頭狂ファナティックス

犯人からのプレゼントボックス

エピソードの総文字数=3,745文字

 五分も経たず、紅月が七星を連れてきた。七星が現れたことによって、フードコートは多少なりとも静かになり、落ち着きを取り戻した。七星は死亡した女生徒と同じテーブルに座っていた女生徒を除いて、自分の部屋に戻るように指示を出した。フードコートにいた人間がそれぞれ自分の見た光景について話しながら、自室へと戻っていくあいだ、紅月が七星に聞いた。
ここにいた人間を帰しちまっていいんすか?
これだけの人数だ。ここにいた奴らを全員尋問したところで、どこかで口裏を合わせられて誤魔化される。被害者と同じテーブルにいた人間が犯人だとは言わないが、彼女たちに話を聞けば、今回の事件で用いられているコンプレックスの手がかりを何かしら掴めるだろう。
 死亡した女生徒と同じテーブルについていた三人の女生徒への尋問はそのままフードコートで行われた。死体から離れた席で行われたとはいえ、そちらに視線を向ければ、その死体が目に入ったために、紅月は別の場所で尋問を行うことを提案したが、七星は移動する時間が惜しいと言って却下した。また三人の女生徒に必要以上に威圧を与えないようにするために、楓子と犬童にはこちらに来るなと使い走りを寄こした。三人の女生徒がテーブルにつき、その正面に七星が座った。銀太と紅月は七星の後ろで立ったまま控えていた。
それでは彼女が自殺するに至った経緯を教えていただきたい。
 三人の女生徒は明らかに七星に対して怯えていたが、そのうちの一人が代表して状況を話し始めた。
本当に唐突だったんです。彼女はいきなり立ち上がると、銃口を口の中に入れて、そのまま引き金を引いたんです。私たちが制止しても、彼女は聞きませんでした。食事のあいだ、自殺しようとする素振りなんてまったく見せなかったのに。彼女が立ち上がると、いつの間にか拳銃を握っていたんです。どこかから取り出した気配もありませんでした。あれはシンボルだと思います。
けれども彼女のシンボルは拳銃ではありませんでした。どういうわけか、他人のシンボルが彼女の手に握られていたんです。彼女は明るい子で、学園が封鎖されてからも極端に思い詰めているという様子はありませんでした。自殺する理由なんてなかったと思います。
なるほど。彼女が拳銃の引き金を引く直前、あるいは立ち上がる直前、何か変わったことはなかったか? 普段なら気にしないような些細なことでもいい。
 七星の言葉を聞き、三人の代表を引き受け話をしていた女生徒が少しのあいだ考え込んだ。そして話を続けた。
確か、私がスプーンを落としたんです。はい。確かにスプーンを落としました。それで私たちはその音に驚いたんです。私がスプーンを拾おうとして、身を屈めたときには、すでに彼女は拳銃を握って立ち上がっていたと思います。
 七星はそれからもいくつか質問をしたが、それ以上目ぼしい情報は手に入らなかった。三人の女生徒を解放してからも、銀太、紅月、七星の三人はその場に残った。無論、彼女たちを解放する前に、そのシンボルを具現化してもらったが、その中に拳銃はなかった。
被害者が自殺する寸前、同席の一人がスプーンを落としたと言っていた。それ自体はまったく何でもないことだ。しかしコンプレックスは何が発動条件になるかわからない。前後の状況から考えて、スプーンが落ちたことが発動条件になったと考えて間違いない。
 七星は今では席に座っている二人に向かって話しかけた。
犯人は間違いなくフードコートにいた。自分の能力によって死亡する人間の姿を確認することは当然の行動です。そして能力の発動条件には、スプーンを落としたことによって誘発される何かが必要である。発動条件そのものが、相手の近くでスプーンを落とすということは考えづらい。あの人がスプーンを落としたのは偶然ですから。現状でわかっているのはこれくらいですかね?
 銀太がこれまでの情報を整理して、七星に聞いた。
そうだな。しかしこれだけでは犯人を特定しきれないのも事実だ。あのとき、フードコートにはここの住人のほとんどがいた。ところが問題は二人目の被害者が出たことにある。今回の件は、ショッピングモール内の反勢力が動き出した証拠だ。
最初の事件は喧嘩の延長線上にある突発的なものではない。謀殺だ。そして今回の件も。何者かが、意図的にここの住人を殺している。単独で反逆を起こすような無鉄砲な人間がここにいるとは思えない。反勢力のグループがある。反勢力側は、手始めに闇討ちするタイプのコンプレックスを持っている人間を動かした。だが直接私や幹部を攻撃しないあたり、殺す対象を任意に選べる能力ではないらしい。
