第60話  仏滅とさんりんぼう

エピソード文字数 4,993文字


 ※



萌。何でお前こんな所で……ナンパしたの?
てめーと一緒にすんな。

 ん? 萌さんがやたらムスっとした表情になると、明らかにイケメンを鬱陶しがってるぞ。


 何も喋らない訳にはいかないので「萌さんの知り合いの方ですか?」と質問すると、イケメンが答えてくれる。

そうです。昔からの知り合いでして
 愛想笑いをするイケメンに対し、萌さんはこんな事を言いやがる。
ちげーだろ? てめーは俺の彼氏だろが

 え?


 も、萌さんの彼氏。だと?

こらてめー。冗談も顔だけにしろよ。こんなプロレスラーが彼女とか。全然違うんで
 イケメンも結構言いやがるが、萌さんも負けていなかった。
こんな時間にも俺に会いにくるなんざ、可愛いとこあるじゃないか
 萌さんはそう言いながらイケメンの肩に腕を乗せると「さっさと帰るか。二人で遊ぼうぜ」とか言いやがる。

ちょっ待ち。自己紹介くらいさせろクソゴリラ。


っつーか離れろ! 汗くせ~~んだよ!

お前の自己紹介などいらん。するだけ無駄だ。

 やたら煙たがっている萌さんは、この場を早く離れたいような、そんな感じがした。
俺、竜王、将哉(りゅうおう しょうや)って言います。どうも。美人ちゃん

 竜王? あぁ、そう言えば竜王さんも髪の毛が水色だなぁとか思っていると、もしかして兄弟だったりして。とか思ってしまう。


 どっちも美形だしな。

嘘ですよ。本当は「女 たらし」君っていう、凄腕ナンパーマンなんで

 も、萌さん? つーか、なんの捻りも無いぜ。

 キレが悪い所をみると、なんとなく焦っているようにも感じる

こいつ。俺の他に十股くらい掛けてる女たらしなんです。

女の敵みたいなモンですよ。マジで。

十股?
嘘ですからね。ってか一体いつお前の彼氏になったんだよ

白峰さんも。こいつに声掛けられても無視してください。

可愛い子見かけると、すぐに手を出すんで。


俺と言う彼女がいながら、見境無く女の尻追い掛け回す馬鹿なんですよ

お? 白峰さんって言うのか。よろしくね

 ぽろっと俺の名前を言った萌さんの表情が険しくなる。しまったと言わんばかりな顔になっちまった。


 でも、萌さんの言っている事は恐らく正解だ。

 イケメン野郎が俺に見せる目が、そんな感じに見えるんだ。


 楓蓮の時に見せる男の目というのは、実に分かりやすく、相手が何を考えてるのか、ある程度分かっちまうんだよ。

帰るぞ。ナンパーマン。またね白峰さん
もう少し喋らせろよ。こうやって出会ったのも何かの縁だし

じゃあ三秒だけ、3、2、1、はい終了~~~!

ついでにお前の人生も終了。さっ。帰るぞ

こらっ! クソゴリっ! いい加減にしろ。

っつーか馬鹿力すぎんだろお前っ!


 将哉くんの首根っこを持ち、引きずってゆく萌さん。


 ほ、本当にあの二人は恋人なのか?

 何となく仲は良さそうに見えるが……一体どうやってそんな関係に発展したのか、謎過ぎる。



  

 だけど早朝マラソンでも、萌さんという知り合いが一人増えた。


 萌さんの顔は怖いけど、気さくな人で、何よりも女の子臭がしないのは、俺にとって非常に喋り易いと思った。


 

 俺も頻繁には来れないが、今度また萌さんと逢ったら、ちょっと戦ってみたいとか思う楓蓮であった。

 強そうな奴は、一回手合わせ願わねーとな。  

  

 

 ちなみに。ナンパーマンな将哉くんは良く分からないし、こちらからはまず声を掛けない。


 楓蓮の場合、男とはあまり付き合いたくないし、さっきの目を見る限り、良い関係にはきっと進展しないだろう。



 ああいうのは無視が一番。ロクな奴じゃない。

 

 それは今まで楓蓮として生きて来た経験がそう思わせるのであった。

 ※


 萌さんやナンパーマンと別れ、鼻歌交じりに家に帰ろうとすると、遠くから聞こえてくる犬の鳴き声が徐々に近づいて来る。


 何だか一匹の鳴き声ではなく、沢山いそうな感じだな。

 どっかの人が、沢山の犬を連れて散歩しているのだろうか。


 まぁそろそろ明るくなってくる時間だし、サイクリングロードに散歩しに来たのだろうと思っていると、そこで聞き慣れた声がするのだった。



 道路の向こう側に見えたのは、沢山の子犬を引き連れた、坂田さんに、紫苑さんじゃないか。



あ、紫苑さん!

