前世譚6 ❀ 僕の好きな人

文字数 1,306文字

嵐の夜から、数ヶ月が経ったある日のこと。


夏の盛り、リカルドは川辺への散歩にアリエッタを誘った。

綺麗な場所ね。

すると、森の方からがやってきて、リカルドの元へ舞い降りた。


この鳩とリカルドは、友だちなのだ。

くるっぽう、ぽぅ
可愛い鳩さんね
あなたを好いたようですよ

そう? 仲良くなれて嬉しいわ

すると鳩は、森へ飛び去ってしまった。

どこへ行ってしまったんだろう。

あっ、もどってきた

鳩は、くちばしでくわえた花を、アリエッタに贈った。

ありがとう。まぁ、良い香り。

お花のお礼は、鳩語でなくても、伝わるかしら?

くるっ…くるるっ
(さぁ、僕のもとにおいで)

リカルドは、心の中で鳩に語りかけた。


彼は幼い頃から、人でないものとも会話することができた。

(おかしいな。今日は僕の言葉を聞いてくれない……)

リカルド。

なんだかこの鳩さんに、好かれてしまったみたいです

鳩と戯れるアリエッタ。


せっかく彼女と2人きりなのに、リカルドは会話をはさむ間もない。

……まったく、ダメですよ。


僕の好きな人をとらないでください

(やっぱり)
(やっぱり、ってなんですか。分かっていたなら……あっ、逃げる気ですね!)
鳩はふたたび飛び去ってしまった。
あの……魔法使いさんは私をお好き……なのですか?

はい、もうずっと前から。


幼い頃、はじめて本屋に来た時に、ひと目ぼれを……

気恥ずかしくて、アリエッタと目を合わせることができない。

私も……同じです

同じ……?

幸せそうに本を選ぶあなたの横顔に、見とれていました。


あなたと本の話ができたら、どんなにステキかしら、って

最近は、たくさん話せましたね。

あの、リンデンの庭で

本屋の裏庭に、あなたがはじめて訪れた日のことを思い出すわ。

小道の先から、風が吹いて、甘い花の香がしたものだから。


誘われるように迷いこみました。

そうでしたね。


・・・あっ、リカルド。


鳩さん、もどってきましたよ

一体どこへ行っていたんだろう

川辺での語らいは、最も幸福なひとときだった。


リカルドは忘れることはなかった。


どこにいようと、だれに虐げられようと。

(なんて真っ黒な服だろう。まるで喪服のようだ……。このかぶり物も慣れない)
リカルドは頭巾をはらった。
あいつか? 怪しい呪術を学んでいたという…

親が、神父の前に引き出して告白したそうだ。

術を使おうとしたので、拘束したらしいぞ

2階から、修道士たちの噂話が聞こえてきた。
(どこから話が広まったのだろう。経緯を知るのは修道司祭だが……)

隠れ家に集めていた書物小道具が見つかってしまい、リカルドはここへ送られた。

他国の言語や、東洋の宗教に関する書物や物品が、異端だと? ただ見聞を広めていただけだ。父は、僕を家から追い出す口実を見つけただけだ!)

(あの時、僕が怒りに我を見失わなければ、魔法の力も暴走しなかったのに……)

おい、そこの。

修道司祭が呼んでいるぞ

(またいろいろと問い詰められる。したくもない懺悔をさせられるのか)

 バシャァアン!!


 リカルドの頭上から、がかけられた。

魔法使いのくせに、びしょ濡れじゃないか
2階にいた修道士たちは、ケタケタと声を立てた。
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登場人物紹介

帯刀 咲良  (たてわき・さら)


 高校2年生、剣術道場の娘。

ジョン・リンデン


イギリス人

インターポールの捜査官。

天羽 理々(あもう・りり)


高校2年生、咲良の親友

合気道部

ラルフ・ローゼンクランツ


ドイツ人

インターポールの捜査官。

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