第125話 3ヶ月と31日目 9月25日(金)

文字数 1,624文字

 いい加減止めなければと思い、明日から次の給料日迄スクラッチくじも宝くじも一切買うことを止めようと決意した。
 ここ一週間私は競馬やパチンコをやりたくなる度に、その対策として宝くじを買って来た。
 ほぼ毎日である。
 しかしこのままでは競馬やパチンコを止める為に、宝くじ依存症になってしまう。
 今日新たにスクラッチくじを買ったのもパチンコに行きたくなったからだ。  
 但し次の給料日前日迄今日買って来たスクラッチくじも削らないし、明日以後は給料日前日迄、たとえビリケンさんに会おうが、窓口に幸運のぽっちゃり女神が居ようが、スクラッチくじも宝くじも一切買わないつもりだ。
 と、言っても宝くじの場合、「買っても当たる確率は低いし、ポイントを加味しても買った額の89%は支出になる」、と、冷静に判断は出来ている。 
 つまり宝くじの場合「出る金」のことを優先して考えていて、競馬やパチンコほど勝つことに期待を寄せてのめり込むことはない。
 だから宝くじは良い。
 だから宝くじはコントロール出来るのだ。
 そして宝くじはギャンブルではない。
 しかし何事にも限度と言うものがある。
 なる程競馬やパチンコはせずに済んでいるが、そのことを言い訳にして私は調子に乗り過ぎたように思う。
 自制が必要だ。
 その自制の決意を部屋に貼り付けてある上杉謙信の言葉が背中を押してくれた。
「運は天にあり、鎧は胸にあり、手柄は足にあり、命を惜しむな、名こそ惜しめ」、である。
 私なりの解釈はこうだ。
「名に恥じることはしない。鎧を着けて己を守るのではなく気持ちで己を守る。運は天のみぞ知るところであり、手柄と言うものは自分が努力して自分の足で得るべきものである」
 そう、私は上杉謙信が好きなのだ。
 しかし今日テレビ東京のWBS(ワールドビジネスサテライト)を観ていたら、ゴールドマンサックスの女性アナリストが出演した際、背景に武田信玄の掛け軸が掛かっていた。
 女性アナリストだったのだが、やはり凄いギャラを貰っているのだろう。
 髪の毛はサラサラのロングで、薄目ではあったが凄くキメの細そうなファンデーションを使っていた。
 やはりギャラが良いのだ。
 一本数万円のシャンプーに、容器だけで数万円するような、口にすると舌を噛んでしまいそうなブランド名のファンデーションを使っていること間違いなし。
 片やほぼ100円ショップで買ってきたものに埋め尽くされている私の部屋と、貧乏極まりない私。
 私も株に投資しているが恐らく6〜7桁くらい、ゴールドマンサックスの女性アナリストと扱っている桁数が違う筈だ。
 やはり自制の際には上杉謙信でも、投資には孫氏の兵法を重用する武田信玄と言うことか。
 或いは謙信の「車懸かりの陣」より、投資には信玄の「鶴翼の陣」、と、言うことなのか。
 今夜はそのことについて考えてしまい、眠れそうにない。
 と、言うことで、今日の競馬やパチンコでの無事は信玄と謙信、或いは川中島の合戦に感謝である。
 また明日の無事はスクラッチくじや宝くじを買わなくても、無事は確実であると思いたい。
 しかしそんなときに限って、ビリケンさんや
幸運のぽっちゃり女子に会うものなのだ。
 あっ、でも、そんなことは考えなくて良いことに気付いた。
 明日は派遣バイトの日なのだ。
 しかも1日中頭の中を空っぽに出来る肉体労働の。
 つまり心配するとしたら明後日以後だ。
 よし、明後日は部屋に居よう。
 そうすればビリケンさんにも、幸運のぽっちゃり女子にも会わなくて済む。
 しかし良く良く考えると、それって自ら幸運を避けるようなことをしているのではないか。
 だから外れるスクラッチくじを買ったのか。
 否、買った日にはビリケンさんにも幸運のぽっちゃり女子にも会った筈だ。
 うーん。
 今夜は信玄と謙信のことより、そのことで眠れそうにない。
 
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