第4話 ドラゴン退治に出発

文字数 1,597文字

 トビーのおうちは、雪のまた雪の下にありました。トビーのおうちだけではありません。小人たちのおうちはすべて雪に埋もれてしまっていました。雪はどんどん降ってきます。小人たちは靴下の手袋をして一生けん命雪かきをしているのですが、とても間にあわず、すぐにおうちは雪に埋もれてしまうのです。トビーのおうちでも、おとうさんのピーターさんがせっせと雪かきをしていました。
 自分の背丈ほどしかない小さなおうちに、ちいちゃんは、かがんで背中を丸めながら入っていきました。家の中に入れば少しはあたたかいだろうとちいちゃんは思っていました。しかし、家の中にはストーブもなければ暖炉もありません。家の中だというのに、寒さは外と同じほどなのです。違うのは、頭に雪が積もらないことぐらいでした。
 外にずっと立っていたちいちゃんの唇は寒さのせいですっかり紫色になってしまっていました。ぶるぶる震えているちいちゃんの体に、メアリーさんが靴下を何足もつなげてつくった毛布をかけてくれました。
「ここはこんなに寒いのに、どうして暖房がないの?」とちいちゃんは聞きました。
「必要なかったからよ」とメアリーさんは言いました。
「ここは雪なんか降らない場所だったから。強い風がふくけれど、一年中あたたかかったの。それがいつからか、むこうの山にドラゴンが住み着いて雪を降らせるようになったの。今では雪に埋もれた寒い世界になってしまったわ」
「それで、靴下をマフラーや手袋がわりにしていたのね」
「そうなの。ごめんなさいね。寒くて仕方なかったのよ」
 雪はどんどん降ってきます。外ではピーターさんが雪かきをしていますが、雪の重みで屋根がしなっています。家の中でもこんなに寒いのだから、外はもっとでしょう。あたたかいマフラーをしたくなる気持ちもわかります。でも、靴下を取られてしまうのは困ります。スーパーがあればいいのですが、ここにはないのです。でも雪が降り続ける限り、寒さに震える小人たちは靴下を取り続けるでしょう。
 困ったなとちいちゃんは思いました。ちいちゃんの靴下がなくならないようにするには、小人たちの住む世界が元のようにあたたかくならなくてはなりません。
 しきりに降っている雪を窓からながめながら、ちいちゃんは考えました。そうだ、雪が降らなければいいんだ!
 雪を降らせているというドラゴンに会いに行く、ちいちゃんは決心しました。ドラゴンに会って、雪を降らせるのをやめてくれと頼むつもりです。
 ドラゴンに会いにいくと言うと、ピーターさんとメアリーさんはものすごく反対しました。
「ちいちゃん、ドラゴンはものすごく大きくて、ものすごく怖いんだ。雪を降らせないでくれってお願いしても、きいてくれやしないよ」
「そうよ、ちいちゃん。ドラゴンに会いにいくなんて、危ないからやめなさい」
 大きくて恐ろしいドラゴンときいて、ちいちゃんはちょっと怖くなりました。しかし、何もしないでいてこのまま雪に埋もれていくのも嫌でした。
 トビーもちいちゃんと同じ気持ちだったらしく、ちいちゃんの味方になってくれました。
「父さん、母さん。僕はもう雪はうんざりだ。父さんも母さんも、毎日雪かきばかりしているじゃないか。この先も雪かきばかりしていくのかと思うとぞっとする。人間の靴下を取り続けるのももう嫌だ。僕は元のあたたかい世界での暮らしを取り戻したい」
 トビーの思いはピーターさんとメアリーさんの気持ちを揺り動かしました。このまま降ってくる雪をどけ続けるだけでは何の解決にもなりません。ピーターさんもメアリーさんも、トビーに雪かきだけする一生を過ごしてほしくはありませんでした。
 ピーターさんとメアリーさんは、ドラゴンに立ち向かうと言い出したトビーに感動していました。トビーは大人になろうとしていました。もしかしたら、ちいちゃんの手前、かっこつけていただけかもしれませんが。
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