第14話 チャットノベル電子書籍化哀歌
文字数 4,116文字
ううむ、ここのランキングを見ておって気づいたのであるが。
なんですか? また順位が上がらないとか、そういう話ですか。
うむ、「チャットノベルを電子書籍化」というよその話があってのう。
ええっ、それ、昔神楽坂らせんさんとかがやってたやつじゃないですか?
ええと、ちょっと私も気になるので読んでみますね。
ええっ、レイアウト固定!? ホントなのこれ!?
ぼくもびっくりしましたよ。うちの「鉄研でいず」はすでに2回電子書籍化してますし、そのうち片方は固定レイアウトです。
これはページ固定の方ですね。EPUBと呼ばれる電子書籍は実はかなりシンプルなものです。
定められた形式のHTMLとCSSをセットにしてzip圧縮して拡張子epubにしたものですから。
だからepub書籍の拡張子をzipに変更して解凍すればHTMLとCSSと画像データに分解できちゃう。
しかも固定レイアウトのepubってのは、そのHTMLのページが1枚の画像になってるだけのものです。
ページレイアウトを画像に焼き込んでしまうだけで、制作難易度としてはめちゃめちゃ簡単なんですよ。
とくに神楽坂らせんさんのPythonスクリプト使ってチャットノベルのデータを取得して、それをページごとに画像に焼き込むソフトウェアプリンタ使えばあっという間にできてしまいます。
あ、カオルちゃんの技術解説に「わかんない」ってツッコミはなしで。カオルちゃん時給高いから無駄な時間使いたくないわ。
でも、じゃあなぜその固定レイアウト電子書籍を「鉄研でいず!」の続刊ではやめてしまったのですか?
それはAmazon KindleUnlimited、つまりAmazonの読み放題プランからの収益がめちゃめちゃ不利になっちゃうからなんだ。
なにしろ固定レイアウト方式の電子書籍ってのは、ページ1枚が1枚の画像、つまり写真集みたいな扱いになる。
そして読み放題プランはKENP、Kindle Edition Normalized Page Count (KENPC)というページ換算で実際に読まれたページ数で印税が入る。
そして文字主体の書籍のKENPと写真集のKENPでは、どうやらかなり扱いが違うようなんだ。
そうなのです。おそらく固定レイアウト、写真集の書籍のKENPよりも、リフロー、文章主体の書籍のKENPのほうが圧倒的に有利なのです。
固定レイアウト電子書籍は見た目はいいのですが、端末によってはフォントがめちゃめちゃ小さくしか表示できなかったりします。
ただリフローにも弱点がある。ビューアーの解釈が未だに安定しないので、ビューアーによっては表示崩れが起きてしまうんだ。
正直、電子書籍ってものについてボクは悲観してる。ほんと、真面目にいいものにしようと思ってるのか、と技術者として疑問に思ってしまう。
むしろ電子書籍作家なんてそこらへんの草でも食わせておけばいい、まともに電子書籍なんかやったら自分の好きな紙の書籍を駆逐してしまう。そんなのやるだけ意味ない。それより電子書籍に取り組んでます、ってポーズだけとって給料もらってればいいや、後のことなんか知ったこっちゃない……そう思えてしまう。ほんとうに知恵使って作ってんの? と疑問だよ。
金にならないと思っているからそうなのだ。でも金にならない理由はシンプルだ。普及させるつもりがないのだから。それはなぜか。まともに電子書籍を売るつもりがないのだ。事実電子書籍版のない書籍が未だに多い。売ってないものは買いようがない。買いようがないものが普及するわけがない。自明なのだ。
でも電子書籍の市場は少しずつ拡大していますわ。とくにコミックなどは電子への移行がかなり進んでいます。
とはいっても、結局は専用アプリで囲い込んだりしてますわね。最近電子書籍が売れるようになったなどと言っている著者もいます。ようやく普及が少し進んだのかもしれません。
にもかかわらず、彼ら既存出版の人々は電子書籍の普及が進むことを望んではおらぬ。仕方なく電子書籍をやっている、といったスタンスであろう。なにしろ電子書籍は誰でも作れて誰でも流通させうる。既存出版にとっては既得権を手放すハメになる。それよりは「電子書籍は普及してない」ことにしておいたほうが有利であろう。
でもそれじゃあ、既存出版に従わない著者はずっと冷や飯喰らいのままじゃないですか。
