10

エピソード文字数 674文字

 信也の唇があたしの唇を塞いだ。
 不意打ちのキスに、あたしは持っていた本を床に落とす。パラパラとページが捲れ織田信長の姿絵が現れる。

 大きな手があたしの前髪を掻き上げ、息もつけないほどの激しいキスに動揺している。

「……っ、信也」

「ごめん。俺、暴走したみたいだな。カップラーメンしかないけど、食うか?」

 信也はあたしから離れ、床に落ちた本を拾うと、本棚の上に無造作に置いた。

「……うん。ねぇ、信也。居酒屋でのことなんだけど。あざみって、月華(げっか)の総長だよね?」

「ああ、そうだよ」

(さく)って、誰なの?」

 カップラーメンにお湯を注いでいた信也の眼差しが、一瞬鋭くなる。

 カップラーメンの蓋をし、煙草ケースから煙草を取り出し口にくわえたが、火を点けずそのまま灰皿に置いた。

(さく)はあざみの姉だ。俺と付き合っていた」

「……信也の彼女」

(さく)はもういないよ。2年前に死んだんだ。暴走族の乱闘に巻き込まれた」

「……信也」

龍刃連合(りゅうじんれんごう)と対立する暴走族に絡まれ、俺を狙った族の鉄パイプが彼女の頭部にあたり、脳挫傷で死んでしまったんだ。彼女は普通の女子高生だった。俺と付き合わなければ死ぬことはなかったんだ。(さく)を殺したのは……俺だよ」

 苦悩に満ちた顔……。
 あたしは信也に抱き着く。

 信也が抱えている心の闇。
 その消せない過去に、今も苦しんでいる。

「だから……族を引退したのね」

「そうだよ。紗紅、お前ももうやめろ。もう誰も失いたくない」
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

斎藤紗紅(さいとうさく)16歳

レディース『黒紅連合』総長

 斎藤美濃(さいとうみの)17歳

紗紅の姉、家族想いの優等生

 織田信也(おだしんや)20歳

紗紅の交際相手

元暴走族

 織田信長(おだのぶなが)

戦国武将

明智光秀(あけちみつひで)

戦国武将

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み