ヤドナシ

文字数 2,771文字

ここはヤドナシさんの執筆スペース!

悪戯したら取り憑かれちゃうぞ!

ねえ……本当にここにユメがいるの?
うん、間違いない……はずだよ。
一年前、小学校の頃から由紀と仲の良かったユメが失踪した。私が二人と知り合ったのは中学生の頃だ。小さい頃に魔人として覚醒した私は、昔からあまり周りの人と馴染むことができなかった。でも、同じ魔人として覚醒した二人と仲良くなってからは学校も楽しく過ごせたのだ。それなのに……

yomogi

今度こそ、見つけるからね……ユメ。
もう……一年経つもんね。
ユメはある晩、由紀と他の数人の友達と一緒に公園で遊んでいたとき、気がつくといなくなっていたと言う……それから警察にも探偵にも彼女を探してもらったけれど、誰一人見つけられた者はいなかった。

yomogi

私のヒューマンナビでもユメを見つけられなかったけど……今日ようやく、ユメのいる場所が見えたんだよ……ここに間違いない。きっとユメはいる!
そう、由紀が持つ魔人の能力は、彼女が行きたいと思った場所へ行く方法が分かる能力だ。本来なら、「ユメのところへ行きたい」と彼女が願えば、ユメのいる場所までの地図が由紀の頭の中に浮かんでくるはずだった。それなのに、彼女は毎日能力を使っても、どうしても地図を見ることができなかったと言う。

yomogi

能力を使ってユメのいる場所を見ようとすると……あの日見た「何か」が頭の中に出てきそうになるの。それが何か気になってどうしても地図が見れないんだけど、今日はやっとユメのいる場所が見えたんだ。
それが……ここなんだね。
私は暗くなった空の下で、目の前にある人気のないアパートを見上げる。来月取り壊しがされている小さな建物だ。この中に……ユメがいる。

yomogi

鍵は、空いてるのかな……?
ヒューマンナビで調べてみたけど、どの部屋も問題なく入れるよ。きっとこれから取り壊し業者の人が入るから、そのまま開けっ放しになってるんだと思う……。
そういうものかな……取り壊し前でも勝手に人が入らないように、もうちょっと何かしていてもおかしくなさおうだけど……私は少し引っかかりながら、由紀と一緒に建物の中へ進んだ。

yomogi

あった、この部屋……
「13号室」
不吉な数字の書かれたドアの前で、私と由紀は思わず顔を見合わせた。ゴクリと唾を飲んで、ギィイイイ……と古びたドアを開ける。

yomogi

ゆっ、ユメ……いるの?
ユメちゃん、私と由紀だよ……いるなら返事して。
私と由紀は、思ったよりも喉が震えて大きな声が出なかった。部屋はシンっと静まり返っていて、人の気配なんてどこにもない。だけど……「何か」がこっちを見ているような、そんな不吉な気配が感じられた。

yomogi

ガチャンッ!

yomogi

ひゃっ!
えっ!
突然の物音に、私と由紀は同時に振り返る。そこにはやっぱり人なんていない。由紀の姿はどこにもない……ただ、そこにはよく目にするものが転がっていた。

yomogi

えっ……卵?
誰も住んでいる気配なんてないのに、どうして卵なんてあるんだろう……それも一つや二つではない。部屋のあちこちにいくつも卵が落ちていたのだ。

yomogi

ひっ……えっ……どうなってるの?
……由紀?
由紀の様子がどこかおかしい……確かに、こんなにたくさんの卵が無人の部屋に落ちているのは不思議だけれど、それにしても何だか怯え方が妙だった。

yomogi

ギュッと私の袖にしがみついた由紀は、「ごっ、ごめん。ちょっと取り乱した」と言って、すぐに部屋の隅々を探し始めた。私もとりあえずユメの姿が本当にどこにもないのか、一緒に台所やトイレの方にも行ってみた。だけど、あるのは卵だけだ……

yomogi

卵しかない……ね。何か、この卵妙に不気味だけど、普通の鶏の卵だよね?
そうだと思うけど……由紀、どうかしたの?
私は試しに卵を一つ拾い上げて、そっと両手で包んでみた。どんな因縁か、私は触れた卵を一瞬で孵らせるという能力を持った魔人だ。ユメがどこにいるのか分かるヒントになるとは思えないけど、とにかく何かやらずにはいられなかった。

yomogi

クイック・インキュベーター……
もう一度床の上に置いた卵を、私と由紀でじっと眺める。すると、パキンッと音がした。

yomogi

卵が割れる……中から黄色いものがチラッと見える。やっぱり、普通の鶏の卵だ。きっと可愛らしいヒヨコが出てくるのだろう……そう思っていたとき、完全にパカリと割れた卵から出てきたものを見て、私は唖然としてしまった。

