寝落ちしたらゲームの中でした
文字数 2,602文字
モンスターにつつかれて目が覚めた。
「うわっ!」
「キュ?」
首を何度も傾げ、不思議そうに見つめてくる相棒(小型鳥系モンスター)。どうやら彼が犯人らしい。
「あ~。起こしてくれたのか、ありがとう」
「キュイ!」
頭を撫でながら、とりあえずお礼を言う。
「よし」
立ち上がり、クエストを確認する。良かった、採取のち納品だ。足りない分は他のエリアに採りに行くとして、問題はモンスター出現予想だが……。おい待て。これ乱入あるやつじゃんか。しかも今、隣のエリアにモンスターいるし。だから、このゲームで寝落ちするなとあれほど。この装備で戦えると思ってるのか。……過去の自分へ色々言いたいことはあるが、とりあえず一つ言いたい。
寝る前のゲーム禁止!
気を取り直し、エリア移動しようとキュウイ(食べ物ではなく、相棒)に乗ろうとした時、BGMが急に変わった。
過去の経験から鳥肌がたつ。思わず呼吸が早くなる。鼓動が早い。わざわざ振り向いて確認する必要はない。俺たちの背後にある、エリア出入り口に奴がいる。
「キュウイ、一時撤退!」
「キュイ!」
走って逃げる時間はない。気づかれる前に、さっさとクエストリタイヤだ。
*
「おやおや。それは大変だったねぇ」
「納品クエだったんですけど、無理なんで即刻帰還しました」
相づちを打ちながら話を聞いてくれたのは、同じく閉じ込められたギルドの先輩だった。
この状況について、少し簡単に説明しよう。この街に雷の神様が落ちてきた日を境に、このゲームで大量のバグ(虫じゃなくて不具合)が発生するようになった。
元はオンライン対応のアクションゲームなのだが、「ゲーム起動中に寝ると閉じ込められる」バグがなぜか発生し、数百人のユーザーがその被害にあった。寝落ちしたらゲームの中とか、何をどうしたらそうなるんだか。このゲームと連携するアバター作成アプリでも、ツッコミどころ満載なバグが発生している。対処方法が判っているものも多いのでユーザーはそれほど混乱していない。むしろ楽しんでいる。……まぁ、俺も楽しんでるうちの一人だが。ちなみに「ゲーム起動中に寝ると閉じ込められる」不具合は、ゲーム内のベットで寝ると現実に戻れる。ご都合主義とか言われても困る。そういう設定なのだから仕方ない。文句は俺に言わないでくれ。
「えっと、つまり、まとめるとこうかな。すでに出現していモンスターの他に、奴が出たと。ちなみに運営に報告は?」
「やっておきました」
奴が出現したフィールドは調査のためしばらく封鎖される。
奴。それはこのゲーム世界における災害級のモンスター。
元は上級者向けの大型モンスターなのだが、一連のバグ事件以降なぜか初~中級者向けのクエストにも出現するようになった。開発者が詳しい原因を調べているらしい。噂によると、どうやらプログラムが書き換えられているそうだ。
「そういう訳で、やることないので一回帰ります。昼には戻ります」
「ん。ゆっくりしてきな。その間、キューちゃんの世話は任せろ。あたしがログアウトする時は拠点に預けておく」
「助かります。あ、でも装備品で遊ぶのはやめてください。今のセット登録してないんで」
さて、そろそろ起きるとしようか。
*
「うぉ」
我ながら変な声で目が覚めた。まだ夜中なのだろう、部屋の中は全体的に暗い。唯一の明かりは机の上にあるライトだけだ。
変な体勢……椅子に座ったまま寝ていたからか、首と肩、ついでに腰も痛い。
体を起こし、時計を見た。夜中の二時過ぎだった。
放置しすぎてスリープ状態になった携帯ゲーム機の電源スイッチを軽く押し、無事にタイトル画面になっているかを確認。ゲームを終了させ、ホームに戻り電源オフ。寝落ちした後、起きたら必ずこなす流れ作業。これを忘れると、使いたい時に電源がないことがあり、少し焦る。
よし、今度こそ普通に寝よう。
*
……二度寝から目覚めたら、すでに九時近かった。今日が休みで良かった。
とりあえず今日のやることを確認。