常盤先輩はこのくらいのことを言われたところで、落ち込むような人間ではないと思うのではっきり言わせてもらいますけど、ここの住人の中で先輩のやり方に反感を持っている人間は少なくないっす。反勢力が生まれる要因はいくらでもあった。このような事態が起きるのは必然だったんすよ。それで常盤先輩は管理者の座を反勢力に受け渡すんすか?
瀧川は私が命惜しさにそんな真似をすると思うのか? 無論、反勢力は殲滅する。だが現時点では反勢力を炙り出すだけの手づるがないのも事実だ。三人目の犠牲者が出るのを待つ。
次の犠牲者を見殺しにするということですか?
 銀太がすかさず戒める調子で反駁した。
そのとおりだ。そして必ずそこから犯人への手づるを掴む。次の犠牲者はこのショッピングモールの秩序を保つのに必要な犠牲だ。
 そう言い放つと、もう二人と話すことはないといった態度で七星は立ち上がった。七星がフードコートから出て行ったあとも、銀太は納得がいっていない様子だった。
常盤先輩のやり方について口を出すのは控えとけ。あの人はそういう人なんだ。それに現状では犯人を特定する手がかりがないのも事実だからな。状況を覆したいなら、次の被害者が出る前に俺たちが犯人を見つけ出すしかない。
 連日で起きた殺人事件の犯人が次の行動を起こしたのは、銀太と紅月の予想よりも早かった。朝食から数時間が経ち、午後になっていたが、二人が自室で秋姫に今回の殺人事件について話し、さらには現状では対抗策が見つかっていないことを説明していると、楓子が訪ねてきた。再び幹部に招集がかけられたのだ。
 三人が呼び出されたのは、三階にある服飾店だった。そこは今朝、フードコートで死亡した生徒が生活していた部屋であり、そこには死亡事件が起きたときに、その生徒と同じテーブルについていた三人の女生徒もいた。すでに書いたことだが、三人の女生徒は死亡した生徒と同居人であり、七星から尋問を受けた生徒でもある。その部屋には三人の女生徒に加えて、七星と犬童がすでにいた。服飾店だった名残の服飾は生活しやすいように、部屋の隅に片づけられていた。楓子が二人を連れてきたのを認めると、七星は床に置いてある箱を指さした。銀太と紅月はその箱に近づいて、観察した。
 その箱は手に抱えるほどの大きさで、青い下地に水玉模様のついた紙で包装されており、桃色のリボンまで結ばれていた。そのリボンに挟む形でメッセージカードが残されていた。そこにはこう書かれていた。
拳銃のシンボルを持つ者より。これから常盤さんを筆頭とした幹部方とのますますの交友を願ってプレゼントを送ります。
 その箱は確かにプレゼントボックスを模していたが、あからさまに罠だった。メッセージカードに書かれた文字は丸っこく、女の子の書いた文字のようだ、と銀太は思った。
これはどういう経緯でここに?
 銀太が七星に聞いた。
彼女たちがシャワー室に行って、部屋を空けているあいだに置かれていたらしい。どうも犯人は二人も殺して、調子に乗っているようだ。これ見よがしに私たちを挑発している。私たち宛てと書いているにも関わらず、この部屋に置かれていることにも悦に入ったものを感じる。
それで、この箱を開けるのですか? どう考えても罠ですが。
無論、開ける。犯人は挑発のつもりでこれを渡してきたのだろうが、こちらにとっては犯人に繋がる手がかりの一つだ。だが箱を開けると同時に爆発したり、毒ガスが噴出する仕掛けが施されている可能性がある。大室、きみのコンプレックスはそのような仕掛けを発動させずに箱を開けることは可能か?
可能です。僕が箱を開けます。
 銀太は箱の前に屈み、シンボルの鋏を具現化した。『緑の家』ならば箱の内部にコードや糸の仕掛けがあるとしても、その連続性を途切れさすことなく箱を開けることができる。そのために罠は発動しないというわけだ。しかし銀太は箱を開けるのに躊躇した。自分の能力では対応できない絡繰りが仕掛けられていると怖気づいたわけではなく(そのような手管に引っかからないほどには銀太は自分のコンプレックスに自信があった)、単純に罠とわかっているのにわざと引っかかることに戸惑いがあったのだ。
 周りの人間も固唾を吞み込んで銀太の作業を見守っていた。銀太はプレゼントボックスの上方の四辺に切り込みを入れた。そしてゆっくりと切り取った蓋を落ち上げた。

 中身を見ると同時に、銀太は叫び声を上げながら後方へと飛び退いた。
 そこには人間の首が入っていたのだ。

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