 手を振ると、向こうも気がついたらしい。と、そのまま接近すると、深々と挨拶される。ついでに坂田さんにも軽く会釈する。


 紫苑さんは知り合いだが、坂田さんは楓蓮で会うのは初めてだからな。

早朝にマラソンですか? めっさ元気ですね
紫苑さんはわんちゃんとお散歩?

 すると紫苑さんは急にデレっぽい顔になると、連れていた子犬を抱きかかえて「そーなんですよ」と答えてくれる。


 おおっ……可愛いじゃないですか。

 これってミニチュアダックスフンドですよね?

マジョリーナちゃん言うねん。可愛いやろ? もうウチこの子にデレっぱなしなんですよ

 あっ! その名前は……蓮で聞いたぞ。

 やっぱりペットで正解だったようだ。

先輩。この美人な方は? どなたさま?
ああっすまん。この人な。ウチのバイト先の先輩やねん。むっさ綺麗やろ?
ですです。綺麗な人すぎてびっくり
いえいえ。そんなことないですよ

 あんまり綺麗言われるのは……苦手なんだけど。

 

 とりあえず、坂田さんにも自己紹介を済ませると、向こうも同じように返してくれる。と、ここでも坂田さんのふにゃけた顔は変わらなかった。


 というか坂田さん。すげー沢山連れてますよね?

 五匹もいるじゃないですか。しかも全部ミニチュアダックスだぞ。


 小さい犬達が所狭しと……何だかめちゃ癒されます。



 二人の話を聞いていると、どうやら坂田さんの両親が大の犬好きであり、家族ぐるみでペットの面倒を見ているらしい。



 そして紫苑さんは、坂田さんから一匹譲り受けたらしいのだ。それがこのマジョリーヌちゃんなのである。よく見ると坂田さん家の犬達と似ている気がするぞ。





 俺はしゃがみこむと、犬達に群がられてしまった。

 何だかめっちゃ匂われてる!



 あぁ……でも可愛い。

 いいなぁ。ペットか。俺も飼いたかったぜ。


あら珍しい。全然吼えなかった
あれや。わんちゃんでも楓蓮さんの圧倒的な美しさを分かってるんや

 二人が喋っている間にも匂われまくってる。ちょっと鼻が当たったら冷たくて、こちょばい。


 はぁう~~! 何これ。すんげーきゃわいい!



 思わず一匹を抱っこしてみると、全然暴れずに俺の顔をクンクン必死に匂っている姿を見て、とても愛くるしいと思ってしまった。


 マジマジと目の前で見てみると、そのつぶらな瞳に吸い込まれ……うぉっ! 鼻を舐められてしまった。

あぁ~~可愛い。めちゃ可愛いです。


私もわんちゃんは飼いたかったですねぇ

 思わず口に出してしまうと、坂田さんはこんな事を言うのだ。
もし良かったらわんちゃん。お譲りしましょうか
ええっ?
 彼女からの急な申し出だったので、驚いていると、紫苑さんもうんうんと頷いた。
ほんまや。楓蓮さんもさおりんから貰いーや。この子らは買い手が付かんかったらしくてな
そーなんです。お母さんも困ってて……ちゃんと面倒見ていただけるなら、タダでどうぞ
ちょ! ちょっと待ってください。私……ペットとか。飼った事が無くて……
ちなみにこのわんちゃん達、血統書もあるで。普通にペットショップで買ったら十万以上するし

 なんですと? そんな高価なのか? 


 返答に困っている間にも、他の犬達にやたら乗っかられる。

 どうやら警戒が解けたのか分からないが、顔をこすり付けられたりすると、可愛くてどーしようもねぇ。

ちょっとお父さんに聞いてみます。それで良かったら是非お願いします

 とは言え、すぐには決められない。

 凛はきっと喜んでくれそうだが、あのマンションでペットを飼っていいのかも分からないし、ちゃんとお世話できるかどうかそれが一番大事なのだ。

うんうん。是非検討してみてください。いつでも大丈夫ですよ

初めてでも大丈夫やで。さおりんも丁寧に教えてくれるし。

それに……ウチんとこのマジョリーナちゃんと兄弟やしな。何でも手伝わせてもらいます

 あぁ。そうか。紫苑さんとこの兄弟でもあるんですね。



 話に夢中になってると犬達の中でも一番大きいのが、俺の足に掴みかかったまま、下半身がめっちゃ動いているんですけど。


 坂田さんが怒った声を出すが、全然聞いてねーぞ。


ははっ。やっぱ楓蓮さんはわんちゃんの世界でも美人なんやで。うほっええ女や。って
は? 紫苑さん? ど、どーいうこと?
 本当に分からない俺に、坂田さんが教えてくれる。
あー。これはマウンティングって言いまして、ちょっと発情しちゃってまして、スケベーになってます

