第76話  蓮と華凛は従兄妹 4

エピソード文字数 3,705文字

もしかして……楓蓮姉さんのこと?

 もう一人の自分を、姉さんと呼ぶのもどうかと思うが……

 この場では仕方が無い。


 むしろこの答え以外で、染谷くん達が納得するいい訳があれば今すぐ教えて欲しいぜ。

 

 ていうか。もう答えちまったから、取り返しつかないんだけど。

 俺がそう答えると虎ちゃんも染谷君も、ぱっと俺の方に向き直る。
そうそう! それだよお前! お前の姉ちゃ……
ごほっ!

 虎ちゃんの左右にめり込む拳。ドンピシャなタイミングだ。

 染谷君と兄貴のダブルパンチを食らい、後ろに倒れてしまう。

こいつ。マジ馬鹿なんで。ほんとごめん!
こらっ! 虎ぁ。お前の席はこっちだろが!
 染谷君よりも兄貴の方が怖いぞ。ダブルパンチで沈んだ虎ちゃんの首根っこを掴むと、テーブル席の奥のほうへ投げ込まれていた。

 何度も平謝りする染谷くん。

 しかも兄貴や兄貴の嫁さんまで「ごめんなさい」と言われると、俺もどうしようもねぇ。

そっか……楓蓮さんは黒澤君のお姉さんだったんだね
うん。でも……姉さんとはあんまり喋らないけど

 自分の事なのに、平然を装う。

 震える華凛の背中を撫でてやると、ようやく染谷君に向き直った。


 大丈夫だって。心配するな。

ってか染谷くんが、俺の姉さん知ってるとは思わなかった

 こう言っておかないと不自然だ。

 蓮では、染谷くんが楓蓮を知っている。と言うのを知らないはずだから。

いやいや。たまたま知ってるんだ。

僕の従姉弟の龍子姉さんがさ、バイトやってる喫茶店のオムライスが美味いって言うから、行ったんだよ。


そしたら白竹さんがやってる喫茶店でさ、それもビビったんだけど……その時見かけたんだ。

それでついついお姉さんのオムライスを注文しちゃってね

 確かにそうだけど……

 ちょっと焦った感じで喋る染谷君は、どことなしか恥ずかしそうだ。 


 その時、向こうのテーブルから兄貴が喋り出した。

こいつ。オムライスに目がなくてな。オムライサーって言うらしいんだけど。

ってかお前。まだオムライスの食べ歩きしてんの?

いいじゃないっすか! 好きなんだもん!
そうよね。昔っから龍ちゃんはオムライス大好きでしたからね
そうですよ。認めます。オムライサーっすよ!

 兄夫婦に畳み掛けられる染谷君。

 何故かその様子を見てこっちまで微笑ましく感じるのであった。


 そんな時、染谷くんさらっと話題を変えてくる。

じゃあ、黒澤君のお姉さんと、うちの龍子姉さんが一緒にバイトしてるって事か
 そうだ。それはそうなんだが……

う~ん。そうなのかな?

俺。あんまり姉さんとそういった話しないから……

 楓蓮の情報は迂闊に出してはダメだ。

 曖昧な返答で凌いだ方が良い。

そうなんだ……

これは意外だな。

楓蓮さんの従姉弟なら、親戚同士とかでも仲良くしてそうなイメージなのだが。

 少しだけ染谷君のテンションが下がった気がした。

 だが、俺は更に続けた。

華凛。姉さん何か言ってたか? バイトの話とか

 華凛に話題を振る。当然こいつは何も言えないはずだ。

 俺はテーブル下で、華凛の膝に指でなぞる。×と。


 ノーだ。華凛。

わ、分かんない
それでいい。俺のパスをちゃんと返してくれる。

だよな? 姉さんはあんまり話とか……しないから。

何やってるか俺もよく分からないんだ。たま~に家に泊まりに来るくらいでさ

そうなのか……


しかし妹ちゃんは喫茶店に来た時、楓蓮さんにとても懐いていた感じだったのだが。

まるで今の黒澤くんにくっ付いているように……


まぁ今は俺の家族に囲まれ、妹ちゃんもアウェー状態だからな。

怖がってるのが痛いほどわかるし。ごめんね華凛ちゃん。

 ここまで言っておけば、蓮から楓蓮の話は聞いてこないだろう。これで大丈夫なはずだ。 


 今度はこちらから行くぜ。

 そっちの事情もちゃんと聞いておかないと。



 ※


じゃあ。染谷君は三兄弟なんだね。それで……従姉妹が三姉妹ってこと?
そういう事だな。分かったか? おま……黒澤兄貴

 ギリセーフだ虎ちゃん。

 目の前に染谷君の拳が見えて、思い留まったのだろう。

ねぇ妹ちゃん。今度俺と遊ばねぇ? 良かったらデコチャリの後ろ乗せてやるぜ
もううぜぇよ! お前はもう帰れ! 妹さんが怖がってるだろ?

 実際華凛はめちゃくちゃ怖がってる。

 今は対面に虎ちゃんがおり、ポテトすら食えない。

虎子。てめぇいい加減にしねーと、くらしあげんぞっ!
うお! あにぃあひゃ! ご、ごめんなさい!

