第7章「これが視点だ!」視点タイプ0(ゼロ)(カメラアイ)

文字数 2,520文字

タイプ0から行きましょう。
とにかくル=グウィンさんのお手本を見ちゃってください。そのほうが話が早いです。
〈王女セフリッド〉バージョン#0(「中に立ち入らない作者」視点)

 テュファール出身の王女は部屋へ歩み入り、すぐ後ろにヘム人の大男が続いた。王女は歩幅を広くとってはいたが、腕は脇にひたと付け、肩はちぢこまっていた。髪はゆたかで縮れている。ヘムの男が彼女をテュファールのセフリッド姫だと紹介するあいだ、彼女はじっと立っていた。人々がまわりに押し寄せ、彼女を眺めまわし、質問攻めにしたが、彼女の目と誰かの目が会うことはなかった。誰も彼女にふれようとしない。彼女も訊かれたことに手みじかに答えていくだけだ。
 一瞬、食卓のそばにいる少し年かさの女と、王女は目を見かわした。

mimura_akira

このタイプの書きかた。
まず、頭の中で、シーンを思い浮かべます。
それを、動画を撮影しているつもりになって、自分がカメラになりきって、
見えたとおりを、できるだけ正確に、言葉にしていきます。
それだけです。それに徹します。
ポイントは、
キャラクターの気持ちは、いっさい書かないということです。

王女が何を思ったか、テーブルの側の女性が何を思ったか、
作者は知っているわけですが(だって作者が考えたお話ですからね!)、
それを書いちゃいけないのです。

これ、できそうで、あんがい難しい。つい書きたくなっちゃうんですよね。
そこをがまんします。

そうすると、すごく大事なことが書けなかったりするんです。
ちょっともう一度見てみてください。
〈王女セフリッド〉バージョン#0(「中に立ち入らない作者」視点)

 テュファール出身の王女は部屋へ歩み入り、すぐ後ろにヘム人の大男が続いた。王女は歩幅を広くとってはいたが、腕は脇にひたと付け、肩はちぢこまっていた。髪はゆたかで縮れている。ヘムの男が彼女をテュファールのセフリッド姫だと紹介するあいだ、彼女はじっと立っていた。人々がまわりに押し寄せ、彼女を眺めまわし、質問攻めにしたが、彼女の目と誰かの目が会うことはなかった。誰も彼女にふれようとしない。彼女も訊かれたことに手みじかに答えていくだけだ。
 一瞬、食卓のそばにいる少し年かさの女と、王女は目を見かわした。

mimura_akira

もちろん、読者がいろいろ想像できるように、ちゃんと書かれています。
ヒロインの王女さまは、自分とは違う部族の大男にすぐ後ろに立たれて(近い近い!)、知らない人たちに囲まれて(近い近い近い!)。
想像しただけで……いやな気持ちでいることはまちがいないでしょうね。
「腕」を「脇にひたと付け」ていたり、「肩」が「ちぢこまって」いたり。「手みじかに答えていく」だけだったり。
明らかに、楽しそうではないです。じゅうぶん伝わってきます。

だけど、最後の一行、赤く塗った部分を見てください。
ここです。
視線を交わした二人が、それぞれ何を思ったか。それは、カメラアイをつらぬくかぎり書けないですよね。
じつは、最初から最後までカメラアイで、キャラクターの内面にいっさい立ち入らないのは、
かなり難易度の高い書きかたで……
一見クールなんですけど、ずーっと続くと、わりと、飽きてくるんですよね。
よほど文章がうまいか、よほど次から次へ刺激的なできごとが起こるかしないかぎり。

このときやっちゃいがちなのが、
キャラクターたちに、自分の内面を「口に出して語らせる」という手段です。
なので、この「カメラアイ」タイプの小説は、一見クールなようでいて、

