安土城下

文字数 623文字

 十一にとって、城下町は退屈だった。確かに、銃の手入れの仕事はある。しかし、それも何日も続かない。暇なときは、もっぱらもっと精度良く玉が飛ばないものかと悩みながら道場の表から城の方を見上げて過ごしていた。

「にいー、怖い顔して。」
 突然、十一の前に見知らぬ若い女が現れて彼の顔をのぞき込む。
「化粧の臭いがする。」
 十一は、幼い頃から大人に混じって銃の話をしていたので、銃のことなら夜通しでも話ができたが、普通の会話となるとさっぱりである。
「火薬の臭いがする。」
 女は十一に言い返した。

 女の名は八と書いてやつと読んだ。八は見せ物小屋で吹き矢の芸をしていた。十一は原始的な武器には興味が無かった。単に吹く力加減の芸だろう。
「そう、思うんならやってみなよ。」
 八は十一を小屋の裏の練習場所に連れて行き一本の棒と矢を渡した。筒に矢を詰めて、勢いよく的めがけて吹く。
「カツン。カラ、カラン。」
 矢は、的に刺さるどころか、ぶざまに横になって当たり、下へ転がった。きっと、強く吹きすぎたのだ。しかし、いくらやっても、矢は刺さることはなく、下に落ちる。
 八は筒を受け取ると、そのまま狙い澄まして吹いた。
「トン。」
 矢は、的の中央に刺さった。
「こっちでやってみろ。」
 八は十一に別の筒を渡した。
「トン」
 真ん中とはいかなかったが、今度はささった。十一には2つの筒とも同じに見えた。
「単に吹くだけじゃ矢はきれいに飛ばない。」
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登場人物紹介

猪熊 四五六(しごろく)

組討の使い手

十一の父

二三(ふみ)

剣術の使い手

十一の母

長い細身の背負い刀、長柄草刈刃を使う

十一(じゅういち)

鉄砲使い

オリジナル改造の種子島を二丁持つ

八(やつ)

見世物小屋の芸人

吹き矢芸

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