午前は朝飯に洗濯物、あと掃除。午後は買い物、そしてログイン。さすがに今回は寝ない。果たして、先輩はキュウイの装備をそのままにしてくれているのか。それだけが心配だ。
「キュ~! キュ!」
「お~。何言ってるか分からん」
久しぶり(俺にしてみれば半日、キュウイにしてみれば十二日振り)に会ったらめっちゃつつかれた。ちょっと痛い。
「あ、お帰り。いや~、キューちゃんすごいね。アイテム発見率高いから超便利。おかげでフィールドの採取ポイントマップ完成したわ」
先輩には事前にログインするだいたいの時間を伝えていたので、先に待っていたようだ。
「ああ、こいつには『好奇心』と『嗅覚』、あと『逃げ足』スキルしか付けてないんで」
「何その『探索専用』みたいなスキル一覧。どうりで、隣に大型いるエリアで落ち着きなかった訳ね」
「てか、ステ確認してないんですか」
「ちらっとは見たけどね。忘れた」
「ついでに言うと、この三つにスキルポイント全振りしてます」
おかげでスキルのレベルがカンストした。余った分は体力や防御力のほうに回している。勝てない相手には挑まず、逃げるが勝ちだ。
「せめて『呼び声』とかも付けたげて。救援くるよ」
「あ~、俺、マルチでの狩り苦手なんですよね。知らない人とガチ勢が恐くて」
「なるほど。それで狩猟系は固定メンバーのみにしてんのね」
「他の人のプレイ見るのは好きなんですけど、攻撃に巻き込まれたり、失敗して怒られるのは嫌ですね」
「分かる」
その他も色々と雑談をして、ゲーム内での一日が終わった。
「あ、そうだ。ポイント交換で新しい頭部装備もらってきたんだった」
「またネタ装備ですか」
「当ったり~。今回はね、なんとラジオ型」
このゲームの世界に、ラジオという概念があるのかどうかというツッコミはしていいのか? まぁ、動物以外の何かしらの通信手段はあるとは思うけれど。
「これ被って実況やりたい。スーツ装備が一式あるし。異形頭っていったらスーツでしょ」
「そういえば、異形頭ってスーツのイメージありますね」
先輩が実況主として活躍するのは、また別の話。
「うわっ!」
「キュ?」
首を何度も傾げ、不思議そうに見つめてくる相棒(小型鳥系モンスター)。どうやら彼が犯人らしい。
「あ~。起こしてくれたのか、ありがとう」
「キュイ!」
頭を撫でながら、とりあえずお礼を言う。
「よし」
立ち上がり、クエストを確認する。良かった、採取のち納品だ。足りない分は他のエリアに採りに行くとして、問題はモンスター出現予想だが……。おい待て。これ乱入あるやつじゃんか。しかも今、隣のエリアにモンスターいるし。だから、このゲームで寝落ちするなとあれほど。この装備で戦えると思ってるのか。……過去の自分へ色々言いたいことはあるが、とりあえず一つ言いたい。
寝る前のゲーム禁止!
気を取り直し、エリア移動しようとキュウイ(食べ物ではなく、相棒)に乗ろうとした時、BGMが急に変わった。
過去の経験から鳥肌がたつ。思わず呼吸が早くなる。鼓動が早い。わざわざ振り向いて確認する必要はない。俺たちの背後にある、エリア出入り口に奴がいる。
「キュウイ、一時撤退!」
「キュイ!」
走って逃げる時間はない。気づかれる前に、さっさとクエストリタイヤだ。
*
「おやおや。それは大変だったねぇ」
「納品クエだったんですけど、無理なんで即刻帰還しました」
相づちを打ちながら話を聞いてくれたのは、同じく閉じ込められたギルドの先輩だった。
この状況について、少し簡単に説明しよう。この街に雷の神様が落ちてきた日を境に、このゲームで大量のバグ(虫じゃなくて不具合)が発生するようになった。
元はオンライン対応のアクションゲームなのだが、「ゲーム起動中に寝ると閉じ込められる」バグがなぜか発生し、数百人のユーザーがその被害にあった。寝落ちしたらゲームの中とか、何をどうしたらそうなるんだか。このゲームと連携するアバター作成アプリでも、ツッコミどころ満載なバグが発生している。対処方法が判っているものも多いのでユーザーはそれほど混乱していない。むしろ楽しんでいる。……まぁ、俺も楽しんでるうちの一人だが。ちなみに「ゲーム起動中に寝ると閉じ込められる」不具合は、ゲーム内のベットで寝ると現実に戻れる。ご都合主義とか言われても困る。そういう設定なのだから仕方ない。文句は俺に言わないでくれ。
