第三章 結界(2)

文字数 2,313文字

三月二七日 午前二時
ホテル・グランドカッスル大阪 八二五号室

 携帯のバイブレーション音で目が覚めた。誰かからの着信だ。深い眠りから覚まされたせいで苛立った佐々木大介は、眠い目をこすりながら電話をとる。「沼沢善明」という表示を見て通話ボタンを押した。
「遅いのに悪いナ」
 こちらの言葉を聞く前に、相手が馴れ馴れしい感じで言った。
 沼沢善明は『週刊日本芸能』の記者であり、佐々木の大学時代の同期でもある。佐々木が登山部であった一方で、沼沢はラグビー部であり、二人の接点とはクラスが同じというだけの事であったが、二人は最初に会った瞬間から互いに妙にウマが合う事を確認して以降、今日まで一〇年以上の付き合いだ。
 かつて体育会系一本だった沼沢は、大学三年生の時に怪我をしてラグビーの道を諦めて以来、ジャーナリズムの道に惹かれるようになったのだが、佐々木が新聞記者を志すようになったのも、この沼沢の影響によるところが多い。
 大学卒業後、佐々木は東京経済新聞に記者として入社し、一方の沼沢も東亜中央新聞に入社したものの、わずか五年で上司と喧嘩をして退職。その後一年間のフリーランス生活を経て、『週刊日本芸能』の記者となったのである。それでも二人は、ずっと親交を維持していた。
「おお、なんだよこんな時間に」
「お前、今どこだ?」
 沼沢の声の後ろからは、ざわつくような雑音が聞こえる。
「今、大阪だよ。岡本さんの件で」
「そっか。そりゃそうだよな。あんだけ岡本さんに可愛がられてたんだもんな」
 岡本哲之介と佐々木の関係は、沼沢もよく知っている。
「で、どうしたんだ?」
「驚くなよ。東海村の原発施設で事故だ。放射能漏れらしい。興味あんだろ」
 思わず、「えっ!」という声を漏らした。大変な事になったのは間違いない。
「どのくらいの事故なんだ? 俺んところには何もまだ連絡はないぜ」
 そう言いながらテレビをつけてチャンネルを回してみるが、どこにも速報は入っていない。スリープモードになっていたコンピュータを叩き起こし、関連ニュースを検索してみても、何も出て来ない。
「公式発表はまだない。ただ、何かあったのは間違いない。まだ反対側の東京方面上り車線だけだが、高速のあちこちで警察が検問をやっている。ざわついてて相当やべえぞ」
「お前、相変わらず情報が早いなあ。いつもの『どろソース』か?」
「まあ、そんなとこだ」
 佐々木の言う「どろソース」とは、二人の間の隠語である。週刊誌記者としての沼沢のネットワークは、主に裏社会系に強く、タレ込み屋、麻薬の売人、元犯罪者や元警察官、政治ゴロにフィクサー、ヤクザから右翼、左翼活動家などに至る相当なものであるが、一方で佐々木のネットワークは、政府高官や高級官僚、財界企業人などに通じていた。そのせいで、二人は主にオモテから取って来る佐々木の情報を「正油ソース」と呼ぶ一方、ウラの世界から取る沼沢のそれを「どろソース」と呼んでいるのだ。
 沼沢の持って来る「どろソース」のほとんどは、超一流であった。そのせいで、佐々木は社会部記者時代にいくつかスクープを取らせてもらっている。例えば、野党第一党である民主連合党の幹事長が、六本木で酔って一般女性に猥褻行為を働いた事件は、警察無線を傍受したらしい沼沢が、たまたま現場近くにいた佐々木に連絡、真っ先に取材に駆けつけた事が原因であった。
 一方で、多くのスキャンダル記事を書いているせいで、沼沢が抱えている現在進行中の訴訟案件は常に五件を下らず、その内容は「名誉毀損」ばかりだ。
 もちろん沼沢も、佐々木の「正油ソース」を大いに利用していた。大手新聞社では、いわゆる「ニュースバリューがない」とか「優先順位が低い」とされたニュースや、「週刊誌ネタ」とされる情報は、ほとんど取り上げられない。しかし、時にそのようなニュースが大きな事件に発展する事は何度か佐々木も経験していた。そのため、せっかく嗅ぎつけたのに、デスク会議で取り上げられなかった情報を、佐々木は優先的に沼沢に渡している。
 そのせいで、沼沢の上げる記事は、センセーショナルなのにいつもきっちりとウラが取れていて、信頼性も高いという評価を得ていた。新聞は社会的信頼と速報性を重視する一方、週刊誌ではセンセーショナリズムを前面に出しつつ、同時に問題の本質をじっくりと掘り下げられる。そのため、彼等は互いの情報を非常に重宝していたのだった。
「沼沢、今お前はどこにいる?」
「俺は今、高速に乗って現場に向かってる。お前、朝一で大阪を出てこっちに来られるか?」
「無理だ。午後に大切な取材アポがあるんだ」
「とにかく現場はこれから警備が急に厳重になると思う。お前のところ、モタモタしてると遅れを取るぞ」
 かなりの速度で車を運転しているらしい沼沢が言う。
「そんなことより、お前も気をつけろよ、相手は放射能だからな」
「やべえと思ったらトンズラするよ。とにかく、なんか判ったらまた連絡するわ。近々一杯やろうぜ」
 沼沢はそう言って一方的に電話を切った。すでに現場に近いらしく、通話が途切れる直前、『間もなく、那珂インターチェンジ出口です』というカーナビの声がわずかに聞こえた。
 それから三〇分ほど、いくらインターネットでニュースを探してみても、テレビをつけてみても、原子力事故関連のニュースは出て来なかった。しかし、思い出してみれば、沼沢が嗅ぎ付け、最初に連絡して来た事件が、それから半日もすると日本中で大騒ぎになるということは、今までも数回あった。その事を思い出した佐々木は、〈明日になったらきっと全部わかるだろう〉と思い直し、もう一度ベッドに倒れ込んだ。
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登場人物紹介

