第100話  お互いの初めて 4

エピソード文字数 3,646文字

蓮くん……蓮くんは男の子と女の子が入れ替わる体質。なの?

 一瞬何を言われたのか。分からなかった。


 俺は確か……小説の話をしていた。そこまでは覚えてるのに、その話から何故こんな話になっているのか理解できなかった。



 あまりの重大告白に、言葉を失った。

 と、同時に身体が勝手に……口が勝手に動きやがる。


え? ど、どういう……こ、ことですか?

 ま、まだわからん。な、何が起こってるんだ? なんで? なんで?

 何で美優ちゃんが俺の……入れ替わり体質だと。知ってるの?


 システムダウン。

 俺の脳内司令部は大混乱し、電力がプツっと切れた。


 その時、彼女にずっと見つめらていたのを認識すると、思わず後ずさってしまい、必死にその視線から逃れようとしていた。

あっ……ああっ、あぐっ

 完全に頭が真っ白になっていた。


 黒澤家の秘密を……

 何重にも張り巡らされた堅固な城に、一人のくのいちが本丸に進入してきたかの如く、何もかもが無防備だった。


 なぜバレた? いつ? 美優ちゃんが何故知ってる?

 俺がシクった? ヒントを与えた?


 いや、そんなハズはない!


 決定的な場面なんて見られてない!


 スマホ? 間違えてない! 番号も別だって!


 もしかして小説か? いや……そんな事は……ない!


 どこだ? どこで美優ちゃんは……

 俺の正体を知ったっていうんだ!

蓮……くん? 男の子と、女の子に……入れ替わる。そんなお身体なのですか?

そうだよね?

はっ!

 名前を呼ばれて身体がビクついた。と同時に……

 口が勝手に喋りやがる。

え? あの……どういうこと? 意味が分からないです

 身体が勝手に拒否する。

 とにかく必死に抵抗しようと否定する言語を並べていた。


蓮くん……
そ の時、目の前に映る彼女が、やや下にうつむくと、俺の脳内司令部が緊急電力を使い活動を始める。
ど、どういうこと。ですか? 入れ替わる? え?

 脳内司令部が下した命令は全否定すること。

 認めてはならない。絶対に認めてはならない!


 入れ替わり体質など、そんな言語など知らないという人間を演じる。という事だった。

蓮くん……あの。わからない?
ちょっと意味が……すみません

 彼女の顔が完全に下を向いてしまうと、その間に脳内電力が復旧し、ようやく状況が飲み込めてきた。


 突発的な入れ替わり体質への話でテンパっていたが、なんの事はない。



 押し通す! 俺はそんな人間じゃないと!

ご、ごめんね。わ、わたし。変なこと言っちゃって……
いえいえ。俺もどうリアクション取っていいか分かんなくて

 危なかった。


 何とか脳内のメインメモリーが復旧すると、冷静さを取り戻す事に成功していた。


 そしてさらに畳み掛ける。

男と女が入れ替わる? ですか? そういうのって小説にも良くありますよね?

俺もちょっとああいうのを体験したいですよね

 知らぬ存ぜぬを貫く。入れ替わりって何の事?


 普通の人なら如何にも言いそうな台詞で固めていくと、俺は完全復活した。



 もう大丈夫。ボロなんて出さない。

 いつもの俺を演じろ! 普通の人間のように……


 すると美優ちゃんは少し顔を上げると、再び謝罪した。

あっごめんなさい。ず、ずるいよね?

 ずるい? 当然それだけじゃ意味が分からなかった。 

 だが、俺の守りは万全。何を言われても反撃することが出来る。



 そう思った。だが――

 