「えっと、つまり、まとめるとこうかな。すでに出現していモンスターの他に、奴が出たと。ちなみに運営に報告は?」
「やっておきました」
奴が出現したフィールドは調査のためしばらく封鎖される。
奴。それはこのゲーム世界における災害級のモンスター。
元は上級者向けの大型モンスターなのだが、一連のバグ事件以降なぜか初~中級者向けのクエストにも出現するようになった。開発者が詳しい原因を調べているらしい。噂によると、どうやらプログラムが書き換えられているそうだ。
「そういう訳で、やることないので一回帰ります。昼には戻ります」
「ん。ゆっくりしてきな。その間、キューちゃんの世話は任せろ。あたしがログアウトする時は拠点に預けておく」
「助かります。あ、でも装備品で遊ぶのはやめてください。今のセット登録してないんで」
さて、そろそろ起きるとしようか。
*
「うぉ」
我ながら変な声で目が覚めた。まだ夜中なのだろう、部屋の中は全体的に暗い。唯一の明かりは机の上にあるライトだけだ。
変な体勢……椅子に座ったまま寝ていたからか、首と肩、ついでに腰も痛い。
体を起こし、時計を見た。夜中の二時過ぎだった。
放置しすぎてスリープ状態になった携帯ゲーム機の電源スイッチを軽く押し、無事にタイトル画面になっているかを確認。ゲームを終了させ、ホームに戻り電源オフ。寝落ちした後、起きたら必ずこなす流れ作業。これを忘れると、使いたい時に電源がないことがあり、少し焦る。
よし、今度こそ普通に寝よう。
*
……二度寝から目覚めたら、すでに九時近かった。今日が休みで良かった。
とりあえず今日のやることを確認。
午前は朝飯に洗濯物、あと掃除。午後は買い物、そしてログイン。さすがに今回は寝ない。果たして、先輩はキュウイの装備をそのままにしてくれているのか。それだけが心配だ。
「キュ~! キュ!」
「お~。何言ってるか分からん」
久しぶり(俺にしてみれば半日、キュウイにしてみれば十二日振り)に会ったらめっちゃつつかれた。ちょっと痛い。
「あ、お帰り。いや~、キューちゃんすごいね。アイテム発見率高いから超便利。おかげでフィールドの採取ポイントマップ完成したわ」
先輩には事前にログインするだいたいの時間を伝えていたので、先に待っていたようだ。
「ああ、こいつには『好奇心』と『嗅覚』、あと『逃げ足』スキルしか付けてないんで」
「何その『探索専用』みたいなスキル一覧。どうりで、隣に大型いるエリアで落ち着きなかった訳ね」
「てか、ステ確認してないんですか」
「ちらっとは見たけどね。忘れた」
「ついでに言うと、この三つにスキルポイント全振りしてます」
おかげでスキルのレベルがカンストした。余った分は体力や防御力のほうに回している。勝てない相手には挑まず、逃げるが勝ちだ。
「せめて『呼び声』とかも付けたげて。救援くるよ」
「あ~、俺、マルチでの狩り苦手なんですよね。知らない人とガチ勢が恐くて」
「なるほど。それで狩猟系は固定メンバーのみにしてんのね」
「他の人のプレイ見るのは好きなんですけど、攻撃に巻き込まれたり、失敗して怒られるのは嫌ですね」
「分かる」
その他も色々と雑談をして、ゲーム内での一日が終わった。
「あ、そうだ。ポイント交換で新しい頭部装備もらってきたんだった」
「またネタ装備ですか」
「当ったり~。今回はね、なんとラジオ型」
このゲームの世界に、ラジオという概念があるのかどうかというツッコミはしていいのか? まぁ、動物以外の何かしらの通信手段はあるとは思うけれど。
「これ被って実況やりたい。スーツ装備が一式あるし。異形頭っていったらスーツでしょ」
「そういえば、異形頭ってスーツのイメージありますね」
先輩が実況主として活躍するのは、また別の話。