その果には

文字数 5,000文字

「おい、見ろよ。あいつまだ学校に来てるぞ?」
「だっせ、マジうぜーよな」
「学校来る必要ないじゃん」
「死ねばいいのに」
「なんであいつ学校来てんだろうね、本当に」
「頭わりーからじゃねぇか?」
「だろうな」

 教室の中は悪意によって支配されていた。俺はそれを黙ってみていた。そして、彼女はボロボロになった教科書を出す。流石に椅子と机はある。落書きはされてるが。椅子と机は学校の備品だから隠さないんだろうな。

「ほら、席につけ。ホームルーム始めるぞ」

 そして、始まるホームルーム。先生も見て見ぬふり。胸糞悪いが、俺にはどうしようも出来ない。
 チャイムが鳴り、ホームルームが終わり、授業になる。授業中も先生達は黙ってる。いじめられていると知っていながら。理由は簡単。熱血バカが、かばったことがあった。バリバリ体育会系のやつだったが、最終的に袋叩きに会い、骨折で現在入院中。誰も彼女は助けようとしない。先生すらも。
 彼女はボロボロになった教科書を開き、一応授業を聞いている。俺にはわからない。なぜそこまでして学校に来るのか。今思えば、このときからすでに興味を持っていたのだろう。彼女に対して。

 放課後になり、下校の時間になる。

「おい、博行、ゲーセン行かね?」
「ん、俺パス。親がうるせーんだよ」
「あー、お前んちそうだったな。じゃあな」
「ああ、じゃあな」

 俺は極力目立たないように帰宅する。

「ふぅ~、今日も一日疲れた。この学校ほんと最悪だな」

 俺の家には親は居ない。両親ともに働きに出ている。両親は俺に興味を持っていないのだろう。まぁ、俺の推察だが。

「今日の飯は何にするかな?……って冷蔵庫空っぽだった。スーパー行こう。誰かに合わねぇといいけど……一応、親父のスーツ着ていくか」

 スーツを着ていると、誰かとすれ違っても、親仕事関係で……といえば大概は逃れられる。一種の処世術だ。ちなみに帰りにスーパーの袋を持って見つかっても大丈夫な言い訳は考えている。実際に一回使ったしな。親が同僚呼んで家で飲み会らしい。以上終了。簡単だ。

「さてと、着替えたことだし、行きますか」

 俺はスーツに着替え、早速近くのスーパーへ向かう。その後買い物を済ませて、帰宅する。
 すると、途中から甘い香りが漂ってくる。

「あれ?こんなところに甘味処か何かあったっけ?」

 誰かに会うかもしれない恐怖を忘れ、その匂いにつられて寄り道をする。しばらく歩くと、お菓子屋さんがそこにはあった。

「ここがら漂ってきた香りだったのか」

 小さな洋菓子店。鼻を抜ける濃厚な甘い香り。ちょっと興味を持ち、俺は中に入ることにした。

「い、いらっしゃいませ……あ、あれ?」

 そこで目にしたのは、いつも目にしている、いや、無視し続けている、いじめの対象になっている彼女だ。

「え、えーっと、博行……君?」
「あ、ああ、てか、下の名前をいきなり言うのか?」
「ご、ごめんなさい」
「それにしてもここでバイトでもしているのか?ウチの高校そういうのゆるいからいいと思うけど、ここは結構目立つぞ?」
「い、いや、あの、その」
「どうした?」
「ここ、私の家です」
「……は?」
「だ、だから、ここは私の家です」

 俺はフリーズした。こんな強烈な匂いを外に出していて、うちの高校の女連中が好きそうな洋菓子が並んでいるこの店が家だと?

「に、二階に私の部屋あるの」
「いや、聞いてねぇし」
「それで、あの、なにか買っていきますか?」

 俺は悩んだ。買うのは構わないんだが、こいつと居ると俺も危ない。俺はさっさとここを出たほうがいいだろう。

「いや、甘い香りに誘われて来ただけだから。今日は帰るよ。また何かのときに」
「あれ?博行じゃん」

 最悪だ。この声、うちのクラスの……

「え?何してんの?……は?おい、ここなんだよ?うわー、ブスが居るじゃねぇか?何?お前ら付き合ってんの?」
「い、いや、俺は別に……」
「そういや、お前スーツ着てどうしたんだよ?」
「親に買い物を頼まれて、スーパーに行ってたんだ」
「ふーん。ねーねー、ブス、お前ここでバイトでもしてんの?」
「……」
「おい、何黙ってんだよ!俺が聞いてんだろ?」
「こ、ここ、私の家です」
「は?何?ここお前んちなの?うわー最悪。今までお前の家から菓子買ってたのかよ。親に言って二度と買わないように言おう。あーあ、せっかく新しく出来た店なのに、最悪だよな?そう思わねぇか?博行?」