 完全復活したであろう俺の脳内は、再びダウンした。

 何重にも城壁を築き、守備を固めたにも関わらず……



 今度はその城壁ごと一瞬で吹き飛ばされてしまう。


 一撃。それは圧倒的な力だった。

白状します。私もその……入れ替わるの。男の子と女の子に
そ、そんな……

蓮くんも。だよね? わたしも。そうだよ。


一緒。同じ。


私達は……同じ入れ替わり体質……

 ※




 今度こそ脳内は完全停止し、俺はその場に固まった。


 視線は美優ちゃんのつむじに固定されており、眼球を動かす事も出来ず、そのシーンでそのまま時間が止まってしまっていた。


 どのくらい時間が経ったのか分からない。

 長い時間。それも悠久の時のようにも感じられる。


 得られる情報は、俺と同じように固まっている美優ちゃんの身体が小さく見えて、小刻みに震えているように見えた。


 やがて彼女の顔が少しずつ見えてくる。

 眼球がずっと彼女を追いかけて……俺の視線と重なった。




お、おな、おなじ。

わたし。私も同じ。です


 悲痛とも言える彼女の表情。その目はまっすぐ俺を射抜いているようで、僅かにその瞳が揺れ動く。


 完全にパンクしていた俺は、その感情を読み切れなかった。それよりも自分に視線が向いている事に恐怖を覚えた俺は、すぐさま下を向いてしまっていた。



 わからない。俺は何を言われたんだ?



 何故だ、何故こんなに恐怖を感じるのだ?


 それすらも分からずにただただ下を向く。今の俺に出来るのはそれだけであった。


 破滅的状況の中、俺の聴覚から脳内へと情報が伝わってくる。




 そして――

 この言葉が俺を一発で狂わせたのだ。

全部。正直に言うから……だから……

 え? な、何を?

 全部言う? 何を。何を?


 そ、それって……俺の事を全部正直に……?



 入れ替わり体質のことを……全部正直に言う。だと?



 その時、俺は無意識に顔を上げると、目の前にいた美優ちゃんに詰め寄っていた。

 それだけなら良かったのに……

 事もあろうか。白竹さんの腕を取り、関節をきめながら後ろに回り込むと、彼女の首を絞めていたのだ。



 一瞬の内に彼女を落とそうとしたその時――

 彼女のとても小さい声が聞こえた。

 俺に首を絞められ、苦しむ声が聞こえてくると、今自分が、何をやっているのかに気が付いた。
あっ……ああっ……

 俺は、俺はなんてことを!


 

 慌てて振りほどくと、すぐさま離れようとするが、咳き込む彼女を見ているうちに、凄まじい恐怖を覚えてしまう。


 全身に鳥肌が立ち、身体がガクガクと震えてしまった。



 そして白竹さんと再び視線が重なると、俺はその視線から逃げようとした結果、無意識にこの空間から逃げ出してしまった。

 

 ※



 その後、暫く記憶が曖昧だった。


 

 気が付けば、どこぞの知らない公園にいた。土砂降りの雨の中、屋根つきベンチに座っていたのだ。 



 スマホを手に取り、親父と連絡を取ろうとしたが、電話に出ない。丁度その時、美優ちゃんからのラインが届いた。


 それだけで恐怖におののく自分がいた。

どこですか? お願い。お返事下さい

 え? あっ。な、何?


 意味が分からなかった俺は、立て続けに彼女からのラインが来ていたのに気が付かなかった。履歴を遡って確認すると、

ごめんなさい
違うの。全部正直に言うって言うのは私の事だから

勘違いさせて本当にごめんなさい。

私。上手く人に伝えるのが苦手で、説明がヘタで、ごめんなさい!

どこですか? まだ蓮君とお話しないといけない
今外に出ました。お願い。連絡下さい。どこにいるのです? すぐ行きます!
なんてこった……何してんだよ俺は!
入れ替わる秘密は。絶対に喋らないと約束します。だから教えて欲しい
お願い蓮君。私も今怖くて、泣きそう
美優ちゃん……

全てを聞いてほしい。お願い。蓮くん。

もっと……なかよし。しよう。


あなたとなら、同じ入れ替わり体質なら……もっと仲良くできる。

 俺は……とんでもない馬鹿野郎だ。


 自分の事ばかり考えてた。


 自分を守る事ばかり、家族を守る事ばかり考えた結果、俺は美優ちゃんに何をしようとしたか。


 思い出すだけで、吐きそうになってしまっていた。

なんてことを……

 殺そうとした? いや。それはない。

 どこか連れて行って、親父の指示を仰ごうとしたのか?


 黒澤家の秘密をこれ以上知られないように?

