第11話 初めての友人

文字数 3,583文字

長いようで早すぎる1週間を終えて、ついに週末が来た。

オーストラリアに引っ越してきて、飛行機の着陸直後からその足で語学学校へ行き、朝早くから日が沈むまでの時間をできる限り効率的に使っためまぐるしい日々だった。

週末はついに知人と会うことができる。
久しぶりに日本語を話すこともできるだろう。
そして日曜日は海を探索しようか。
まだ結局一度も早朝以外の時間帯の海を見ていないのだ。

朝7時、学校に行く癖で早くに目が覚めた。まだ時差は感じていない。
起きて携帯電話を見るとアユミから連絡が入っていた。

“Good morning ~! Harete yokattane I’ll be wearing white sweaters!”

アユミの途中日本語になるメールが可愛らしい。
わたしに気を遣って日本語を交えてくれているのだろうか。
日本で買ってきた電子辞書によると、sweatersというのはセーターのことらしい。
白いセーターの日本人の女性を見つければ良いようだ。

部屋から出て台所を通ると、Lucyがダイニングテーブルで一人トーストを食べていた。

“Good morning!”

“Good morning”

“Do you want to go out with us today? We are going to the beach and…”

Lucyが今日出かけないかと誘ってくれているようだった。
友達がいないだろうと気を遣ってくれているのだろう。

“I am meeting friend today.”

“Oh nice! Where at?”

“In the city.”

オーストラリアでは市街中心地を一括りに「シティ」と呼ぶ。
どこに行っても街の中心地であればであれば人々が「シティ」と言うところを見るときっとそういうことなのだろう。

“Right! That’s great. Enjoy your day!”

“Thank you.”

Lucyは優しい。わたしより一歳年上で、本当のお姉さんのようだ。いつも落ち着いていて周りに気を配っている。さらには顔も相当の美形だ。金髪の超ショートヘアに青い目、真っ白の肌はきっと現地でも相当の美人の扱いなのではないだろうか。

台所に置いてあるバナナを一本かじって、まだ他に誰も起きてこないリビングを通り8時に家を出る。まだまだ見ていない景色だらけなのだ。早く出て損はないだろう。

長い階段を降りてビーチにたどり着く、目が開けられないほど眩しい日だ。

バスの時間を確認すると、次のバスは5分後、そしてそのあとも10分間隔でバスは来ることになっている。ここから街中までおおよそ40分程度、できればインターネットカフェにも行きたいから15分ほどビーチを散歩してから行こう、と決めた。

まだ朝早いからか、団体はおらず、数人が時々ジョギングをして通る程度だ。二人サーファーが海に入る準備をしているのも見かけた。
わたしは今日書くブログ用にと何枚かコンデジで写真を撮りながらビーチの先まで歩いた。少し先まで歩くと、家の近くの小さなビーチとはうってかわって見渡す限り続く浜辺が無限につながっているのが見えた。

「明日はここを走ろう」

ジョギングをしている人たちに背中を押されて、永遠とも言えるほどに続くビーチを眺めながら、明日の朝を楽しみに思った。

8時20分すぎのバスに乗り、街に向かう。9時すぎには到着するだろう、30分間ブログを書いてメールを返したらアユミが到着する頃だろうか。
案の定40分で…と言いたいところだが、週末はダイヤが異なるようで、実際に街に到着したのは9時10分をまわっていた。

前回訪れたインターネットカフェへ向かい、受付でカードを渡す。インターネットカフェの奥を覗くとLANケーブルが無造作に伸びるデスクは空いていた。

急いでノートパソコンを取り出しLANケーブルを挿すとすぐにインターネットに繋がった。
両親からのメールを見ながら同時にブログを書く。写真はSDカードからノートパソコンに落としたそのままを少しリサイズして載せる程度だ。30分でできることは大分限られていた。
30分が経ち、支払いを済ませて店を出る。9時50分。このまま待ち合わせ場所に行けばちょうど良いだろう。

土曜日の街は賑わっていた。街の中心地に行くと、平日には見かけないほどの人の量。アユミのことを見つけられるだろうか。
9時57分にゲームセンターの前に到着し、うろうろしたり携帯電話を眺めたりする。ゲームセンターの奥には映画館があるようだった。ゲームセンターの隣には回転寿司のような一角もある。
Sushi Trainという看板が見えた。

“Heyyyyy! はなさーーん?!”