 ニヤニヤ嗤い始めた。ああ、終わりか。俺はそう思った。

「あ、ああ、そうだな」
「まぁ、いいや。じゃあな」

 そう言うとやつは出ていった。

「あ、あの、それで、その、なにか買っていかれますか?」
「い、いや。買うのはやめとくよ」
「そ、そうですか。」
「……じゃあな」

 俺は洋菓子店を出る。すると、あいつはまだ居た。

「お?何だ?彼女との会話は終わったのか?」
「彼女じゃねぇよ」
「ふ~ん、あっそ。まぁ、いいや。じゃあな」
「あ、ああ」

 そう言うと、そいつは帰った。

「はぁ、俺も帰ろ」

 こうして、帰宅して今日買った食材で料理を作る。が、いつもと違って美味しくない。理由は簡単だ。明日からの学校生活が憂鬱だからだ。

「俺もいよいよデビューか……くそっ!嫌だよ!なんで俺なんだよ!今までうまく言ってたじゃねぇか!」

 俺は赤子のように泣きじゃくった。泣いて泣いて、涙が枯れるまで泣いた。そして、気づいたら、朝になっていた。

「朝飯、面倒。何も食わないで行こう。転校とかまず無理だろうな。うちの親からして……はぁ、マジどうすっかな~……って考えても始まんないし、とりあえず学校に行くか」

 そして、学校に向かう。最初の洗礼は上靴だった。

「……やっぱりかよ……くそっ!」

 俺は靴下のまま、教室へ向かう。すれ違うクラスメートや他のクラスの奴らが囃し立てる。見つかってからずっと聞こえている。俺は教室に入る。すると、彼女の机がまず真ん中にあった。その隣に俺のだと思われる落書きされた机がある。そして、彼女と俺の机がくっついている。ご丁寧に木工用ボンドで固定済みだ。そして、異様なのは他の机が俺たちを避けるように横に広がり、縦に広がっている。ど真ん中にぽつんと俺らの席がある。そこから俺は、いや、俺らはいじめに耐えた。
 最後の授業の終了のチャイムが鳴る。俺は彼女を無視し、帰宅しようと思うが、させてくれる連中じゃない。俺はしょうがないと思い彼女の手を握って早歩きで教室を出た。もちろん彼女は目を白黒させていたが。

「そういや昨日のあの家がお前んちだよな?」
「う、うん。そうだよ」
「とりあえず、そこまで送るわ」
「あ、ありがとう」
「そういやお前、名前何だっけ?」
「姫歌」

 ああ、そうだった。その名前がいじめの原因だったな。

「そういやそういう名前だったな。そういや、どうして俺の名前覚えてたんだ?この間俺の名前言っただろ?」
「覚えてるよ……だって……」
「だって……何だ?」
「……」
「黙ってたってわかんねぇよ。なんで知ってたんだよ?まさかクラスの全員名前覚えてるとか?復習するために?」
「そ、そんなんじゃないよ!ただ、その、えーっと……」

 また黙り込みやがった。

「だから、物事ははっきり言え」
「わ、私、前からあなたのことが好きでした!だから名前を覚えてました!」

 そこで俺は初めて彼女に目を向ける。整った顔に、きれいな白髪。昔聞いたことがある。ストレスで髪の毛が真っ白になる奴が居るって。そして昔は確かロングだったが今はベリーショートになってる。それはそれで可愛い。あれ?俺なんでそんなこと思ってんだよ?

「ど、どうして俺なんだ?」
「……目が、優しかったから」

 は?それだけ?