キャラクターたちが不自然に饒舌なことがわりとあります。


そんなことわざわざ口に出して言わないよねふつう、っていう、説明的な会話がえんえん続くってことです。

上の〈セフリッド姫〉だと、例えば、

*****
「あなたなら私の気持ちをわかってくださるわよね」と王女はささやいた。
「もちろん。ずっとあなたのような人に会いたいと思っていたの」と年かさの女性もささやき返した。
*****

とか、やらかしちゃいがちなんですよね。
だっさー。(ヒツジの付け足した部分が!)
というか、人がごった返していて、そんなの聞こえないでしょうっていうね。
だから、
主人公を「寡黙でクール」な人にしたかったら、

じつはこの「カメラアイ」より、次にご紹介するタイプ1~4、

つまり「視点人物」をしっかり立てる書きかたのほうが向いているんです。

地の文が「私は」ってしゃべる「一人称小説」は暑苦しい、と思っているかた、おられませんか?
そんなことないんですよ。
クールな「私」にすればいいだけなんです。

この「タイプ0」をベースにして、タイプ1~4のどれかを上乗せする。
というのが、ハードボイルドな感じで書きたいあなたにおすすめのレシピです!
『ル=グウィンの小説教室』とは進めかたが違うのですが、ここでもう、練習問題を出しちゃいますね。
〈練習問題7-0〉カメラアイ(制限字数400~700字)

複数の人が何かしている短いシーンを考えてください。(このシーンは練習問題7-1、7-2等々でもくりかえし使います。)
〈セフリッド姫〉をお手本に、
(1)主人公
(2)主人公を見ている別の人物
最小限でこの二人のキャラクターを設定してください。
それ以上いれば、なお良いです。

まずは「カメラアイ」の手法で、このシーンを描いてみてください。
キャラクターたちの内面を書かないというお約束で。

mimura_akira

ル=グウィンさんの提案は、例えば、
「スーパーマーケットでカートがぶつかる」
などの小さい出来事でじゅうぶん。もちろんビッグな出来事でもOK!だそうです。

ヒツジの提案は、例えば、
「両片思い、プラス、それを見ている別の人」
なんてどうですか?
これだとキャラが三人になって、今後のエクササイズにいろいろと使いまわしがききます。ワクワク
このとき、会話は書かない。書いても必要最小限にする。

mimura_akira

キャラクターたちが気持ちや考えを言葉に出してしまうと、このエクササイズは無意味になっちゃうんです。

地の文を書く練習なので!

会話は禁じ手、というわけです。

設定しておくのは、かまわないです。

今後のエクササイズに使えます。

キャラクターたちが「本当はこう思っている」というね。

でもまだ書かないでくださいね。
がまんがまん!

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)
※これは制限参加コラボです。参加ユーザーが制限されます。作品主が指定した方しか参加できません。参加希望の場合は、作品主の方にご相談ください。

※参加ユーザーの方が書き込むにはログインが必要です。ログイン後にセリフを投稿できます。
※本コラボは完結済みです。

登場人物紹介

ミミュラ


このコラボノベルの管理人。ときどきアマビエに変身する。

アーシュラ・K・ル=グウィンをこよなく慕い、勝手に師と仰いでいる。

ヒツジのくせに眠るのが下手。へんな時間に起きてしまったり寝てしまったりする。

犬派か猫派かでいったら、犬派。(←ヒツジだけにお犬さま方にはつねづねお世話になってます(^^ゞ)

たい焼きは頭から、チョココロネは太いほうから食べる派。

ミニャノ

管理人に「眠り下手仲間」のよしみで誘われ、このコラボに参加することになった紀州犬。と言っても紀州には何のゆかりもなく、出身は相州鎌倉。現在、台湾台北に生息中。

「鳩サブレー」は頭からでも尾からでもなく、袋の状態のまま、指でぶちぶち潰してから食べる派。

日本語と中国語の間をふらふら往き来する人生ボケ担当大臣(自称)。ときどき別形態になるんだって。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色