高島昇(内閣総理大臣)

通商産業省のエリート官僚出身の政治家。義父の中田力元総理からは『ガリ勉・高島』と呼ばれ、その政治地盤を継ぎ、与党・自由憲政党の一大派閥「桃園会」を率いる。今は亡き心の妻・佐々木通子を今日もなお思い続け、その間にできた息子・佐々木大介のことをずっと気にかけている。性格は冷静沈着、頭脳明晰であり、肚も据わっている。かつては対米通商交渉で米国側と戦い、ワシントンのシンクタンクなどの機関から引き抜きのオファーを受けたため、中田総理の命令で二年間の米国官費留学をした。

岡本哲之介(財務大臣兼TPPA担当大臣)

高島昇総理とは大学時代からの盟友であり、国民的人気が高い政治家。第二次高島内閣では財務大臣兼TPPA担当大臣を務め、巧みな交渉で米国通商代表を振り回す。神楽坂に長年愛妾・松島さゆりを囲っており、民主連合党党首の秋山繁三郎から国会でその関係を槍玉にあげられたことも。英国のチャーチル首相と革命家チェ・ゲバラを真似て、葉巻とウイスキーをこよなく愛する。東京経済新聞記者の佐々木大介を自分の秘書にしたいと考えている。中田理樹元総理からは『あきんど・秋山』と呼ばれていた。

立浪義彦(経済産業大臣・国家公安委員長)

東大法学部からキャリアとして警察庁に入り、二七歳の若さで警備局警備課長として大阪府警に赴任。三七歳の時に衆議院議員に立候補し、岡本哲之介の応援を得て政治家に転身した。一年後輩の白石一成警察庁長官とは、かつて成田闘争で共に戦った。政策グループ「桃園会」のメンバーで、東大柔道部出身。

秋山繁三郎(最大野党・民主連合党党首)

学生時代、酒場で出会った高島昇、岡本哲之介と共に義兄弟の契りを結び、政策グループ「桃園会」を結成。弁護士としての能力を生かしながら、中田力総理の親衛隊として政界に打って出るが、中田の失脚後、野党に寝返った。中田元総理からは『任侠・秋山』と渾名され、マスコミからは『政界の闘犬』と呼ばれている。国会では、与党を率いるかつての盟友・高島の政策や岡本の女性問題を厳しく追及している。

佐々木大介(東京経済新聞遊撃記者)

岡本哲之介に目をかけられていたが、社内でやっかみを買い、シンガポール支局に二年間飛ばされる。しかし、外務大臣であった実の父・高島昇が新総理に就任したことで、東京本社の政治部に戻された。大学時代からの親友である週刊誌記者・沼沢善明、そして神戸大学院生のアシスタント・堀田慶子とともに岡本大臣の死の真相を追う。昔、自分を裏切った元婚約者の新井千佳子に愛憎混じった想いを持ち、また子供の頃に自分と母を捨てた父・高島昇に対して強い反感を持っている。

