ネピオルネス編(2)

エピソード文字数 2,019文字

「アミィ!」

見つけた。コンビニを出てきた、着飾った女の子。また化粧が濃くなっている。胸元も、太ももも、男をそそるために露出している。誰かに買ってもらったピアス。冷たい光を弾く。でも、

「あ、ティマ。どうしたのこんな時間に?」

向けられた笑顔は、アミィのままだった。

「探しに来たんじゃない。このままじゃ進級できなくなるって、先生が言ってたよ。アミィ、ちゃんとスコラに来てよ。授業に出てよ。一緒に卒業しようよ」

昼休みに教師からその話をされたティマは、ショックだった。アミィとはずっと一緒だった。だから、スコラも一緒に卒業したい。

ティマはアミィの腕を引く。また新しい香水の香りがする。

「優しいね、ティマ。でもティマは私になんかかまってないで、自分のこと大事にしててよ」

そう言ってアミィは笑う。ティマに掴まれた腕は抗っている。

「私はアミィも大事なの。私、アミィと一緒に卒業したいんだよ」

「卒業? じゃあ訊くけど、私達に未来なんてあるの?」

「え?」

そしてアミィはティマに屈託のない笑顔を見せる。子供の頃から変わらぬ笑顔。

「私達、どうせ、捕まって奴隷かなんかにされちゃうんだよ。卒業なんて意味ないでしょ?」

それを聞いたティマの心が、悲鳴を上げた。

連邦国が、モルニ国に戦争を仕掛けようとしている。そのための基地を、南の国・ジオラモに作ろうとしている。

そんなキナ臭い噂を、ティマは聞いた。それはもちろん、アミィも知っていた。知っているからこその、アミィの発言だ。

戦争なんか始められたら、モルニ国はひとたまりもないだろう。敗北したモルニ国は、連邦国の一つとして扱ってもらえるだろうか?

そんな楽観的な見方をしているモルニ人は一人もいない。モルニ人は、連邦国の国民よりも劣った民族だと言われているからだ。

そのために各地で起きている差別。戦争で敗北すれば、モルニ国は連邦の奴隷国として扱われるだろう。そうなれば、モルニ人達には平等も権利もない。

アミィはそれを知って、自暴自棄になってしまっているのだ。

「アミィ……アミィは諦めちゃうの? そうやって、何もかも諦めちゃっていいの?」

「だって、どうしようもないでしょ? もう止められないんだよ、この国のえらい人達が決めちゃってるんだから」

「どうしようもないのかな? だって間違ってると思わない? 私達がこの国の人達よりも劣ってるなんて思わない。だから、戦うなんて間違ってる」

「私だってそう思うけど、やっぱりどうしようもないよ。だったら、今のうちに楽しいことしといた方がいいと思わない?」

「アミィは楽しいの? 本当に楽しいの?」

「楽しいよー。みんな、優しいし、面白いし、ティマ、怒ってばかりいると、寿命縮んじゃうよ?」

「本気で言ってるの、アミィ? 私はそんな風に見えないけどな。アミィ、遊んでるみたいだけど、遊ばれてるだけじゃないの?」

「悪い? 遊んでもらって、私が楽しいんだから文句ないでしょ?」

思わずアミィは声を荒らげた。コンビニを出入りする客が不審な目を向けるので、ティマは隅の方にアミィを移動させた。

「アミィ。おかしいよ。そんなじゃなかったじゃない。もっと、将来のこととか真剣に考えてたじゃない」ティマは話を続ける。

「真剣に考えたよー。真剣に考えたら、将来なんてないってわかったんだ」

「諦めないでよ!」

笑いながら答えたアミィの言葉を斬り裂くような、ティマの一声だった。アミィの顔から笑いが消える。ティマの目から、涙が一筋、こぼれて落ちた。

「間違ってるのはどっち? 私達は間違ってない。アミィだったらわかるよね? アミィだったら、正しいことは正しいって胸を張るよね? アミィだったら、アミィだったら、負けないよね?」

「負けたんだよ、私」

「私は負けない。負けたくない。闘うよ、私。戦争なんか起こしたくない。モルニの国を守りたい。だって私、モルニ人だから。アミィだって、アミィだってそうじゃない。いつだって一緒だったじゃない!」

いつの間にか、ティマはぐしゃぐしゃに泣いていた。言葉よりも涙が溢れ出して、アミィの腕を知らぬ間に掴んでいた。

いつだって一緒だった。そうだ。小さい頃から、アミィはティマと一緒だった。昔はティマは泣き虫の弱虫で、ティマが男子に泣かされると、決まってアミィが男子を追っ払っていた。

また、ティマは泣いてる。でもそれは、いじめられたからじゃなくて。

いつの間に、アミィの方が弱虫になっちゃったんだろう。アミィが弱虫になっちゃったから、ティマを泣かせちゃったんだ。ティマは、

アミィのために、泣いてるんだ。

バカだな、私。アミィはそう思った。ティマを泣かせちゃ、ダメじゃない。
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登場人物紹介

ナギ ……本篇主人公。16歳。失踪した兄を探すため、冒険の旅に出る。

パセム……ナギの兄。ナギを守るためにゾンビと戦い、行方不明になる。

アビス……ナギの親友。元気よく、いつもナギを励ます。パセムを慕っている。

フロス……ナギの親友。明るく好奇心旺盛で、人なつこい。

ムジカ……ナギの親友。おっとりした少女だが、天才的ピアニストでもある。

グラディ……ナギの幼なじみで、連邦一の剣士。一子相伝の雷剣の使い手。

ランス……グラディの親友で、連邦一の槍使い。口下手でどもるところがある。

エジェット……グラディの祖父で剣の師匠。

リン……黒いゴスロリの黒魔法師少女。右頰にコウモリのタトゥがある。

ピンセル……リンと一緒におり、空間の隙間を走る車を操る。喋らない。

リョータ……メルカートおじさんの家で出会った七色インコ。

ノートン……真実を伝えるベリテートのジャーナリスト。

悪魔……???

ルナ……ハティナモンで出会った不思議な女の子。回復魔法が使える。

ティマ……連邦とは海を隔てたモルニ国出身の女の子。ネピオルネスのスコラに通う。真面目でしっかり者。

アミィ……ティマの親友で、同じくモルニ国出身。活発で明るい性格だが、スコラはさぼりがちになっている。

レン……リンの姉で、数少ない白魔法師。様々な回復系魔法を使う。誰よりも優しいが、変わり者な一面もある。

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