第2話(1)

エピソード文字数 2,699文字

「勇者様。急ぎのお話がございます」

 時は翌朝、場所はダイニングテーブル。朝食を摂っていたら魔法陣が浮かび上がり、クールビューティーな女性(恐らく、二十代後半)が現れた。

「こちらにいるスーツをピシッと纏った御方は、レミア達の関係者でいいよね。どういう関係なの?」

 俺はホットサンドを齧り、異世界人3人に目をやる。
 はい。この程度では動じなくなった自分が誇らしくあり、感覚が麻痺していることが悲しくもあります。

「にゅむ。その人は、勇者さんの秘書さんだよー」
「突然、失礼致しました。ワタシは勇者様の下で働かせて頂いている、寒上(かんじょう)ツララと申します」

 氷のように冷たい感じを与える美女が、丁寧に腰を折り曲げる。
 ははぁ。以前シズナが語っていた『有能な秘書』というのは、この方だったのか。

「ツララ先生、様付けせんでいいぜよ。年上ながやし、呼び捨てにしてや」
「貴女様は、偉大な英雄。それは致しかねます」

 俺にとっては異常に強い龍馬オタクなんだけど、現地民にとっては偉人さんだもんなぁ。呼称を変えるのは不可能っぽい。

「ワシは、そっちの方がえいがやけどねぇ。偶々力が宿っただけながで?」
「まあまあフュルさん。そのお話は、たっぷり時間がある時にしましょ」

 室内にある時計を見ていたシズナが、やんわりと脱線を阻止する。
 すげぇな。そこまで大したことをしてないのに、変人がやると大仕事をやったように感じる。これはそう、70点をとった優等生が褒めらず、70点をとった劣等生が褒められるようだ。

「ツララさん、本日は急用があるんですよね? どのような用件なんですか?」
「この件は、勇者様のプライベートな事が関わる問題です。そちらに行くと皆様に聞こえてしまう可能性がありますので、お手数ですがこちらまで来て頂けますでしょうか」
「ん、御意ぜよ。数秒待ってや」

 フュルは最後の一口を口内に放り込み、出入口の傍に移動。そうすると寒上さんが、薄くルージュを引いた唇を耳元に近づけた。

「あの、ですね。――――――」

 ヒソヒソ話中。ヒソヒソ話中。

「ありゃ、そうなっちゅうがやね。でもそれって、報告するコトじゃないがやない?」
「ここまでは、仰る通りです。実はですね――――」

 もう一度、ヒソヒソ話中。ヒソヒソ話中。

「ふんふん、ふんふん。ほー。ほうほう。そこからそうなって、それがそういう風に――黒船来航!?

 不意に、フュルが跳び上がる。
 そっちのジャパンに黒船がやって来るはずがないので、今のは悲鳴と解釈していいでしょう。ここ、フュル検定で出るから覚えといてくださいねー。

「つ、つつつつツララ先生。それ、冗談じゃないがよね……?」

 フュル語で悲鳴をあげたフュルは、非常にどもって確認をする。

「それ……。冗談じゃ、ないがよね……?」
「事実、でございますよ。今現在は、そのようになっております」
「そ、そんな……。ボクがやったコトで、そんなになるなんて……」

 ぜよ口調が鳴りを潜め、彼女は顔面蒼白で立ち尽くす。
 俺はふざけた問題と思っていたが、ソレは大間違い。どうやら、相当ヤバい状態になっているようだ。

「この案件を解決できるのは、発端となってしまわれた貴女様しかおりません。こちらでの生活があると重々承知しておりますが、どうか一度ご帰還ください」
「…………そう、だよね……。ボクのせいなんだから、ボクがきっちり償うよ……」

 フュルは、倒れそうになりながら首肯。承諾の行為をどうにか終えると、力なくこちらに向き直った。

「突然、ごめんね――スマンぜよ。ワシは最低でも一週間は、あっちの日本に戻らないといかんなった……」
「なにか、でっかいトラブルが起きてるんだよね? 俺らに手伝えることってないの?」

 寒上さんが『本人しかどうこうできない』と仰ったが、援護くらいはやれる。普段助けられてるんだから、力を貸すぞ?

「コレは、ワシが最初から最後までやらんと意味がないがよ。一種の罪滅ぼしやきね」
「そ、そうなのか……。なら、ここで応援させてもらうよ」

 介入するのがバッテンなら、その方法しかない。そりゃあ思う所は多々あるが、今回は退いておこう。

「師匠、それにシズナ先生とレミア先生も。本にありがとうぜよ」

 フュルは弱弱しく頬を緩め、それから――っ! 心配そうにしていた親友2人と俺に、抱き付いた。

「もしかしたら次に会う時、ワシはワシじゃなくなってるかもしれん。もしものタメに、ギュッとさせてや」

 最後に抱き締めた俺に蚊の鳴くような声で告げ、もう一回身体を密着させる。
 これはある種の、別れの挨拶……。この子は今から、かなり危険な何かをやろうとしているらしい……。

「……………………よっし、満足したぜよ。師匠、レミア先生、シズナ先生、行ってきます」

 彼女は俺らに微苦笑を浮かべ、そのあと時間をかけてだ……。寒上さんの右横に立った。

「ツララ先生、ワープしよう。長居したら決意が鈍るき――いかんいかん、そうやったそうやった」
「勇者様? どうされました?」
「ここでワシが抜けたら、護衛が二人になってしまうがよ。ワシの代わりを遣して貰えるかえ?」

 フュル……っ。こんな時でも、俺を案じてくれるのかよ……!

