第二章 85

文字数 691文字

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 ジョンが語る過去の話も折り返しをむかえた。

 ここでわたしはひとつ告白をしておかなくてはならない。
 いや、刑事としての立場からすれば、これはむしろ懺悔と言えるだろう。わたしは刑事でありながら、ジョンが過去に犯した犯罪の告解を見過ごしたのだ。
 これから、そのあらましを記していこうと思う。物語めかした肉付けまでして彼の少年時代を綴ってきたのも、ひとえにそのためだ。

 これから話すのは、ジョン・リップという男がいかに生まれたかについてだ。
 もちろんこれまで語られてきたのもやはりジョン・リップという少年の半生ではあるのだが。彼は子供の頃に自分自身の名付け親になってからジョン、あるいはジョニーと呼ばれてきた。
 だがそれは、ただ自分のことをそう名乗っていたにすぎない。

 いみじくもジョンは記憶を島に喩えていた。絶海に浮かぶ孤島の話だ。そして、そこに生えたおあつらえむきの椰子の木の話も。
 シシーと別れて娼館の集金係を辞めるまで、ジョンの記憶の小島に椰子の木は生えていなかった。
 ただ種なのか根なのか、そうしたたぐいが地中深くに埋まっていただけ。木が生えるのはこれからだ。

 ここからの話は、いかにしてジョン・リップがジョン・リップとなったか。
 つまりはこうも言える。ただのマフィアの下っ端が、なぜ大都市ニューオーウェル随一の殺し屋になったか。

 つまりここから先は、<ザ・ブラインド>が生まれるまでの話だ。



 運命を司る悪魔がいたとして、それはジョンの人生に多くの罠を仕掛けていた。ほんのいたずら程度のものから、とんでもなく大きく危険な罠まで。

 わたしはそのすべてを、彼の言葉で聞いた。
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