ミサイル

文字数 983文字

 ここにクマのぬいぐるみがある――わたしの物である。からだじゅう黄色であるが、右耳はピンク色であり、黒いつぶらな瞳で、オレンジ色のハート型の鼻がちょこんとついている。身長は四十五センチ。
 
 これは、今から六年前の元旦に、わたしが某ホームセンターで一回三百円のキャラクターくじをひき、三等賞を当てた景品であった。
「カラフル・ケアベア」という名であったが、我が家では、「けあこちゃん」という名の愛称になった。
 
 カラフル・ケアベアの製造国はハワイであり、一説によると“芸術の神様”と崇められている物凄いぬいぐるみだった。彼女が我が家に来てから、わたしはアコースティックギターを掻き鳴らしYouTubeに動画をアップロードしはじめた。動画再生回数は十万回で、まあまあの出来だった。つい二年前には、WEB小説を書きはじめた。だが、わたしの作品は、チャイニーズ・チキンバーガーの一個分の価値にも満たない、つまらないものばかりである。
 
 四十八歳をとうに過ぎたわたしが、「けあこちゃ~ん、いっしょにあそびましょう」と猫撫で声をあげて、夜は寝床に持ち込み、時には旅行にも連れて行った。チョー溺愛(できあい)と呼ぶにふさわしい。母に頼んで、しまむらから子供服を買ってきてもらい、着せてやった。いまでもミキハウスの真っ赤な毛糸の帽子をかぶり(帽子がないと彼女はちょっとブサイクだ――そこがまた可愛らしいのだ。)赤に白の水玉模様の洋服を着せてある。ウサハナの財布を首にぶらさげ、そのなかにぎっしりとのど飴を詰め込んでいる。マイメロの真っ赤な靴下が、彼女にとってお気に入りのようだ。わたしは、けあこちゃんの頭をなでなでした。

 ピロォリロォリーン――!  
 ピロォリロォリーン――!

 とつぜん、わたしのガラケーが鳴りはじめた。
 Dアラートの警報だ。
 どこかの国がミサイルを発射したのだ。
 わたしは書斎から離れテレビをつけた。
 画面をみて思わず絶句した。
 父と母は避難の準備をした。
 わたしはけあこをおんぶした。
 緑色の唐草模様の風呂敷でぎゅっとしばった。
 外では不気味な警報がけたたましく鳴り響いた。
 けあこのほっぺたにキスをして、彼女の耳にふたつの言葉をささやく。
 あとは奇跡が起こることを信じよう――生きる希望とともに。
 
 
 


 
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