信愛

文字数 1,263文字

 銀河系の中央星域に生まれし種族アドラメレクは、自らの混成種族としての特性を活かして異種族心理分析の第一人者となり、発展途上種族の文明発展支援に手腕を発揮せり。同種族はその功績により量子頭脳への人格転移(マインドアップローディング)を裁可され、高度演算・共有人格形成能力を獲得せり。

 アドラメレクは気紛(きまぐ)れなるも天才肌の、巨鳥に似たる〝金色(こんじき)の種族〟と、壮健にして実直な、騾馬(らば)に似たる〝褐色の種族〟が、同一惑星上において文明を共有せる種族なり。ゆえに彼女の共有分離個体は、虹色に輝く毛並(けなみ)天馬(ペガサス)に似た優美なる形態を有し、その芸術的なまでに見事なる文明支援技法とも相俟(あいま)ちて、彼女に〝美麗公〟の別名を得しめたり。

 その後彼女は、銀河系外周星域の監視のために旧帝国政府が選任する、副長官として派遣せられたり。同星域は、かつて大規模な戦争により併合されしがゆえに反帝国感情の強き、非酸素・非炭素系種族の居住領域なり。

 然し彼女は、外周種族の長ベールもまた、多種族からなる天然の集合意識生物なることに着目せり。ベールは、巨大な液化気体惑星において増殖せる藻類(そうるい)が、他の生物も生息可能な巨大浮遊大陸を形成し、共有神経網を提供することによりて誕生せる種族なり。彼女はベールがそれゆえに、傘下(さんか)の種族を統御しつつも慈母の如く愛し、育み、導くことを本能とせる、いわば最も〝神〟に近き種族なることを見出(みいだ)せり。

 アドラメレクはベールのために、文明発展に応じたる社会の分権化を提言し、ベールとその姉妹種族の社会的活動効率を増進せり。彼女はまた、酸素・炭素系少数種族との融和政策を推進し、巨大惑星移動用に軌道配置・複数併用型の亜空間駆動装置を開発するなど、外周星域の近代化に多大なる貢献を果たしたり。

 彼女の誠意と功績に、ベールもまた全幅(ぜんぷく)の信頼を以て応えたり。〝銀河系内戦〟において、旧帝国中枢種族のひとつガルガリエルが、外周星域を略奪すべく侵攻を開始せる際も、ベールは彼女の進言に基づきて、新帝国陣営に参加せり。

 当時外周星域を訪問中の新皇帝は、腹心アスモデウスと共に、自身の可動母星を(おとり)として中枢種族の艦隊を誘引せり。ガルガリエルの可動要塞惑星を中心とする艦隊は、彼女達に向けて殺到せり。要塞惑星の眼前に、アドラメレクの母星自ら随伴誘導(ずいはんゆうどう)せる高重力暗黒天体(ブラックホール)が、何の前兆もなく、数千の亜空間跳躍の(きらめ)きと共に出現したる時、〝外周星域の戦い〟は事実上終結せり。

 戦後ベールは、同星域の自主的な新帝国への加盟を宣言し、アドラメレクは帝国史上初の、長官指名による副長官として再任せられたり。

 〝光輝帝(ルシファー)〟サタンは広範なる自治権の承認と、さらなる先進技術の提供を以てこれに報い、ベールは後に、永年に渡る中央・外周星域の対立を終わらせし〝偉大王〟の別名を得たり。
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