さすがの虎ちゃんも兄貴二人に言われると、飛んで逃げやがった。


ヴァルハラメンバーの前でいきがってた彼女とは別人だぞ。

こいつさ。こんな喋り方だけど本当に女だから
そうなんだ。じゃあ……染谷君には弟もいるのかい?
そうそう。俺と同じ年でな。そっちも学校いってねー不良なんだよ。だろ? 龍兄ぃ
てめーのことだろが!
そうだな。お前と変わらん……馬鹿だっ!

 ってかさ……染谷君一家はとってもデンジャラスだな。

 染谷君も結構激しいし、龍子さんも激しい。



 それにもう一人弟が居るのかよ。

 見事なヤンキー一家だこりゃ。


確か黒澤君も弟がいるんだよね?

 おっと。話題を切り返されたか。

 染谷君も、上手く合わせてくるよな。

そそ。小学校六年の弟がいるよ
この前学校で早退した日に言ったからな。弟を迎えに行くって。
そうなんだ。じゃあ年は妹ちゃんと一緒なんだね? 
うんうん。そんで俺の弟がそこの学校に通ってるんだ
 この質問には正直に言わなければ。 実際、凛は学校に通ってるし、事実だ。
なるほど。そういう事だったんだね
染谷君。なんとなく俺達って家族構成似てるよね?

僕もそう思ったよ。そっくりじゃん!

こっちは三兄弟と三姉妹。 黒澤くん家は兄弟と姉妹だね。

こんな偶然があるんだな。いや。偶然過ぎだって。
お兄ちゃん。食べたよ

 お、ようやく完食かよ。遅すぎるって。

 とは思うものの……怖かったんだろうな。



 さぁ切り上げよう。

 俺もそろそろ入れ替わらないと、頭が痛くなってくるぞ

じゃあ俺達そろそろ帰ります。華凛のお迎えが来てるかもしれない
え? お迎えが来るの?
 と、虎ちゃんの質問にはこう返す。
華凛は違う場所に住んでるからね。明日学校だし……親が迎えに来るんだ
あっ。そういう事ね

 染谷君は分かったらしい。

 あくまで白峰家とは別に住んでいて。たま~に黒澤家に遊びに来る存在。そう答えるのが一番安全だ。

華凛。お兄ちゃんに挨拶しよう
あの……今日はありがとうございました。た、楽しかったです
こちらこそ。華凛ちゃん。また一緒に映画見にいこうよ

ごめんね妹さん。怖がらせちゃって。

また龍一と遊んでやってね。悪い奴じゃないから

妹さんも友達さんも、お騒がせしました。

またよろしくね

いえいえ。何だか賑やかなファミリーで。楽しかったです。

染谷君。今日はマジでありがとう。じゃあまた学校で

 席を立つと、華凛がくっ付いて離れない。

 お前なぁ……せめて染谷君一家が見えない所でくっついてくれよ。


 ※


 マグマグを後にして、家路に付く。

 呪われたコンビニを通り過ぎて、喫茶店を通り過ぎる。

 華凛はくっ付いたまま離れないし、何も言わない。

大丈夫だって。ちゃんと歩けよ
怖かったよ! お姉ちゃんの事知ってるって言うから
気にすんな。俺は俺で何とかやるから

ごめんなさい……

私が映画とか行きたいって言わなかったら……

 そんなへこむなよ。お前は何も悪くねぇって。
まさか。虎ちゃんが従兄妹だったとはな……
あのお姉ちゃん。怖いよ

 あ~あ。華凛に怖がられちまったな。

 まぁ……しょうがないだろう。一応華凛には優しく接していた、そういう気持ちは伝わってきたんだが。

でも、今日のお前は全然イケてたぞ。あれでいい
本当?
ちょっと心配だったが……こらこら何してんだ
疲れたよぉ。おんぶ
 俺と二人になったらコレだ。すぐに甘えてきやがる。

 背中からよじ登ってくる華凛に観念し、おんぶしながら家に向かう。


 大きい交差点を渡っていると、車とか通り過ぎる人が見てるじゃないか。

いいか華凛。これからもこうやって、嘘を付かなければならない。それは俺達の宿命なんだ
うん……分かってる
お前も大きくなったら、一人で男と女。二人を演じないといけなくなる。今の内に勉強しておくんだ

 そういう意味では、今日は良かったのかもしれない。

 華凛もちょっとは経験値が入っただろう。


 俺だって虎ちゃんの襲来でテンパったが、この程度の予測は常に頭に入れておかないとな。


 いや~親父の言う通りだ。

 何処で誰が繋がっているか。わかんねぇよな?  




 結果的に染谷くんには「蓮は楓蓮の従姉弟」という事になってしまったが、大丈夫だろう。

 やたら楓蓮のことを聞きたがっていたが、その辺はのらりくらりと逃げてみせる。


 

 だって俺は楓蓮でもあるんだから、辻褄あわせなんて簡単なのだ。

 正体はバレない。バレる筈がないんだ。



 そりゃ怪しい場面も出てくるかもしれないが、外部からは絶対漏れたりしない自信がある。




 もし俺の正体がバレるとしたら……


 入れ替わりの瞬間を見られるか、または俺が告白する。


 そのどちらかしかあり得ない。

 

――――――――――――――


次回。染谷龍一視点。染谷家集合 1~2

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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