堀田慶子(神戸大学大学院生)

岡本大臣が命を落とした現場のホテルで佐々木大介と知り合い、専属アシスタントとしてその調査を手伝う。大学院では政治学を研究しており、近頃流行の『草食系』『肉食系』などの言葉で相手を見たり、見られたりするのもイヤだという新聞記者志望の二六歳。危険な真実に向かって突き進んでいく佐々木を案じながら、徐々にその姿に惹かれていく。

沼沢善明(週刊日本芸能記者)

佐々木とは大学時代からの親友。東亜中央新聞の記者を経て、一年間アフガニスタンの戦場を取材。その後、週刊誌記者となり、様々なアングラ案件を取材。常に名誉毀損の訴訟案件を五つ以上も抱えている。隠れ愛妻家でもある。

木内妙子(東京経済新聞政治部記者)

二〇代の頃から『生涯独身』を宣言しているキャリアウーマン。その古風な顔立ちのせいで、歴代総理の中にもファンが多く、普通の取材では取れない情報で大型スクープを何本もモノにし、新聞協会賞まで穫った事も。一方で、その勝ち気で胆の据わった性格から、周囲からは『美人だけど嫁や彼女にはしたくない』とか『怖い姐さん』と言われているタイプ。自他共に認める「永田町のジジイ殺し」。佐々木大介のことをイジるのが好きだが、実の弟のように可愛がっており、間接的に佐々木の調査を手伝っている。

新田純(東亜中央新聞大阪本社記者)

沼沢善明のかつての後輩。米国通商代表と環太平洋経済連携協定(TPPA)の合意をすると期待されていた岡本哲之介に対して突撃取材をする中で、偶然に『自殺』を”スクープ”する。東亜中央新聞東京本社の水野部長に目をかけられるも、その誘いを拒否したことから何者かに狙われ、取材ノートをすべて佐々木大介と堀田慶子に手渡す。

鳥谷龍彦(岡本建設興行社長・岡本哲之介後援会会長)

二三年の長きにわたって岡本大哲之介後援会の会長を務めてきた関西経済会の実力者。若い頃、岡本に助けられたことを恩義に感じてその政治信条と人柄を信奉するようになり、岡本建設興業社を切り盛りしながら、「鉄の結束」を誇るとされる岡本後援会を設立し、それを率いている。生前の岡本とは、枚方市の自宅豪邸の離れで密談することを最大の楽しみとしていた。


松嶋さゆり(岡本哲之介の愛妾)

岡本哲之介がもっとも愛し、かつ唯一心を許した女性でもあり、半世紀にわたり、陰ながらかけがえのない相談役としても岡本を支えてきた女傑。神楽坂の自宅を訪れた佐々木大介に対し、岡本の死の真相に繋がるヒントを与える。

沼沢芙美子(沼沢善明の妻)

大学時代、沼沢や佐々木大介とともに平山雅彦教授のゼミに所属。沼沢との初めての子供を胎内に宿している。

平山雅彦(元内閣官房参与)

佐々木大介や沼沢善明の大学時代の恩師。「桃園会」のメンバーと思想的に近く、岡本哲之介の信頼を得て内閣官房参与となり、「S S計画」にも関与する。その歯に衣着せぬ発言でマスコミでも人気を博したが、みずからのゼミに在籍していた女子大学生への強姦未遂容疑で逮捕・起訴される。今は長野県須坂市の田舎で妻と二人で隠遁生活を送る。

佐々木通子(佐々木大介の母)

明治の頃から政治家がお忍びで通う、芝の料亭の娘。梨園の名家に嫁ぐ予定であったが、中田力総理の見習いとしてやってきた学生時代の高島昇と出会って恋に落ち、その子供を宿すも、母親の猛反対を受けて家出をして流産をする。その後、通産官僚となった高島が数年がかりで見つけ出すが、高島はすでに中田総理の一人娘と結婚をしており、二人は秘密の関係を維持し続ける。やがて大介をもうけるが、大介が学生時代の時に病でこの世を去る。その死の瞬間までひたすら高島を思い、大介に対しても「決してお父さんの邪魔をしてはいけない」と言い続けていた。