 そう言いながら大きい犬を取り除いてくれたのはいいが、俺はその時、そのわんちゃんの股間が目に入ってくると、顔が引きつってしまっていた。



 ちょ。めっちゃグロい……グロいというか赤い。

 あまりのショックに目が白くなりそうだった。


 ううっ。これはわんちゃんの……アレだよね。

 

あ、あのできれば……メスがいいかな?
 思わずそう提案すると、坂田さんは二匹の犬を抱きかかえる。
じゃあ、この仏滅か、こっちのさんりんぼうですね
え?
 何その名前。すんげー不幸っぽいネーミングに更に顔が引きつる。
それな、さおりんのお母さんが付けるんやって。わんちゃんの数が多すぎて、こんな名前にされとるらしいんよ。面倒くさいんやって
 それは酷い。もうちょい良い名前はなかったのだろうか。
先輩のも「大安」ちゃんでしたしね、こっちのオスは「友引」ちゃん。「先勝」と「先負」はもう他の人に引き取られちゃいました
なんなら二匹とも譲ってもらったらええんちゃうん?

 ああ、何だかそう言われると……

 早く決めないといけないのか?

  

 一匹でいいと思ったけど、せっかくの兄弟と別れるのは可哀想な気もするしなぁ……



 それにしても。可愛い。可愛いすぎる。


 だがそれ以上にペットを飼うとなれば責任重大だしなぁ……



  

 それにペットを飼っちまうと、凛と俺は学校に行ってるから、日中家に居ないので、やっぱり無理だな。


 その事を坂田さんや紫苑さんに言うと、

う~ん。それなら出掛ける際に私の家に連れて来てもいいですよ
ウチの家でもええで。面倒見てくれるおっさ……親父もいるし、楓蓮さんが家に帰る前に引き取りに来てくれていいし

 おおっ。なんという至れり尽くせり。

 これは二人に甘えてもいいのだろうか。


 しかしなぁ……そうなればわんちゃんの出迎え時にも「楓蓮」でいる必要があるし……難しい所だな。

ねぇねぇ先輩。私もその喫茶店でバイトしようかな。

ほんまや! さおりんも一緒に働こう。

こんな素敵なおねーさんも一緒にバイトしてるんやから

 素敵なおねーさんというか……

 本当は坂田さんとは同じ歳で、紫苑さんは先輩なんですけど。

きっとまだ募集してますよ。坂田さんも良かったら是非

あ~でも……

やっぱり部活は辞めないとダメなのかな……

ん? 坂田さんって何か部活やってましたっけ
さおりん。三年の人らが抜けてしまうからな……残念やけど無理やって。

 話を聞くと、坂田さんと紫苑さんは「軽音部」らしい。

 だが、三年のメンバーがもうすぐ引退してしまうらしく、部員は紫苑さんと坂田さんだけになるらしいのだ。


 ちなみに。紫苑さんはギターをやってて、坂田さんはベースを嗜むらしい。

部員が集まらんからな。同じ志持った人間がこの高校におらんしな……

さおりんも勧誘できたらええんやけど

わりとシャイなさおりんには無理な話ですねぇ……

あぁバンド組みたいなり。

 軽音か……興味があるが、俺には部活は出来ないからな。


 蓮で何かしら協力はしてあげたいが……

まぁ暗い話ばかりじゃなーて、楽しいこと考えようや。さおりん!
はいっ! ありがとぉです!

 それにしても。紫苑さんはいい先輩だよな。

 坂田さんが気さくに喋っている様子を見て、そう思わずにはいられなかった。

 結局、わんちゃんの件は「また連絡します」という結論に達し、そこで紫苑さん達と別れた。

 きっと凛は喜ぶだろうなぁ。 前からペットは欲しいと言ってたし……


 あとは親父が何ていうかだな。

 ぶっちゃけ俺は、飼う気満々になっていたというか、あんなつぶらな瞳でスースー言われたら、飼うしかない。


 とにかく。仏滅ちゃんやさんりんぼうちゃんの名前を改名してあげなきゃ可哀想だろ。

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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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