背徳の世界に倫理を問い掛ける

文字数 798文字

何作もアニメ化されるまでに「キャラ立ち」した登場人物達は、京極堂・百鬼夜行シリーズの物理的な重さを軽くする。

実際にライトノベルも出版している作者であるが、キャラクター性の強さは物語への没入を安易にさせる。

分厚く重いハードボイルドなミステリー小説かと思いきや、ページめくりのスピードをライトノベル並みにしてくれるのはキャラクター性だけではない。

その舞台もまた、360度が大切に色濃く描かれている。

例えば一作目『姑獲鳥(うぶめ)の夏』では、解放されたばかりの粗雑なエネルギーと光の未だ届かない陰鬱さを携えた戦後すぐの日本で、戦前から続く個人経営の病院が舞台となるが、まだ魔術と医学の分離が完了していない不穏さに中世ヨーロッパの混沌と狂気を視る。

魍魎(もうりょう)(はこ)』では狂科学、狂医学の要素が引き伸ばされ、読者はマッドサイエンティストに究極の倫理を突き付けられる。

この二作のどちらも、鍵を握るのは少女だ。

鉄鼠(てっそ)(おり)』では禅寺の男たちの世界に誘われ、『絡新婦(じょろうぐも)(ことわり)』では蠱惑的なカトリック女子校の世界へと手を引かれる。

どの作にも、背徳と倫理の問い掛けが詰め込まれている。
とはいえ決して一枚岩ではなく、各作の濃厚なエッセンスによって別世界が鮮やかに色付いている。


姑獲鳥(うぶめ)の夏』
・精神医学、和洋館、少女性

魍魎(もうりょう)(はこ)
・科学、化学、新興宗教、マッドサイエンス、少女

『狂骨の夢』
・プロテスタント、自己同一性、セックス教団

鉄鼠(てっそ)(おり)
・禅、禅寺の作法、無我の境地、男色

絡新婦(じょろうぐも)(ことわり)
・カトリック系女子校、黒ミサ、悪魔崇拝


以降の続編についての紹介はここでは省略する。


(続く)
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