新井千佳子(佐々木大介の元婚約者)

在日朝鮮人で、佐々木の大学の二年後輩。その美貌から学生仲間の憧れの的であったが、最初から佐々木に好意を寄せていた。大学卒業後、偶然に佐々木とバーで再会し、約一年間の同棲を経て婚約。しかしそのわずか一ヶ月後、他の見知らぬ男と関係を持ってしまい、そのことを知った佐々木との関係は一瞬にして崩壊してしまう。

エスター(佐々木大介の学生時代の交際相手)

スウェーデン人留学生。平均的な身長の佐々木より五センチも背が高く、飛び抜けた日本語能力を有する。特に佐々木が東京経済新聞に就職してからというもの、しきりに結婚を求め、両親がスウェーデンから「将来の義理の息子」に会うために来日することになったが、その直前に母親が急病になったために急遽一時帰国。それ以来、佐々木とはまったくの音信不通となってしまう。  

遠藤(沼沢の先輩で極左活動家)

大学時代に沼沢が冷やかしで時々顔を出していた無線愛好会のOB。あらゆる無線の傍受を得意とし、この世に傍受出来ない無線はないと豪語する左翼過激派。若い頃は爆弾まで作っていた。S Sー8が強奪された現場近くにいて、その一部始終をビデオに収めており、それを昔の後輩である沼沢に売りつける。 

光村朝夫(宗教団体「光の社」の教祖)

巨大宗教団体「光の社」を設立し、麻野幹事長の父・孫四郎副総理と二人三脚で教団の勢力を拡大、今や政財官界を含む総数五〇〇万もの信者を抱えているが、その実態は悪魔崇拝の団体であり、その本尊は、かつて孤児であった光村の世話をしてくれた地方の寺の娘の頭蓋骨だとする噂がある。これまでに六〇〇〇人の信者の女性と関係を持ったとされ、その際に得る体液で金箔を髑髏本尊に貼りつけているとも。かつて東京地下鉄テロ事件で起こした宗教団体「ヘキサ神仙の会」を背後から操っていた疑いが持たれている。

梅本喜代志(宗教団体「光の社」のナンバー2)

教団内では教祖光村に次ぐ実力者であり、いくつもの会社を経営する五〇代半ばの男。都内に自社ビルを五つ所有しており、資産は一〇〇億円以上とも。日頃から大金をちらつかせて若い女たちを常に侍らせながら高級車を乗り回し、新宿歌舞伎町のSMクラブに通っている。警察内部に多くの情報源を持ち、その内部事情にも詳しい。

かつて「ヘキサ神仙の会」が岐阜県内の湖底に沈めて隠匿したカラシニコフ自動小銃50丁を密かに回収したと疑われている。

麻野紀夫(自由憲政党幹事長)

かつて副首相を務めた父・孫四郎が作った有力派閥「合一研究会」を率いる党内の実力者。高島の属する派閥「桃園会」とは永遠のライバルという関係にある。

津川公一(宗教団体「光の社」の元教会部長)

東京大学法学部時代に光の社に入信し、そのまま大蔵省に入省。キャリアとして一五年勤務した後に退職し、その後は光の社の教会部長として、また教団内最大の実力者として組織の急拡大を推進、特に官僚や警察、自衛隊、それに政界内での影響力ある信者獲得に大きな力を発揮していた。しかしここ数年、五歳年下の有能な梅本喜代志との権力闘争に破れ、前年末には教団から事実上の除名処分を受けて脱退。その頃に岡本哲之介と知り合い、教団内部の財務状況を含む違法行為を告発する資料を作成した。かつて男女の仲であった目白の料亭の女将を使って教団の動向を調査している。五七歳。

ジョージ・フランシス(アメリカ元国務副長官)

ウォール街と情報機関の意向を受け、日本に対しては常に圧力をかけてくるジャパンハンドラーの一人。ワシントンの意向をバックに、日本政府に対して事実上の命令書『フランシス・レポート』を送りつける。岡本哲之介のことを目障りだと感じている。

山賀宏(内閣官房長官)

桃園会のメンバーであり、高島内閣を支える影の調整役。

川村猛(防衛大臣)

防衛大学校出身で、陸上自衛隊の幹部として勤務した経験を有する防衛族の政治家。勝気な性格であり、軍事に関しては高島内閣では誰よりも詳しい。

牧野(総理首席秘書官)

