一度だけ言う。準備をしろ。時が来たら、私が撃つ」
怒りを感じるトーン。誰も反対しなかった。
この会議には、長治郎も参加していた。若い長治郎に発言権などない。誰がどう見ても人数合わせだ。
「これは、まずいことになった…」
会議中だが可憐にすぐ、メールを送る。同時に鏡子、夏穂にも送信する。
長治郎の焦りには、理由があった。神代が最終手段を用意したことが月見の会に発覚したら、会は何をしでかすかわからない。その何かで、彼女らを傷つけたくなかったからだ。安全な場所を確保し、そこに待機させなければいけない。少なくとも、幻霊砲には近づけてはいけない。
すぐに返事が来たのは、夏穂だった。彼女は安全が確認されたから、狂霊寺に待機していると言った。長治郎はそれでいい、と返事を打った。
鏡子は、東京にいた。なので長治郎は、自分の元=神代の本部に来るよう言った。
返事が来なかったのは、可憐だった。
「何をしている…? 緊急事態は目の前なんだぞ?」
そう呟いてしまったが、白熱した会議の声に消されて、隣に座っているものですら耳で拾えなかった。
そんなメールが来ているとは知らず、可憐は修行に勤しむつもりだ。
事情を説明したら、提案が返って来た。
「単刀直入に言うわ。実戦訓練しかない。あなたが言う、義手の男に勝つには、戦闘の腕を磨く以外に方法がない。基礎基本はできてるみたいだから省くとして、私と他の三人に勝つことね。それができないなら、ここから出さないわ」
そして可憐をもう一つの修行の間に案内する。桔梗としては、みっちり修行させたいつもりだった。だが今は、そんな余裕はない。月見の会との闘争が始まったことは、ここ聖霊神社にもその情報が飛び込んでいる。一刻を争う状況で、義手の男を倒す役目を担いたいと発言した可憐の存在は大きかった。すぐに互角以上に渡り合えるように鍛えなければいけないのである。
「じゃあ、まずは一戦。手加減はいらないから、全力で。どちらかが降参するまで続ける。わかった?」
「ええ」
お互いに位置につくと、三十秒待つ。そして実戦訓練開始。可憐は桔梗に向かって走り出したが、その桔梗は後ろに下がった。
「くっ!」
リーチが足りない。札を出したはいいが、射程内に桔梗の姿はない。
(このスタイルを、根本的に変える必要があるわね………!)
慌てて髪の毛の先端を切り取ると、桔梗に向かって吹きかける。だが、その方向から飛んできた、霊魂に全て弾かれた。可憐も避けきれずに直撃した。
「うわあ!」
桔梗の得意戦術は、離れた位置から霊魂を飛ばすこと。対する可憐は札で切るかかること。明らかに不利だ。
だが簡単には諦めない。立ち上がると同時に、札をブーメランのように投げた。鋭い弧を描きながら飛んだ札は、桔梗に当たると同時に鬼火に焼かれて消滅してしまう。
「そんなありきたりな戦法じゃ、絶対に勝てないわ。無駄死にが落ちよ」
「ううむう…」
言い返す言葉がない。
「でも!」
単語がないなら、行動で示せばいいだけの話。可憐は懐から、藁人形を取り出した。狂霊寺でいくつか調達した内の一体。
(離れていても、呪いなら!)
藁人形の腕を握る。すると桔梗は、
「はあうぅ!」
腕を押さえて叫んだ。効果あり。可憐は思わずニヤッとした。
だがそれが油断。桔梗は、痛みが防げないなら仕方ないと言わんばかりに腕から手を離し、札を構えて再び霊魂を射出した。今度は四発。一発だけなら避けられると思っていた可憐に、後続の二発が直撃し、可憐は背中から床に倒れた。同時に藁人形が手からすり抜けてしまった。
「いててててて………!」
藁人形を拾おうと伸ばした手首を、桔梗が踵で踏んづける。
「白旗揚げたら? これじゃあ話にならないわ。時間の無駄よ」
しかし、桔梗の方から近づいてきたということは、可憐にも攻撃のチャンスが訪れたということでもある。すぐに札を取り出し、桔梗の足を切ろうと振る。
そこで桔梗は、その場で縦に一回転。鮮やかに攻撃をかわすと、振り下した両足が可憐の両腕を見事に捉えていた。
「うう…!」
両手を拘束された可憐に勝ち目は残っていなかった。数秒後、可憐は白旗を揚げた。
自己紹介ができたのは、その日の夕食の時だった。
「里見可憐です。東京都の高校に通っています…」
声の調子は暗い。桔梗に歯が立たなかったのが悔しいからだ。
名前の他には、自分がどうして修行に身を置く決意をしたか述べた。
「私は、
「
「
みんな、座禅の時に見せていた顔とは全然異なり、優しそうだった。
「あんたの事情はわかるけどさー、少しはゆっくりしなよー。急いで土を掘ったって、トンネルは崩れるだけだよー?」
炙がそう言うと可憐は、
「私も、そう思います。明日はちょっと気晴らしに行きます」
と言った。
「じゃあ、京都の町を私が案内してあげるー」
「やめておきなさい。炙に案内されても地獄に着くだけよ」
岬が言った。
「ひど~いー!」
「私なら、完璧にできますわよ」
「地獄に?」
「…岬、こういう時ぐらいは死後の世界から離れなさいよ?」
落ち込む可憐のために先輩たちは、明るい会話を提供してくれた。可憐もここでふてくされても仕方ないと判断し、笑顔を取り繕った。
一緒に食事をとりながら、可憐は感じた。
(この三人…。桔梗さんよりもできる……!)
もしかしたら、自分の代わりにあの男を倒してくれるかもしれない。だがすぐに、いいやと心の中で首を横に振る。
(あの男は、私が倒す!)
その決意を、揺らがせてはいけない。自分の気持ちを強く保たなければ。