 あの……美優ちゃんを?

まともじゃねぇ……

 ふとそんな時、美優ちゃんのラインが届く。

 その文章を見てから、再び自分のアホさ加減に……思わず泣きたくなってきた。

入れ替わる秘密は絶対誰にも言わない。

私たち二人だけの秘密。トップシークレットです

 俺はこのラインに対し、理解するまでに時間がかかった。



 秘密にしてくれる。

 それはつまり……俺も美優ちゃんに全部喋っても、秘密にしてくれる。


 だから大丈夫。



 そう思える。そう理解するには……

 全然時間が足りなかった。


 遠くから「黒澤」と聞こえる声。

 やがてその声が大きくなると、傘も持たずに走ってくるのは……魔樹だった。

黒澤。どういう事? 事情を説明してもらおうか

 魔樹から感じるのは、明らかな敵意だった。

 初対面の時に見せたような冷たい目を俺に向けながら、更に続ける。

美優が……泣きながら帰って来た
美優ちゃん……

説明するといっただろう?

正直に答えろ! 黒澤っ!

 魔樹の怒号。それは一撃で俺の平常心を叩き潰した。


 怒り。憎悪。そして凄まじい殺気は俺に向けられていた。

 対する俺は、戦意などあるはずも無く、抜け殻同然だった。



 身構える魔樹に俺は何もしなかった。

 いや。何も出来なかった。


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登場人物紹介

キャラのプロフィールは、章の始まりにも記載しています。


ここに記載されているのは主要人物です。

その他の登場人物は章の始まりなどに記載しています。


読者視点は神視点。

物語の中の人達が知らないことを全部見る事ができます


また、二章からはキャラの心の声まで聞こえます(フキダシが灰色)

 ★ 黒澤 蓮 くろさわ れん


 本編の主人公。高校一年


 男女入れ替わり体質。
 
 弟の凛と共に、新天地で新たに生まれ変わろうと、楽しい学校生活を送ろうとする。友人作りに重きを置き、人との付き合いにはとても慎重である。


 とても弟思いの良いお兄さん(お姉さん)

 ★ 白峰楓蓮 しらみねかれん


  蓮の女性の姿。白峰というのは偽名。

  黒澤家とは繋がりを見せないように演じる。


  心の中は男の子なので、女の子のファッションやらに興味が無い。

  とても美人なのにあまり自覚がなく、女性の姿はオマケだと思っている。

 ★ 黒澤 凛 くろさわりん


 小学校六年生


 男女入れ替わり体質。

 

 兄である蓮を慕い、とっても素直で女の子のような性格。
 ことある毎に兄に甘えてしまい、いつまで経っても、子供のままなので、蓮は凛の将来をとても心配している。



 ★ 白峰 華凛 しらみねかりん


 凛の女性の姿。

 外部との接触が無いので、彼女の存在を知るのは家族だけ。

 楓蓮と違い、おしゃまさん。


 ★ 美神聖奈 みかみせいな


 高校で蓮と同じクラスとなる。実は小学四年生までの幼馴染。


 容姿端麗。成績優秀。運動神経抜群。リーダーシップ抜群。お金持ち。

 など、全てを兼ね備えている人。


 二人目の主人公。

 ★ 白竹 美優 しらたけ みゆう


 蓮と同じクラスとなる。ピンクの髪が目立つ美人。

 自分の家の喫茶店で働いており、メイド服で接客をこなす。


 学校と喫茶店では、雰囲気がまるで違うのには理由があり……

 

 三人目の主人公。 

 

 ★ 白竹魔樹 しらたけまき


 蓮の隣のクラス。美優は双子の姉弟。


 学校ではとてもクール。喫茶店では男の娘?

 双方を知る蓮にとっては、非常に疑問な人物。


 四人目の主人公

 ★ 染谷龍一 そめやりゅういち


 蓮と同じクラスとなり、前の席という事で付き合い始める。

 わりと積極的。学校ではいつも笑顔で誰にでも優しいが……

 

 五人目の主人公

 ★ 平八 へいはち 


 聖奈専属の運転手。

 黒澤家の秘密を知っており、蓮の親である麗斗(れいと)とは旧知の仲



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