三〇年以上も高島昇に仕え、高島の代わりに佐々木通子・大介親子を陰ながら支えてきた忠臣。

山口和也(日本核燃料研究機構安全管理課長)

二〇年以上前に、ヘキサ神仙の会の「スリーパー」として日本核燃料研究機構に入所、その翌年にフランス原子力庁に研修派遣されるが、ヘキサ神仙の会のパリ支部に数回出入りしてところを、その行動を監視していたフランス情報機関に把握される。ヘキサ神仙の会の解散後は普通の職員として核燃料研究機構に勤務するが、三年半前に「光の社」関係者によって六本木の違法カジノに連れ込まれて借金まみれになる。その頃、同時日本核燃料研究機構安全対策部門を任されるようになる。

白石一成(警察庁長官)

元警察庁キャリアだった立浪経産大臣の一期後輩のキャリア組。剣道、柔道、空手、合気道を合わせて一七段の猛者であり、立浪とはかつて盛んだった成田闘争の混乱の中で絆を深めた。前年に妻・咲子に先立たれ、今は三人の娘に世話をされながらも一人暮らしをしている。立浪の意向を受け、奪われた「SS-8」の捜索に全力をあげる。

蒼井裕(警視庁外事四課長)

長年「ヘキサ神仙の会」とその背後に見え隠れする「光の社」、さらに外国情報機関の動きを追いかけてきた公安のキャリア幹部。

横井力也(警視庁警備部警護課第一係)

かつて岡本哲之介の警護を命じられ、その後に高島総理の担当となったSP。

伊達一也一等陸尉(陸上自衛隊特殊作戦群第三中隊)

防衛大学校を卒業後、陸自幹部候補生学校で次席の成績を収め、第一空挺団から西部方面普通科連隊を経て、特殊作戦群入りを果たした将来有望な三二歳の幹部自衛官。これまで、水温わずか七度の寒中水泳などでも一番に飛び込んで率先垂範してきた幹部だが、ベテラン隊員からも「無茶し過ぎだ」と半ば呆れられる事さえある。福井の貧しい農家出身で、父を早くに喪って以来、母によって女手一つで育てられた。アメリカ陸軍特殊部隊への派遣留学も経験している。

中島美香三等空佐(航空自衛隊第1輸送航空隊第401飛行隊飛行班長)

防衛大学校を卒業し、航空自衛隊に入ってC 130H輸送機のパイロットになった三五歳。過去にイラクに派遣され、クウェートからバグダッドまでの多くの輸送ミッションに就くも、その間に二度、地上の武装勢力からレーダー照射を受け、緊急回避を行った経験がある。操縦技量と緊急時の判断には定評があり、将来の飛行隊長候補とされている。夫は同じ小牧基地に所属する空自の会計課担当幹部で、二人の娘がいる。

木村大悟二等空尉((航空自衛隊第1輸送航空隊第401飛行隊所属)

災害時の人道支援で飛び回る任務に憧れ、最初から輸送機任務を希望した航空学生出身のパイロット。ひょうきんで快活な性格で、高校時代から付き合っていた女性と昨年の初夏に入籍した新婚ホヤホヤの二八歳であり、先輩の中島美香三佐にとっては可愛い弟のような存在。妻は現在妊娠中で、臨月を迎えている。中島美香3等空佐とともに「SSー8」の輸送任務に就く。

奥平毅三等陸佐(防衛省情報本部)

特殊作戦群から小平学校を経て、防衛省情報本部に配属された幹部自衛官。防衛大学校では伊達一也一等陸尉の3期先輩で、同じボート部に所属していた。SS-8輸送任務の警備要員として、中島三等空佐が操縦するC 130輸送機に乗り込む。

鬼島俊(日本人傭兵)

フランス外人部隊第2落下傘連隊(オート=コルス県カルヴィ)出身で、長年、東南アジアや中東で戦争をしてきた傭兵。SS-8奪取作戦に計画段階から関わっており、男女群島の戦闘で特殊作戦群と銃火を交える。

ジョセフ・キム(米国民間軍事会社社員)

カリフォルニア州ロサンゼルス出身の韓国系米国人(四世)。米中央情報局の非合法作戦を中心に、世界中の紛争地帯で活動してきた米海軍特殊部隊出身の民間軍事会社社員。

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