yomogi

えっ……生卵?
フウカの能力って、触れた卵を孵化させるんじゃ……
中身を見た瞬間、ますますグッと私にくっつく由紀の声が震えている。もしかしたら、私が触れる前にどこかヒビが入っていたのかもしれない。私の能力は割れてしまった卵には効かないから、それなら分かる。だけど……卵を見た由紀の怯え方は、少し異様だった。

yomogi

由紀……大丈夫? きっともともと割れてただけだよ。
あっ、あのね……私、ユメが公園でいなくなった日、確かに「何か」見たんだけどそれが思い出せないってずっと言ってたでしょ……
うっ、うん……
あれね……今やっと思い出したの。
黄色くて、透明なぶよぶよに包まれて、ゆっくり私たちの方へやってきて……ユメだけ飲み込んでどっか行っちゃったって……
そんなわけがない。生卵が人を飲み込むなんて、そんなわけが……

yomogi

フウカ、これ全部踏んじゃおう。出てくる前に!
そう言うと、彼女はすごい勢いで床に転がっていた卵を踏み始めた。グチャグチャと、生々しい独特の匂いを出しながら辺り一面割れた卵でいっぱいになる。

yomogi

どうしたの、由紀!? ただの卵だよ? 私が触ってなきゃ孵化しないし……
実際、他の卵は普通のものと何も変わらない……外に出されたまま何日も放置されていたせいか、ちょっと腐ったような嫌な匂いがしている。けれど、彼女は結局他の卵を全部踏み潰すまでやめなかった。

yomogi

はぁ、はぁ……
床一面に、崩れた黄身と白身に混じった白い殻が広がっている。その時、私たちの背後でゾワリと何かが動く気配がした。

yomogi

ひっ!
えっ……ちっ、近づいてる?
さっき、私が触れた卵から出てきた中身が、いつの間にか私と由紀の方へ近づいていたのだ。それもおかしなことに一つではなかった。気がつくと、透明なぶよぶよに包まれた黄身がいくつも私たちの方へ向かっていたのだ。

yomogi

どっ、どうして……
その時、私は見てしまった。殻から出てきた卵の中身が、私の目の前でブクンっとうねって分裂したところを……

yomogi

フウカちゃん……最初に触った卵、きっともとから割れてたんじゃない。あれが……あれが孵化した中身なんだよ……
私ももう理解していた。今目の前にあるのは、普通の卵に見えるものから出てきた、別の何かなのだ……いくつも分裂して大量に増えた卵の中身は、今度はお互いにくっつきあって、一つの大きな黄身と白身になっていく……

yomogi

そこまでです!
やがて、殻までまとった大きな卵は、なつかしいユメちゃんの声でこう言った。

yomogi

ただいま、由紀ちゃん……

yomogi

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登場人物紹介

【名前】深沢 フウカ
【性別】女性
 いつか生物学者になりたいと思っている女子高生。
 幼い頃、フウカは道端で変わった卵を見つけた。今思うと、それは誰かの手でペイントされた卵に過ぎなかったのだが、当時の彼女には見たこともない不思議な卵に思えた。「この卵が孵化したら何が生まれてくるんだろう?」……気になったフウカは、その卵を両手に包んで「生まれておいで」と呟いてみた。その瞬間、彼女の魔人能力は覚醒し、パカっと割れた卵からヒヨコが姿を現したのだ。ただし、そのヒヨコには目がなかった……。
【能力名】クイック・インキュベーター
 触れた卵を一瞬で孵化させる能力。卵であれば無精卵であろうとゆで卵であろうと必ず孵化させることができる。ただし、割れてしまった卵は孵化させることができない。また、本来温めても孵化しないはずの卵を孵すと、生まれてきたものも何かが欠けている状態となる。
【戦う動機】身の危険を感じたから
【作者】ヤドナシ

望場 由紀(ぼうば ゆき)

女性 14歳

能力名:ヒューマンナビ
由紀が行きたいと思った場所へ行く方法がわかる能力。

例)心霊スポットのような曰くつきの場所に行きたいと思えば、頭の中に地図が浮かびあがってルートがわかるなど。

設定:小学生の頃、山の中で遭難した由紀は車のカーナビのような能力があればいいのにと妄想した。すると妄想するうちに頭の中で地図が浮かんできたのだ。

魔人能力の覚醒である。
地図の通りにルートを進むと、山のふもとの町までたどり着き、助かった。

その後、しばらくは平穏だったが、1年前、公園で仲の良い友人であるゆめやその他の友人達と遊んでいるときに、突如、ゆめが居なくなってしまった。 

後日、ゆめを探したが、みつかることはなかった。

由紀はゆめが居なくなった日、何かをみた。何かは思い出せないが、何かが起こったのだ……。
由紀はゆめのことを探し続けている。

動機:ゆめに会いたいから。


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作者:榎本レン

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