「只今から調節をすれば、そうですね。どの英雄様が担当されるか定かではありませんが、明日には可能です」
「そっか、それなら大丈夫そうやにゃぁ。じゃあヨロシク頼むぜよ」
「はい、畏まりました。……では、勇者様」

 寒上さんが、服の下からブルーのペンダント――転移補助アイテムを取り出す。

「行動は、一秒でも早い方がえいきね。…………師匠に先生、江戸に行ってくるぜよ」

 彼女は沈黙したのち懸命に戯れ、秘書とともに転移。龍馬に憧れる英雄の少女は、魔法陣を潜って元の世界に戻っていった。

「にゅむむ、フュルちゃん大変そー……。なにが起きてるのかなぁ……?」
「私には『遠見』があるのだけれど、抱き締められた時に『見んといて』と頼まれたの。私達が知る手立てはないわ」
「……つーことはやっぱし、あれか。ここで応援して、帰還を待つことしか出来ないんだね」

 俺は顔を歪めて嘆息し、ついさっきまで勇者魔法使いがいた地点を見つめる。
 そして。心の中で、


 ――魔王使いではなく魔法使いになれてたら、協力できてたのかな?


 こんな風に呟き、登校の準備を始めたのだった。
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登場人物紹介

色紙優星 16歳の少年


高知県生まれの主人公。

リリウという神様の聞き間違えで魔王使いになってしまい、おまけに『究極奥義』と呼ばれる力を何個も持ってしまった高校生。優しく他人想いなのだが、彼はとあるセンスが全くないのであった……。

黒真レミア 16歳の少女


魔王、でありながら伝説の勇者の能力を持つ。冷徹でクールな容姿と声音を持つ美少女だが、性格はほわほわでお子ちゃま。『にゅむ』という独特な言葉を多用し、時にはにゅむのみで会話を行おうとする。例「にゅむーむ。にゅむ。にゅむりん」。

なお愛用の武器である聖剣は魔王の天敵であるため、使うと痺れる。

金堂フュル 16歳の少女


伝説の勇者、でありながら伝説の魔法使いの能力を持つ。元気一杯の猫っぽい女の子で、高知県の英雄・坂本竜馬の大ファン。そのせいで『ぜよ』と中途半端に覚えた土佐弁を使い、主人公のことは『師匠』、仲間のことは名前のあとに『先生』とつけて呼ぶ(例えばレミアの場合はレミア先生)。

なかなかにおバカな女の子。

虹橋シズナ 17歳の少女


伝説の魔法使い、でありながら魔王の能力を持つ。大和撫子然とした容姿を持つ美少女であり、主人公の義理の従妹。

重度の怒られ好き。

とにかく変で厄介で面倒くさい人。

茶操ユニ 18歳の少女


伝説のドールマスター、でありながら伝説のプリーストの能力を持つ。キグルミ族という一族の人間で、閉園したテーマパークのキャラクター・二足歩行ウサギの着ぐるみを着ている。口癖は、ミョン。

実はお笑いにうるさく、親戚は某有名人。

プリースト神 年齢不明


茶操ユニが持つプリーストの杖に宿る、プリーストの神様。

実は……。

橙式エイリ 14歳の少女


伝説のモンスターテイマー、でありながら伝説の召喚士の能力を持つ。所謂スケバン然とした容姿と声を持つが、グループ最年少の中学生でみんなの妹的存在。でもレミアやフュルよりずっとまともで、ヤツらの方が妹的存在な気がする。

野菜が大好きで、とても詳しい。

タンザ・クー 年齢不明


橙式エイリの召喚獣で、俳句世界(はいくわーるど)の王女。

タンザが姓で、クーが名。

二万年後に、地球の傍に誕生する世界からやって来た。


色紙育月 16歳の少女


高知県大豊町在住の、優星の従妹。中学卒業と同時に本格的にピーマンの生産を始め、今ではテレビの取材を受けるほどになっている。


薄幸の美少女然とした容姿と、従兄想いの優しい性格が自慢の従妹です! by色紙優星

謎の声 年齢不明


優星にだけ聞こえる、不思議な声。

なぜか正体を明かそうとしない。

リリウ 神様


願いを聞き間違えて、優星を魔王使いにしてしまった神様。

神様の世界で流行しているゲームに夢中で、神様のお仕事はほとんどしない。

とってもダメな、神様(?)な神様。

麗平活美 16歳の少女


ストロベリーブロンドのドリルヘアーが特徴の、優星のクラスメイト。

お嬢様然とした容姿で気品があるように見えるが、非常に活発。実は……。

空霧雲海 16歳の少年


頼れる兄貴系の容姿と性格を持つ優星の同級生であり、悪友であり、重度のオタク。

作中に登場する名曲(迷曲)を作った人。

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