マキセ②

文字数 1,596文字

2年でもキノシタと同じクラスになれたのはラッキーだった。

幼なじみのカオリも同じクラスだったのもさらにラッキーだった。

キノシタがカオリを夏祭りに誘ったからだ。

「シンちゃんも、行く?」

カオリ、ナイス!!

「あーーー、行ってもいいよ。」

便乗するフリをして、心の中では全速力で走りだしたいほどウズウズしていた。


あー早く夏祭りになれっっっ!!



当日、オレたちはタラタラと歩いて、祭がやっている、街中にある公園へと向かった。

祭へは結局、6人で行くことになった。

キノシタ、カオリ、オレ、他、男3名。

歩いている途中、キノシタがこっそりオレに言った。

「ね、なんかゴメンね!ほんとは二人で行きたかったんじゃない?」

「えっ!?」

「カ、オ、リ、と!」

「あー」

あーーー、そっちか!!!ビビった!!!

「つきあってると思わなかったからさ、あたしが先に誘っちゃったばっかりに…」

「つきあってねえよ、幼なじみ!」

「えっ、そーなの?」

「そーなのっ」

小学校高学年の頃から、何度言われたかわからないくらいの言葉だった。


祭でキノシタは、何を見てもたのしそーで、何を見てもおいしそーだと言った。

キノシタはチョコバナナ、りんご飴、クレープ、ベビーカステラ…ありとあらゆる甘い物を見つけては買った。

こっちが胸やけしそーだ。

甘い物に飽きてきたのか、キノシタはリョースケの食ってる焼き鳥を見て、
「一口ちょーだい!」
と言った。

『は?』

オレが思ったと同時に、リョースケも笑いながら言った。
「やだよ、自分で買えよ!てか、まだ食うの?」
「けちーーー」

おいおい、やめてくれ。

他の奴とシェアするなんて!!

でも、キノシタはこーゆー奴だ。
誰に対してもこーなんだから、オレにしたことだってきっと何とも思っていないはずだ。

リョースケが断ってくれてほっとした。

…のも、つかの間。

隣の屋台でソータが焼きそばを買った。

「おいしそー!食べたーい」

ほら来た。

「食う?」

え?え?

ソータ、やめろ!

ソータがキノシタに箸を差し出した、
瞬間、
オレは、
その箸を奪い、

全部
食った。


みんなが呆気にとられて見ているのがわかる。

でもそんなことどーでもいい。

「シンジ!!!オマエ、何だよ~!?ウケるけど…全部はないだろー」
リョースケが言った。

「ゴチです!」
オレはモグモグしながら言った。

「いや、いーけど…オレも食いたかったし」
ソータは呆れ顔。

「マキセーーー!あたしが先にもらうんだったのに~~!」
キノシタがバシバシ背中を叩いた。

「ゴメン、ちょっとやりすぎた!買ってくるわ!」


あぶねーーー。。
…油断も隙もねぇよ、キノシタ!!

焼きそば買って戻ると、ケンタローがワタアメを買いに行くと言い出した。


なんで、ワタアメ?


ワタアメは、ダ、メ、だ!!!


「ワタアメ~!あたしも…」
「キノシタ!!!」

必要以上にデカい声で遮ってしまった。

「何?」
「ちょっと、オイデ?きみには、たこ焼きを買ってアゲルから」

「わーーい!いーの?いっか!さっき横取りしたもんね~!いこいこ!」

何て簡単な奴なんだ…。
単純で、良かったよ。
人のこと言えないけど…。


しかし、勢いとはいえ、思いもよらず、二人きり。
よく言えた、オレ!

キノシタにたこ焼き1パックを差し出す。

「おいしそー!!今食べたい、すぐ食べたい、ここで食べたい!!ね、食べてもいい?」

子どもか。

「ご自由に」

食え食え。
よし、これでしばらくは大丈夫だろう。
も~~~人のモンほしがるなよ?
みんなもこの隙に食ってくれ。

キノシタとのシェア、断固、阻止!!!


「マキセ!」
「え?」



振り向いた、その口には、当然、グレープ、ではなく。

たこ焼きの熱さが、かつお節の香りとともに広がった。


「ウマい?」


「…あっちぃー…」


キノシタが笑った。



なんだ、こいつ。
ほんとに、なんなんだ。


なんで。


こんなことだけで、
オレの心がもってかれる。


ヤバい。


キノシタは、わかってない。
いや、誰も、わかってない。



キノシタは、小悪魔だ。


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