第1話-①
文字数 1,183文字
原作:上田秋成(1734-1809)
脚色:アート‐ポイエーシス( https://art-poiesis.org )
※オーディオドラマ(音声)版は、
YouTube:アート‐ポイエーシス・チャンネルにて配信中!!
私の命は、間もなく尽きよう。
だからその前に、語り遺しておきたいことがある。
あれは、おまえたちが生まれるよりずっと前、随分と昔の話だ。
私には今もなお、忘れられぬ女がいる。
女の名は、県の真女子と言った・・・・・・
九月も終わりのことだった。
若かった私は長らく新宮の神官、安倍弓麿に師事していた。
その帰り道、ひどい雨に遭った。私は雨傘を借り、家路を急いだ。
私の父は、紀伊国三輪崎で網元をしていた。
この辺りの漁師はみな、父から仕事をもらっていた。
ふいに、か細くも品のある女の声がした。
漁師が戻ってくると、その隣に、歳は二十歳前に見える女がいた。
黒髪は長く艶やか、容貌はこの世の人とは思えぬほど美しい。
遠山摺の色鮮やかな衣を着ていた。
十四、五の可愛らしい侍女がそばに控え、包み物を持っている。