「それだけか?」
「う、うん。だめかな?」
「いや、別にだめじゃないけど」
「で、その、あの……」
「な、何だよ」
「あの、答えを……」

 ああ、俺告白されたのか。

「は、ははっ、まぁ、いいんじゃね?」

 俺がそう言うと姫歌はキョトンとした。徐々に内容を理解できるようになったのか顔を真赤にさせていく。

「そ、それじゃあ」
「ああ、よろしくな」

 こうして、俺らは名実ともに付き合うことになった。

 彼女を送り、連絡先の交換をして、俺も家に帰った。

 その夜、俺は姫歌に連絡した。俺が思いついた、いじめをやめさせるための計画。彼女は最初は嫌がったが、途中からどうでも良くなったのか、最終的には了承してくれた。
 決戦は数日後。俺はいじめられたまま居るのは嫌だからね。行動に移すのみ。

 数日後。準備が整った俺達はいつもと違う行動に出た。俺は姫歌と合流し、必要な道具を渡す。姫歌はそれをカバンにしまう。二人で見つめ合ってにっこり笑う。そして、指を絡め、キスをする。ぎこちないキス。だけどキス。互いに始めてだった。なんか勇気を貰った気がする。

「それじゃあ、やるか」
「うん!」

 恋人繋ぎをして俺らは学校へ入っていった。外靴のまま俺らは中へ入る。

 会う奴ら全員が呆然としている。

 俺らは教室に入る。そして、宣言する。

「この中で俺らいじめるって積極的に動いてる奴ら屋上に来いよ。ぶっ殺してやる。以上だ。屋上で待ってるぜ腰抜け野郎共」

 それだけ言うと俺らは屋上へ向かう。

 しばらくするとぞろぞろと人がなだれ込んできた。まーなんというか想像以上に多いな。

「姫歌やれる?」
「博行が一緒だから大丈夫」
「そうか……おい!とりあえずこれで全部か?」

 リーダー格のやつが出てきて言う。

「おい、てめぇ、スカしてんじゃねぇぞ!」
「おお、怖い怖い。で、俺らはお前らを殺す気満々何だけどさ、どうするの?」
「…おい、お前ら、全員でたため。」

 一斉に襲いかかってくる。俺らはカバンからスタンロットを取り出す。そしてスイッチを入れて、全員にスタンロットを当てていく。ほぼ全員を気絶させるのに30秒ぐらいで済んだ。

「で、最後にあんただけが残ったわけだが、逃げるのか?」
「て、てめぇ、卑怯だぞ!」
「卑怯?俺らをこんなふうになるまで追いやっておいてか?」
「てめぇも消極的なだけで俺ら側じゃねぇかよ!」
「ああ、そうかもな。だけど、今は違う。そうしたのはお前らだ。感謝してるぜ?その御蔭で姫歌と付き合うことができたんだからな。じゃあ、そろそろ姫歌、始めるか」
「お、おい、俺をどうするんだよ!」
「とりあえず、電流弱めて、ホイ」
「ぎゃぁああああ!」
「これで動けないかな?意識あるかな?じゃあ、姫歌やっちゃおうか」
「うん」

 そう言うとカバンからサバイバルナイフを取り出し、マウントを取る。

「お、おい、や、やめろ。ふ、ふざけるな!てめぇらただじゃおかねぇぞ!」
「スタンロット当てられて、しびれてまともに動けなくて。そして今からナイフで刺されて殺される君が何をどうしてただじゃおかないんだい?」

 そいつは顔面が蒼白になる。

「お、おい、冗談だろ?う、嘘だ。嫌だ!死にたくない!」
「俺も殺したくはなかったけどさ、お前らやっぱ許せないからさ」
「仕方ないよね?私、とっても嫌な思いしてきたから」

 姫歌はナイフを逆手に持って勢いよく振り上げる。

「や、やめ!」

 そして……。


「私、怖くないよ?博行が居るから」
「そうか、奇遇だな。俺も姫歌が居るから怖くない」
「……これで終わりだね」
「ああ、これで終わりだ」
「……ねぇ、まだ許せない?」
「ああ、許すつもりはまったくない」
「ふふふ」
「どうした?」
「実は私も。そうだよね、許すなんてありえないよね」
「ああ、許すなんてありえないな」
「博行と同じで嬉しい」
「俺も姫歌と同じで嬉しい……じゃあ、そろそろ行くか?扉の向こうからまだ音が聞こえてくるしな。そろそろ戻ろうか」
「うぅ~」
「どうかした?」
「名残惜しいよぉ」
「俺もだよ」

 二人は互いに見つめ合いキスをした。
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