第6話 権利と義務

文字数 1,035文字

 これまで奢ってやった金額――。スナックの飲み代が三千円、ドリンクバーが八百円、ラーメン屋が千五百円、マーメイドカフェが千円、マグカップが七千円、ロクデナルドが千五百円、マンジャーレが四千円、優良商品が五千円、カラオケが千円。レシートないからうろ覚えだけど。
 ガソリン代も高速代も俺が出してるのに。いつも俺のほうから電話してるから、電話代も俺負担。運転も俺。
 いくら貢いだとか金額は問題ではない。金額が安いとか高いとか関係ない。「奢ったからやらせろ」って言ってるんじゃない。そもそも奢ってやる筋合いなんかないんだ。ほんとは奢ってやる道理はないけど、過分の親切で施してやったんだ。
 (かなめ)はプロ意識が足りない。アイツは絶対、俺と寝ない。俺は客なのに! ホステスは客と寝るのが仕事だろ? こんな非常識なホステスがいるなんて信じられない。
 ホステスが客と寝るのは業務、って判決出ただろ? 裁判官が認めてるんだよ。謂わば裁判所命令。客と寝ないホステスが違憲。この判決によってホステスは客と寝るのが常識と言うことが立証された。検索してみろよ。銀座のママが客と寝て、客の奥さんに訴えられた事件。ホステスは客と寝るのが仕事だから無罪になったんだよ。
 だから客と寝ないホステスは三流ホステスだ。要はホステス失格。さっさとやめちまえばいいんだ。期待させやがって。
 うちの両親は厳格で家庭内で下ネタなんか言ったことないし、わざわざ田舎に電話してこんなこと話せないけど、うちの両親だってきっとそう思ってるはず。
『ホステスの仕事は客と寝ることだ』って。そしてこれが『常識』だって。うちの親は新聞だって読んでるし、ニュースだって見てる常識的な人たちなんだから。一般常識のある人間なら誰でも知ってることだ。『ホステスの仕事は客と寝ることだ』って。

 要は色恋営業してこないから、俺に気がないことはわかってる。『コイツ、俺に惚れてる』とか勘違いしてるわけではない。だけど、枕営業するのはホステスの仕事だろ。営業努力をしないホステスは職務怠慢だ。女だからって仕事をサボって良いわけはない。ビジネスなんだよ、客と寝るのは。
 アイツと寝るのは俺の権利で、俺と寝るのはアイツの義務。アイツの働いてる店に行った時点で、俺にはアイツと寝る権利がある。俺は店の客なんだから。 
 要がどうしても俺にやらせないなら、回らない寿司か焼肉を奢らせて、これまで貢いだ分は回収しないと気が済まない。
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