第8話
文字数 1,426文字
ケイは緊張感がない私を柔和な表情を剥ぎ取って、真剣に見る。
こんな彼の顔を初めてで、胃がきりっと痛んだ。
そうだよね。
私は聖女。
聖女なんだから。きちんとやらなきゃ。
でも、
ケイの真摯な視線が私に刺さる。
これが本当の彼なんだ。
今まで見ていたのは、接していたのは表面だけ。
私は聖女。
聖女になりたかった。
だからちゃんとがんばる。
なんかひどい誤解だ。
だけど、ちらりとリキを見るとちょっと獣みたいで怖くなってきた。
これは、ケイがいたほうが安心かもしれない。
ケイはうだうだ言うリキの腕をつかみ、聖女の間から彼を連れ出す。
誰もいなくなった部屋はとても静かで、なんだか疲れてしまって、椅子にもたれ掛って座る。
それしか感想がない。
でもとても幸せな気分で、私はその日ずっと顔が緩みっぱなしだったらしい。
ケイに注意されてしまった。
それからケイの態度も変わってきて、時折小言も言われるようになった。
本当の彼の姿を見せてもらっているという反面、うざいというのが正直な気持ちだ。
二ヵ月後、リキは無事に隣国から戻ってきた。
半永久的和平をもぎ取ってきたとかで、国は大騒ぎ。
そしてそんな英雄的な彼が聖女付きになるとかで、もっと騒ぎになったらしい。
それを王の弟のケイ(!)が押さえ、リキは無事に聖女付きになった。
押せ押せのリキと、ちょっと小姑みたいなケイに挟まれ聖女生活二年。
私は聖女を卒業して、リキと結婚した。
新しくきた聖女は、めがねをかけた暗い子。
私みたいな子で、ちょっと心配したけど、ケイとうまくやっているみたい。
私と違って、ものすごい口が達者な彼女はあのケイと口げんかを毎日しているみたい。
いや、すごいとしか思えない。
だけど、みんなの前に立つ彼女の姿はとても落ち着いていて優しい雰囲気が彼女を包んでいる。きっと彼女も幸せなんだと感じられた。
ライトノベルで定番の物語だけど、私は日本でずっとこれを夢に見ていた。
転移して幸せを掴む。
現実逃避なんて、言われていたけど、幸せならいいんじゃないかあ。
現に私はとても幸せで、これからの聖女もみんな幸せになってくれればいいなと思っている。
ハッピーエンドは退屈なんかじゃない。
とても、とても幸せな終わりなんだ。
(おしまい)