第5話 襲撃と欠損

文字数 588文字

結局、女のことは訳がわからなかった。
しかし、アミが帰らないという発言だけは、
どうしても真実味を感じられた。
「話し相手いないな。」
一人ぼっちになった廃墟の中で、大人しく時間をやり過ごす。
海辺には、日が落ちているのに明るいクルーズ船が浮かんでいる。
まだ、生きている者の時間だ。
遠くの三日月だけが黄金に輝き美しい。

「ちょうだい」
幼い少女の声が響いた。
声の方向を見ると、廃墟の朽ちたテーブルの上に、真っ白な幼い子供が立っている。白く、無垢で、光るようだ。
「誰。何を。」
「うーん、何もらおうかな。」
すーっと浮かぶように移動する。何てメルヘンな世界だ。
「何もあげられるようなものはないよ。」
吐き捨てるように言った。一瞬、アミに盗られたピアスを思い出す。
「手、綺麗だね。」
いつの間にか、子供は隣にいた。
次の瞬間、鮮明な痛みが走る。喪ったはずの痛覚。気付くと、子供が距離を取って正面に立っている。
俺は呻いてうずくまった。
「腕ごと貰ったよ。」
意味がわからず呆然としていると、少しずつ、痛みの中に意識が戻ってきた。
はっと息を飲む。左腕が、見えなかった。
「なんで。」
「あら、お兄さん、何も知らないんだね。」
じゃあ、全部貰っちゃおうかな。
薄い桃色の唇がニターっと横に伸び、真っ赤な咥内が覗く。俺は立ち上がろうとしたが、えずいて膝を付いた。
「どう?何となくわかった?」
聞き覚えのある声が耳元で聞こえた。
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