第4話 この気持ちは何だろう

文字数 1,806文字

―・・・。
アタシが朝起きて30分後くらいに千尋が布団から起きてきた。
「あぁー、カエデ、おひゃよう」千尋は、牛のようなあくびをして言った。
千尋はまだ眠り足りなそうだった。

千尋は洗面所に顔を洗いに行く。
後ろ姿は、黒髪のボブの毛先が寝癖ではねている。
アホ毛のようで可愛らしい。
なんて、千尋に言うと、「もうっ、カエデ。寝癖はコンプレックスなんだから。毛先が跳ねるのが気になって、この前も髪を切りに言ったんだから」とむくれた顔をする。
そんな、千尋もアタシは好きだった。

炊飯器ですでにお米は炊けている。
お米を蒸らすために、アタシは炊飯器の蓋を開けた。
蒸気が、モワッとアタシの顔を直撃する。
蒸気に当たった途端、アタシは突然、吐き気を催した。
「おかしいな、昨日はお酒も飲んでないんだけど」とアタシは思いながら、朝食を撮る気分ではないので、ミネラルウォーターだけで今日の朝食を済ませた。

顔を洗ってきた千尋が戻ってくる。顔はまだスッピンだ。
ひな人形さんみたいな顔をしている。化粧をしていない千尋はあどけない。
千尋はしゃもじを取って、茶碗にご飯をよそう。
「あれ、カエデ、ご飯食べてないんだね」千尋は不思議そうにアタシに尋ねる。
「あ、ちょっと具合が悪くてさ。ちょっと吐き気がして、朝は何も食べないことにした」と、アタシが返すと、「あ、カエデ、さては妊娠した?」と千尋はいじわるっぽく笑う。そして、
「カエデを他の男にはあげないんだから」と笑って、白いご飯と冷蔵庫の辛子明太子を頬張って言った。

時々、千尋はアタシがドキッとする冗談を言う。
そりゃ、アタシも千尋のことが好きだし、友達以上の関係だとは思う。
女同士で、しかもお互い大人で、こんな関係になることは稀だろう。
アタシは、千尋の本当の気持ちを知らない。
でも、千尋にそれを尋ねようとすると、
三途の川の石が崩れるように、
今まで過ごした時間・空間がすべてがゼロになるような気がした。

千尋は、白いご飯に、ご飯のお供(辛子明太子・のり・ゆかり)を載せて頬張っていた。
ゆかりが一番好きだと言っていた。
よく食べるから、千尋の発育が良いのもうなずける。アタシなんかとは大違いだ。

千尋はご飯を食べ終わった後、自分の食べた食器を洗剤で洗って食器かごに起き、
洗面所で歯磨きをしていた。
アタシはといえば、スマホにイヤホンを接続して、B'zの「今夜月の見える丘に」を聴いていた。
Youtubeの動画視聴は、15秒の広告CMが入ってくるからうざったい。
興味も無いのに、学習塾の広告が入ってくる。

千尋のメイクは5分くらいで終わってしまう。
CANMAKEで下地を作って、
アイラインを軽くいれ、リップグロスを塗ったらできあがりだ。
千尋は<あの>リップグロスを使っている。
以前、アタシが貸してもらったやつだが、唇がぷっくり淡いピンク色になるものの、
唇がヒリヒリしてあたしは苦手だった。千尋にそう言うと、「えー、せっかくカエデ、可愛くなったのに」とぷっくり怒りながら、残念がっていたことを思い出す。

千尋の準備が終わり、アタシたちは作業場に向かう。
午前8時30分に始業、8時35分に音楽が流れ、ラジオ体操を作業場の人たちで一斉にする。
ラジオ体操は2番まである。
その中に、女子が嫌いなパートがある。
上腕二頭筋を曲げ伸ばしする体操だ。
特に、中学生の女子などは、この体操をしたがらない。
アタシも恥ずかしがってやらなかったっけ。
中学生や高校生の思春期の時は、
今となってはどうでもいいことで悩み、または過剰に意識をしていたものだ。
あの子たちのグループからハブられたくない。嫉妬されたくない。目をつけられたくない。
話題についていかないといけない。弱みを見せて、話せる関係を作っておかないといけない・・・。
女同士の人間関係って、今思えば、戦場か軍隊のようだったと思う。
そんなことを思いながら、アタシはいつものようにラジオ体操で体を動かす。

千尋は身体も柔らかかった。
地面に手のひらがついている。バレエか何かやってたんだろうかと、思わず勘ぐってしまう。
千尋は、学生時代に過ごした女友達とは違っていた。
何というか、千尋といるとアタシは気が楽なのだ。
千尋はこんなアタシを無条件に包み込んでくれる。
同時に、そんな千尋をアタシだけのモノにしたい、
という一種の独占欲のようなモノもアタシの中に芽生えてしまっていた。

この気持ちは何なんだろう・・・。

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