さふなり。本屋に並べてもらってまともに著者扱いしてほしければ「俺の靴をなめろ☆」ということなのだ。既存出版に従わない著者は人間扱いなどする気は毛頭ないのだ。
でも、既存出版の人々もそこまで横暴ではないと思いますが……。
それは横暴でない既存出版の担当者に出会えた生存バイアスに過ぎぬ。
横暴な担当者にあたってしまったらオシマイ。そうなった著者に発言権がない以上、生存バイアスの仕組みで既存出版がまともだ、という意見が残るだけだ。それだけのことだ。
そして既存出版の維持のためだけに著者に不利な条件がつけられつづける。印税率は低く、身分保障もない。そして編集校閲の仕事もまともにしてくれない版元が増えた。
それじゃ、既存出版がなんのためにあるのかわかんないよ―。
さふであるのだ。セルフ・パブリッシングなどといって電子書籍を自分で出版する人々もいるが、彼らの中で成功例はまずない。ただの趣味の段階なのだ。しかもその趣味で作った本は本扱いしてもらえぬ。せっかく刊行しても国会図書館に納本できない。電子書籍の収集事業は未だに実証実験の段階にすぎぬ。
現在著作権の時効まで70年となっているのだが、電子書籍の納本制度がすすまないおかげで、著者が死ねばそのまま書籍ごとKindleなどの書店のアカウントは消滅。なかったことになるのだ。
しかもそれを納本できる形態にするにはお金がかかる。制作ツールもお金がかかるし、なかにはISBNコードなんてものをとれとかいろいろ理由をつけてお金をむしる業者がどっさりある。
書籍の世界のヒエラルキーの頂点は読者、消費者であり、そしてその下は業者・書店、出版社であり、著者は最下層の賤民に過ぎぬのだ。事実セルフ・パブリッシングの世界は貧困ビジネスの様相である!
ちょ、ちょっと! そこまで言っていいんですか総裁! ヒドイっ!
本を書きたい、思いを公開したい。そう思うものは徹底的に食い散らかされる。小説投稿サイトも結局はそのための手段になってしまいがちだ。それにもかかわらず、多くの物語を書きたいもの――その多くはさまざまなビハインドを持っているものなのだが――は、どんどん食い散らかされていく。書籍化、アニメ化されてもまともなサポートもなく売れなくなったらハイそれまでよ。結局はただの人間魚雷なのだ。
そんな! めちゃめちゃじゃないですか! ヒドスギル!
なぜならうちの著者もそういうビハインドをもっていたがその一縷の望みを出版に掛けた一人なのだ。それが運にも人にも恵まれた結果メジャーデビューして日本推理作家協会に入ったが、その後は編集者のパワハラを受けて耐えきれずにドロップアウト、以降セルフ・パブリッシングの貧困ビジネスにいいように食われ続けておる。
まあ、他人が何をやろうと云々する立場ではない。だが、電子書籍というものを見ていると、深い悲しみと嘘への怒りが湧いてくるのだ。
こんなだから、「やっぱり紙の本で読みたいですー」などと気軽に言う人間とは結局わかりあえぬと思う。その紙の本をその値段でその書店に届けるためにどれだけの嘘と人々の犠牲を費やしているというのか。それを知っておるゆえ、紙の本にはもはや恨みにちかいものがあるのだ。
でもPOD、プリントオンデマンドで買う本は楽しいですわ。あの所有感は独特のものですし。とはいっても書店流通のような安価には絶対できないのですが……。
うむ。いささか感情的になってしもうた。だが電子書籍への嘘の多さだけでなく、この世界にはあまりにも嘘が多すぎる。嘘をつくことに抵抗がなくなりすぎておる。そういうカルマのたまることをヘーキでしておると、それは破滅を招くぞよ。
そういう気になっちゃいますね。
……でも、この「鉄研でいず!」のこの話も、最終的に書籍化はするんですか?
それは考えざるを得ない事項なり。なにしろチャットノベルは書籍化するとめちゃめちゃ紙を消費するのだ。
これがプリントオンデマンドで出した我が「鉄研でいず!」である。
ひいい、厚さ3センチ! これじゃ鈍器ですよ、ヒドイっ!!
実に585ページにもなってしもうたのだ……。これではカラーで出力したらとんでもない値段にっ!!
これ、みんなのおしゃべりが多すぎてこうなったのではないのでしょうか。
みんな、もう喋っちゃダメ!! 字数消費しちゃう!!
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