Sushi Trainを遠くから眺めているわたしの背後から声が聞こえた。

「はい!」

振り返るとそこには、背の低い白いもこもこのカーディガンを着た女の子が立っていた。

「あゆみさん?」

「はーい!会えてよかった〜。」

「はじめまして〜!」

「タイ人みたいだね!タイ人かと思った!」

「え、な、なにが??」

わたしの見た目がどうやらタイ人に似ていたのだという。わたしはそれまでタイ人と出会ったことがなかったので、全くぴんと来なかった。しかし全く悪い気もしない。わたしはこれから「タイ人っぽい人」として誇りに思おうと思うことにした。

「わたしこちらにきてまだ1週間でシティのこと何もわかってなくて」

「そうだよね〜!とりあえず歩き回る〜?」

アユミはそういうと、アキとの思い出話や、幼い頃からバレエをしていて、将来もバレエの道に進もうと思っていることや普段学校で勉強していることなどを話しながら街を見せてくれた。
観光地になっている有名な場所や大学、本屋や日本人が営んでいる美容院、普段アユミが行く遊び場や映画館の紹介まで。
しばらく歩き回ってから、カフェに入った。お昼近くになると人の出も朝とは比べ物にならないほど増えていた。

「高校はどこ行くの?」

「行ったことはないからわからないんだけど、今住んでいる近くの公立の高校で…もう決まってるみたい。高校って選べるの?」

「選べるよ〜!制服とかかわいいところもあるし、人気なのは私立の学校なんだけど、制服が黒地に緑のストライプが入っててかっこいいの。こんな感じ。」

アユミはわたしよりずっと性能の良い携帯電話を使っていて、写真を検索して出してきてくれた。写真を見る限り確かにかわいい。スタイリッシュで高校の制服ではないみたいだ。

「いいな〜かわいい。。」

「でしょ!制服で選ぶのもありだよね〜。」

わたしは半年間語学学校に通ったら高校へ編入することになっている。高校への入学は来年の頭。六ヶ月後といってもいろいろ準備を含めればきっと本当にすぐだろう。佐々木さんが全て取り持ってくれているようだけど、どんな選択肢があるのか聞いてみよう。

しばらくカフェをしたあと、アユミはバレエのレッスンに行くということで、わたしたちは2時半に解散した。わたしはせっかく時間があるのでアキにお礼のメールをして、今日のことをブログに書いてから帰宅することにした。
インターネットカフェで1時間半ほどを過ごすと、4時半を過ぎており、帰宅の時間が迫っていた。アキや家族もわたしがインターネットカフェを使っていられる間は連絡を続けてくれて、久しぶりの対話はとても楽しく感じられた。インターネットカフェを離れることが悲しく感じられるほどだ。ホームシックになりつつあった。

家に18時直前に到着すると家にはたくさんの人たちが集まっていた。Lucyと、Lucyの彼氏らしき2メートル以上はあるであろう大きな男性、隣でMaryはCraigと何やら楽しそうに話している。Alexandraの姿は見当たらない。

“Hello Hanna!”

Lucyが笑顔で挨拶する。
この国では「おかえり」「ただいま」の区別がなく、帰ってきても迎え入れる時も”Hello”なのだ。

“Hello - “

Lucyの彼氏らしき男性がちらっとわたしをみて目をそらす。
MaryもCraigもわたしが帰ってきたことに気がついていないようだ。
わたしは特にお腹がすいているわけでもなかったので、部屋に戻り日記を書いたり日記を書いたり写真の整理をしたりする。

7時過ぎになるとAlexandraが部屋を訪れてきた。夜ご飯だという。

台所に戻ると、先ほどの人たちはいなくなっていて、Mary、Alexandraとわたしだけの食卓だった。みんなどこかに一緒にでかけるところだったのだろう。

AlexandraはMaryに学校の課題について聞いたり、「母と娘」の会話を続けている。きっとこんな自然な会話を常に聞いていられることが留学の醍醐味で、言語を学ぶ過程なのだと、黙々とパスタを食べながら思ったりした。
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