第85話 ゼロリセット計画の質疑応答:2024年1月

文字数 1,799文字

(T商事とAAパートナーズが、ゼロリセット計画について、質疑応答する)
2024年1月。ネット会議。
ゼロリセット計画の質疑応答が開始された。
「質問を受け付けます」
クリントンCEOが口をひらいた。
「新しい船、つまり、新しい組織の計画は誰が立てるのですか」
神奈川常務が口を開いた。
「そこが、ポイントになります。組織計画を立てる人と組織で働いている人は、出来るだけ独立であるべきです。OS入れ替えで考えてみましょう。OSで使われているアプリケーションやデータと、OSを開発する人は、別のチームです。組織が小さい場合、いわば簡単なOSの場合には、小人数で開発できます。ビル・ゲイツがIBMからPC-DOSの開発を請け負ったときには、実は、OSは何もできておらず、シアトルコンピュータから購入したOSを改造して、その場を凌いだことは、有名な話です。しかし、この時代のOSは、GUIも無ければ、メモリー空間も小さな単純なものでした。現在のGUIを満載したOSは、そんな片手間では、どうにもなりません。
この例え話には2つの意味があります。第1は、複雑なOSの改造と複雑な組織の改造は、どちらも素人が片手間で出来るものではないということです。第2は、現在の組織改革においては、ITを活用出来る組織に出来るか否かが、組織の効率性を決定的に左右するということです。
これから、組織改革には、組織マネジメントとITの専門家が関わる必要があることがわかります。
一方、改革する組織に固有の問題もあります。この対応には、組織のことがわかっている一方で、しがらみがない人材が必要です。つまり、クライエントの組織の人で、しがらみの少ない人のタスクフォースへの参加が求められます。このためには、クライエントの組織からの参加者は、タスフォースが解散後も、一定期間は、クライエントの組織に、戻らないような制約が必要でしょう。簡単に言えば、自分で、自分に都合の良いようなポストを作って、そこにおさまることができれば、タスクフォースは、失敗してしまいます。
経営危機に陥ったIBMは、ナビスコのCEOのルイス・ガストナーを招いて、再建に成功しています。この事例でわかるように、組織改革には、雇用がジョブ型であること、しがらみがない人材が改革を執行することが必要です。日本の年功型組織の場合には、組織改革の時に、IT対応だけでなく、ジョブ型雇用への移行も同時に行わなければならないので、IBMの建て直し以上に難しくなります。
クライエントの組織からの参加者は、タスクフォースが解散後も、一定期間は、クライエントの組織に戻らない、という制約条件は、厳しいですが、必須です。日本の組織改革が失敗するのは、労働市場がないために、この条件を無視するためです。これは、過去の政府が企業にセーフティネットの役割を与えたことに原因があります。例えば、南太平洋のタヒチでは、大家族がセーフティネットになっています。大家族の一員は、職がなくとも、大家族に属している限りは、食べることに困ることはありません。一方で、給与などの収入があった場合には、その収入は個人のものではなく、大家族のものとして扱われます。つまり、大家族が、運命共同体で、セーフティネットでもあるわけです。昔、家族がセーフティネットになっていた頃のことです。タヒチの男性と結婚した日本人の女性が、旦那の給与は、大家族のもので、自分は自由に使えないことに唖然としたという話を聞いたことがあります。年功型雇用は、これと、同じような、企業を中心としたセーフティネットになっています。企業にいる限りは、実質的な仕事がなくなっても、給与がでます。年功型雇用は、戦時体制のためのセーフティネットなのです。しかし、このような組織では、労働生産性は止めどもなく下がり続けてしまいます。
タスクフォースが解散して、失業した後での再就職は、難しいですから、一定期間は、失業保険のように、最低限の収入保障をした方がよいかもしれません。ただし、年功型雇用が壊れ、ジョブ型雇用が実現するのは時間の問題なので、労働市場がいつまでもないということはありえません。
追加しておきますが、企業年金は、整理する必要があります。ゼロリセット計画における年金の扱いです。これは、分割払いでもよいですが、一時金に置き換えて、清算することになります」
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